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第18章 幸せの定義
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お孝の出産の立ち合いのために、屯所に戻るのは十日ぶりのことだった。
時折、女中達に献立を指示したり食料の調達のために屯所の台所に寄ることはあっても、
土方の部屋や幹部の出入りする部屋に立ち寄ることはなかった。
「副長、薫です。」
中からいつものように土方の素っ気ない声が聞こえて障子を開けた。
今日は珍しく袴着姿ではなく、着流し姿で羽織を羽織っている。
「不在の間ご迷惑をおかけしました。」
「お孝は無事か。」
「無事にお七夜も済ませて落ち着いたので戻ってきました。」
「そうか。」
折角戻って来たのにどこか余所余所しい。
文机に向かったままでこちらを見ようとしない土方の顔を薫は前のめりで覗き込んだ。
「な、なんだよ。」
「何かありました?」
「あるわけねえだろう。」
目を合わさないあたり、何かやましいことがあるに違いない。
女の勘が働いた薫は眉間にしわを寄せて土方を睨む。
「島原ですか?それとも祇園?」
「うるせえ!俺がどこへ行こうが俺の勝手だろう!」
とうとう土方が怒鳴り声を上げて立ち上がった。
外に出ようと土方が障子を勢いよく開けると、部屋の前には好奇心に満ち溢れた男が三人立ちふさがっていた。
「土方さん、北野の君菊を落籍せたってのは本当かい!?」
「さすが、土方さん!隅に置けねえや!」
「ややまでこさえちまってよぉ!」
永倉、原田、藤堂の明るい声が弾む。
後ろには土方を睨みつける薫。
土方は八方ふさがりの状態に陥った。
「やや?」
今まで聞いたこともないような尖った薫の声。
「おめえらぁ…。」
土方の凄みの効いた声に三人はようやく状況を理解したらしい。
「どうしたんだよ、土方さん。」
「お、おい、左之助!う、後ろ…。」
「い、い、い、今の話は冗談だから、冗談!ね、永倉さん!」
「お、お、おぉ。そうだ、悪い冗談だ。けえるぞ、左之助!」
「お前らぁあ!!」
土方の後ろに佇む薫の姿を捉えると、土方の怒りをよそに三人は先ほどまでの威勢虚しく飛ぶように逃げた。
「北野ですか。」
恐る恐る土方は薫の方に向き直ると、般若のように怖い顔をした薫が立っていた。
腹をくくったのか土方はため息をついて、そうだよとぶっきらぼうに答えた。
「やや、ってどういうことですか。」
「どうもこうも、子ができたってことだ。」
「ふーん、そう。」
まあ別に、私に関係のないことだし?
旦那でも彼氏でもないし?
ただの上司と部下…だし。
なのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。
お孝ちゃんと近藤先生の仲睦まじい姿を見たときと同じ、どす黒い何かが薫の心に沈殿していく。
薫、と土方が名前を呼んで、薫の手を握ろうとしたとき、薫は思わず声を荒げた。
「触らないで!」
「そうかよ。…そんなに嫌なら出て行けよ。」
「そうします。」
売り言葉に買い言葉。
薫は先ほどまで手にしていた荷物の入った風呂敷を掴むと、部屋を飛び出す。
「勝手にしろ!」
開けっ放しにした障子の奥から土方の怒号が聞こえたが、薫は見向きもせず屯所を後にした。
時折、女中達に献立を指示したり食料の調達のために屯所の台所に寄ることはあっても、
土方の部屋や幹部の出入りする部屋に立ち寄ることはなかった。
「副長、薫です。」
中からいつものように土方の素っ気ない声が聞こえて障子を開けた。
今日は珍しく袴着姿ではなく、着流し姿で羽織を羽織っている。
「不在の間ご迷惑をおかけしました。」
「お孝は無事か。」
「無事にお七夜も済ませて落ち着いたので戻ってきました。」
「そうか。」
折角戻って来たのにどこか余所余所しい。
文机に向かったままでこちらを見ようとしない土方の顔を薫は前のめりで覗き込んだ。
「な、なんだよ。」
「何かありました?」
「あるわけねえだろう。」
目を合わさないあたり、何かやましいことがあるに違いない。
女の勘が働いた薫は眉間にしわを寄せて土方を睨む。
「島原ですか?それとも祇園?」
「うるせえ!俺がどこへ行こうが俺の勝手だろう!」
とうとう土方が怒鳴り声を上げて立ち上がった。
外に出ようと土方が障子を勢いよく開けると、部屋の前には好奇心に満ち溢れた男が三人立ちふさがっていた。
「土方さん、北野の君菊を落籍せたってのは本当かい!?」
「さすが、土方さん!隅に置けねえや!」
「ややまでこさえちまってよぉ!」
永倉、原田、藤堂の明るい声が弾む。
後ろには土方を睨みつける薫。
土方は八方ふさがりの状態に陥った。
「やや?」
今まで聞いたこともないような尖った薫の声。
「おめえらぁ…。」
土方の凄みの効いた声に三人はようやく状況を理解したらしい。
「どうしたんだよ、土方さん。」
「お、おい、左之助!う、後ろ…。」
「い、い、い、今の話は冗談だから、冗談!ね、永倉さん!」
「お、お、おぉ。そうだ、悪い冗談だ。けえるぞ、左之助!」
「お前らぁあ!!」
土方の後ろに佇む薫の姿を捉えると、土方の怒りをよそに三人は先ほどまでの威勢虚しく飛ぶように逃げた。
「北野ですか。」
恐る恐る土方は薫の方に向き直ると、般若のように怖い顔をした薫が立っていた。
腹をくくったのか土方はため息をついて、そうだよとぶっきらぼうに答えた。
「やや、ってどういうことですか。」
「どうもこうも、子ができたってことだ。」
「ふーん、そう。」
まあ別に、私に関係のないことだし?
旦那でも彼氏でもないし?
ただの上司と部下…だし。
なのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。
お孝ちゃんと近藤先生の仲睦まじい姿を見たときと同じ、どす黒い何かが薫の心に沈殿していく。
薫、と土方が名前を呼んで、薫の手を握ろうとしたとき、薫は思わず声を荒げた。
「触らないで!」
「そうかよ。…そんなに嫌なら出て行けよ。」
「そうします。」
売り言葉に買い言葉。
薫は先ほどまで手にしていた荷物の入った風呂敷を掴むと、部屋を飛び出す。
「勝手にしろ!」
開けっ放しにした障子の奥から土方の怒号が聞こえたが、薫は見向きもせず屯所を後にした。
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