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第19章 信念と疑念
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しおりを挟む「私は暇だというのに、薫さんはお忙しそうですね。」
「沖田先生。養生するのも仕事のうちですよ。」
沖田は非番らしく、今日も薫のいる台所に遊びに来たようだ。
「だったら、薫さんが私の部屋に来て相手をしてくださいよ。
布団の上じゃ、寝る以外に何もすることがないんです。
養生というものは本当につまらない。」
「あいにく、私はそんなに暇じゃありません。」
「昼飯の片付けも終わったのでしょう?
一緒に駒回しでもいかがですか?」
「沖田先生もご存じでしょう。
西本願寺から新しい屯所に移るようにお願いされている話。」
「えぇ。西本願寺の門主様直々に新しい屯所を用意するから境内から出て行ってくれって言われたんですよね。」
「そうです。おかげさまで、私は引っ越しの準備に追われているんです。」
「だから最近、漬物やら梅干やらの壺が減っているんですね。」
いつの間にか沖田は棚にあった壺を持ち出して、梅干をつまみ食いしていたようだ。
薫が沖田を一睨みして、それが最後の梅干だと告げると、沖田は静かに壺を元の棚に戻した。
「案外梅干評判いいですからね。なくなったら皆に恨まれてしまいます。」
「そうなんですね。最近は誰も遊びに来てくれないから、そういう評判とか知らなかった。」
「なんて言ったって、般若扱いですからね、薫さんは。」
「別にいいんです。」
でも、少し寂しい。
それが薫の本音だった。
土方の右腕として活躍すればするほど、隊士は薫が土方に告げ口をする般若だと敬遠し離れていく。
それは、仕方のないことだと割り切っているつもりでも、
皆で一緒にご飯を作っていた日々はもう戻ってこないのだと思えば、やはり寂しいのだ。
女中の数を増やしてもらい、薫の負担は大分軽くなったが、薫の周りに人はいない。
「いつでも食べに来て下さいね、梅干し。」
薫はいつものように縁側に腰を下ろす沖田の方を向いて言った。
沖田もそれに答えるように、薫に微笑む。
「仕方ないな。
薫さんがそういうなら、毎日梅干食べに来ないと。
新しい屯所でも作ってくださいね。」
「勿論です。皆に喜んでいただけるなら、頑張って作ります。」
漬物石を包む風呂敷の結び目を強く握りしめて、薫は棚に置かれた梅干の壺を見上げた。
その横には藤堂がくれた祇園社のお守り袋が置かれていた。
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