維新竹取物語〜土方歳三とかぐや姫の物語〜

柳井梁

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第21章 裏切りの代償

まだ空は真っ暗で東の空がわずかに白じむ頃、薫は二人を叩き起こして、家畜の餌やりを手伝わせる。
市村は野良仕事に慣れているのか、てきぱきと仕事をこなす。
一方、田村はと言えば、早起きが苦手なのか、寝ぼけまなこで目をこすり家畜のいないところに餌を撒いては市村から拳骨を食らっていた。
家畜のえさやりが終われば、次は薪割り。
まだ幼い銀之助には斧は持たせられぬと市村は一人で小一時間ほど薪を割った。
それが終わると、二人は薫に断って道場の方へと向かっていく。
それが二人の日常になっていた。

朝から元気だな。
沖田が病気にかかってからは足が遠のいていた道場を覗いて思った。
二人は他の隊士よりも早起きをしているが、誰にも負けじと声を出す。
汗水垂らして、身体に似合わぬ木刀を振る田村に、薫は幼い頃の土方の面影を見ていた。
ー俺は武士になるー
口癖のように、自分の体よりも長い木刀を毎日振り回していた。
市村も田村も数年後には小憎らしい大人の男になってしまうのかと思うと、少し寂しい気がした。
「何を見てる。」
真後ろから土方の声が降り注ぐ。
いつもは書類仕事で缶詰の土方も時には道場に顔を出して汗を流しているようだ。
「市村と田村の様子を身に来ました。」
「そうか。」
「小さい時の歳三さんに似てませんか。ほら、田村が一生懸命木刀振ってる姿とか。」
薫はいたずらっぽく笑いながら田村を指さして土方を見上げた。
土方はふん、と鼻で一蹴すると、薫の横をすり抜けて道場の中へ入っていった。
「田村ァ!もっと腰入れろ!そんなんでへばるな!」
「は、はい!」
どうやら私は余計なことを口にしたらしい。
土方はいつも以上に田村と市村を可愛がっている様子だった。

「あはは、土方さんも大人げないな。」
今日の道場で見かけた話を沖田にすると、そんな返事が返ってきた。
「土方さんは薫さんが田村君や市村君に目をかけているから、嫉妬したんでしょう。」
「そんな十二、三の子供に対抗意識を向けますかね。」
「向けるんだなあ。それが。」
江戸の試衛館時代、沖田が元服する前の土方との思い出を話してくれた。
「私が試衛館に入りたての頃、近藤さんにべったりだったものだから、土方さんは近藤さんを取られると思ったのか、対抗意識を向けてきましてね。当時はまだ私が剣を習いたてだったのもあって、毎日ボコボコにされてましたよ。」
「ええ、大人げない!」
「でしょう。でも、一年も経つと私の方が腕が立つようになって、土方さんを返り討ちにしてましたけどね。」
ふふふ、と笑う沖田。
土方を返り討ちにして笑顔を浮かべられる人は、恐らくこの世に沖田ぐらいしかいないだろう。

「薫さん、お客様が来てます。」
赤子を抱いたお孝が部屋の障子越しに声をかけた。
薫は、沖田に見てきますねと一言添えて立ち上がり、客間へ向かう。
客間には、思わぬ客人が部屋の中央に腰を下ろしていた。
「さ、齋藤先生。」
「久しいな。」
薫が現れても、齋藤は眉一つ微動だにしない。
「こんなところに来ても大丈夫なんですか。」
「屯所の敷居を跨げぬ故、ここに来た。土方さんを呼んで来てはくれないか。」
無表情で淡々と告げる齋藤の依頼に、薫は深くうなづいてすぐさま屯所に戻り、土方に事の次第を伝えた。
土方は薫の報告を聞くや否や、着の身着のままで近藤の私宅へ向かっていった。
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