154 / 156
第21章 裏切りの代償
5
まだ空は真っ暗で東の空がわずかに白じむ頃、薫は二人を叩き起こして、家畜の餌やりを手伝わせる。
市村は野良仕事に慣れているのか、てきぱきと仕事をこなす。
一方、田村はと言えば、早起きが苦手なのか、寝ぼけまなこで目をこすり家畜のいないところに餌を撒いては市村から拳骨を食らっていた。
家畜のえさやりが終われば、次は薪割り。
まだ幼い銀之助には斧は持たせられぬと市村は一人で小一時間ほど薪を割った。
それが終わると、二人は薫に断って道場の方へと向かっていく。
それが二人の日常になっていた。
朝から元気だな。
沖田が病気にかかってからは足が遠のいていた道場を覗いて思った。
二人は他の隊士よりも早起きをしているが、誰にも負けじと声を出す。
汗水垂らして、身体に似合わぬ木刀を振る田村に、薫は幼い頃の土方の面影を見ていた。
ー俺は武士になるー
口癖のように、自分の体よりも長い木刀を毎日振り回していた。
市村も田村も数年後には小憎らしい大人の男になってしまうのかと思うと、少し寂しい気がした。
「何を見てる。」
真後ろから土方の声が降り注ぐ。
いつもは書類仕事で缶詰の土方も時には道場に顔を出して汗を流しているようだ。
「市村と田村の様子を身に来ました。」
「そうか。」
「小さい時の歳三さんに似てませんか。ほら、田村が一生懸命木刀振ってる姿とか。」
薫はいたずらっぽく笑いながら田村を指さして土方を見上げた。
土方はふん、と鼻で一蹴すると、薫の横をすり抜けて道場の中へ入っていった。
「田村ァ!もっと腰入れろ!そんなんでへばるな!」
「は、はい!」
どうやら私は余計なことを口にしたらしい。
土方はいつも以上に田村と市村を可愛がっている様子だった。
「あはは、土方さんも大人げないな。」
今日の道場で見かけた話を沖田にすると、そんな返事が返ってきた。
「土方さんは薫さんが田村君や市村君に目をかけているから、嫉妬したんでしょう。」
「そんな十二、三の子供に対抗意識を向けますかね。」
「向けるんだなあ。それが。」
江戸の試衛館時代、沖田が元服する前の土方との思い出を話してくれた。
「私が試衛館に入りたての頃、近藤さんにべったりだったものだから、土方さんは近藤さんを取られると思ったのか、対抗意識を向けてきましてね。当時はまだ私が剣を習いたてだったのもあって、毎日ボコボコにされてましたよ。」
「ええ、大人げない!」
「でしょう。でも、一年も経つと私の方が腕が立つようになって、土方さんを返り討ちにしてましたけどね。」
ふふふ、と笑う沖田。
土方を返り討ちにして笑顔を浮かべられる人は、恐らくこの世に沖田ぐらいしかいないだろう。
「薫さん、お客様が来てます。」
赤子を抱いたお孝が部屋の障子越しに声をかけた。
薫は、沖田に見てきますねと一言添えて立ち上がり、客間へ向かう。
客間には、思わぬ客人が部屋の中央に腰を下ろしていた。
「さ、齋藤先生。」
「久しいな。」
薫が現れても、齋藤は眉一つ微動だにしない。
「こんなところに来ても大丈夫なんですか。」
「屯所の敷居を跨げぬ故、ここに来た。土方さんを呼んで来てはくれないか。」
無表情で淡々と告げる齋藤の依頼に、薫は深くうなづいてすぐさま屯所に戻り、土方に事の次第を伝えた。
土方は薫の報告を聞くや否や、着の身着のままで近藤の私宅へ向かっていった。
市村は野良仕事に慣れているのか、てきぱきと仕事をこなす。
一方、田村はと言えば、早起きが苦手なのか、寝ぼけまなこで目をこすり家畜のいないところに餌を撒いては市村から拳骨を食らっていた。
家畜のえさやりが終われば、次は薪割り。
まだ幼い銀之助には斧は持たせられぬと市村は一人で小一時間ほど薪を割った。
それが終わると、二人は薫に断って道場の方へと向かっていく。
それが二人の日常になっていた。
朝から元気だな。
沖田が病気にかかってからは足が遠のいていた道場を覗いて思った。
二人は他の隊士よりも早起きをしているが、誰にも負けじと声を出す。
汗水垂らして、身体に似合わぬ木刀を振る田村に、薫は幼い頃の土方の面影を見ていた。
ー俺は武士になるー
口癖のように、自分の体よりも長い木刀を毎日振り回していた。
市村も田村も数年後には小憎らしい大人の男になってしまうのかと思うと、少し寂しい気がした。
「何を見てる。」
真後ろから土方の声が降り注ぐ。
いつもは書類仕事で缶詰の土方も時には道場に顔を出して汗を流しているようだ。
「市村と田村の様子を身に来ました。」
「そうか。」
「小さい時の歳三さんに似てませんか。ほら、田村が一生懸命木刀振ってる姿とか。」
薫はいたずらっぽく笑いながら田村を指さして土方を見上げた。
土方はふん、と鼻で一蹴すると、薫の横をすり抜けて道場の中へ入っていった。
「田村ァ!もっと腰入れろ!そんなんでへばるな!」
「は、はい!」
どうやら私は余計なことを口にしたらしい。
土方はいつも以上に田村と市村を可愛がっている様子だった。
「あはは、土方さんも大人げないな。」
今日の道場で見かけた話を沖田にすると、そんな返事が返ってきた。
「土方さんは薫さんが田村君や市村君に目をかけているから、嫉妬したんでしょう。」
「そんな十二、三の子供に対抗意識を向けますかね。」
「向けるんだなあ。それが。」
江戸の試衛館時代、沖田が元服する前の土方との思い出を話してくれた。
「私が試衛館に入りたての頃、近藤さんにべったりだったものだから、土方さんは近藤さんを取られると思ったのか、対抗意識を向けてきましてね。当時はまだ私が剣を習いたてだったのもあって、毎日ボコボコにされてましたよ。」
「ええ、大人げない!」
「でしょう。でも、一年も経つと私の方が腕が立つようになって、土方さんを返り討ちにしてましたけどね。」
ふふふ、と笑う沖田。
土方を返り討ちにして笑顔を浮かべられる人は、恐らくこの世に沖田ぐらいしかいないだろう。
「薫さん、お客様が来てます。」
赤子を抱いたお孝が部屋の障子越しに声をかけた。
薫は、沖田に見てきますねと一言添えて立ち上がり、客間へ向かう。
客間には、思わぬ客人が部屋の中央に腰を下ろしていた。
「さ、齋藤先生。」
「久しいな。」
薫が現れても、齋藤は眉一つ微動だにしない。
「こんなところに来ても大丈夫なんですか。」
「屯所の敷居を跨げぬ故、ここに来た。土方さんを呼んで来てはくれないか。」
無表情で淡々と告げる齋藤の依頼に、薫は深くうなづいてすぐさま屯所に戻り、土方に事の次第を伝えた。
土方は薫の報告を聞くや否や、着の身着のままで近藤の私宅へ向かっていった。
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
局地戦闘機 飛電の栄光と終焉
みにみ
歴史・時代
十四試局戦 後の三菱雷電J2Mとして知られるこの戦闘機は爆撃機用の火星エンジンを搭載したため胴体直径の増加、前方視界不良などが続いたいわば少し残念な機体である この十四試局戦計画に地方の無名メーカーが参加、雷電を超える高性能機が誕生し、零戦の後継として太平洋戦線を駆ける これは設計者、搭乗員の熱く短い6年間を描いた物語だ
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
If太平洋戦争 日本が懸命な判断をしていたら
みにみ
歴史・時代
もし、あの戦争で日本が異なる選択をしていたら?
国力の差を直視し、無謀な拡大を避け、戦略と外交で活路を開く。
真珠湾、ミッドウェー、ガダルカナル…そして終戦工作 分水嶺で下された「if」の決断。
破滅回避し、国家存続をかけたもう一つの終戦
そしてそこから繋がる新たな近代史へ
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
『イージス艦長、インパール最前線へ。――牟田口廉也に転生した俺は、地獄の餓死作戦を「鉄壁の兵站要塞」に変える』
月神世一
SF
【あらすじ】
「補給がなければ、戦場に立つ資格すらない」
坂上真一(さかがみ しんいち)、50歳。
かつてイージス艦長として鉄壁の防空網を指揮し、現在は海上自衛隊で次世代艦の兵站システムを設計する男。
背中には若き日の過ちである「仁王」の刺青を隠し持ち、北辰一刀流の達人でもある彼は、ある日、勤務中に仮眠をとる。
目が覚めると、そこは湿気と熱気に満ちた1944年のビルマだった。
鏡に映っていたのは、小太りで口髭の男――歴史の教科書で見た、あの「牟田口廉也」。
しかも時期は、日本陸軍史上最悪の汚点とされる「インパール作戦」決行の直前。
部下たちは「必勝の精神論」を叫び、無謀な突撃を今か今かと待っている。
(……ふざけるな。俺に、部下を餓死させろと言うのか?)
現代の知識と、冷徹な計算、そして海自仕込みのロジスティクス能力。
すべてを駆使して、坂上(中身)は歴史への介入を開始する。
精神論を振りかざすふりをして上層部を欺き、現地改修で兵器を強化し、密かに撤退路を整備する。
これは、「史上最も無能な指揮官」の皮を被った「現代の有能な指揮官」が、確定した敗北の運命をねじ伏せ、数万の命を救うために戦う、逆転の戦記ドラマ。