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第21章 裏切りの代償
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齋藤は、孝の案内で沖田の部屋を訪れた。
開き放たれた障子戸の先に見える、色白で痩せこけた青年の姿は、齋藤が知る沖田の姿ではなかった。
「久しぶりだな。」
部屋に入るなり、齋藤は沖田に言葉をかけた。しかし、それ以上沖田に掛ける言葉が見つからない。
二人の間に重苦しい沈黙が流れる。
狭い六畳一間の部屋を見回すと、枕元の刀に目が留まった。
鞘の漆は綺麗に磨かれ、刀の傍には打ち粉が置かれていた。
齋藤は枕元の刀から視線を外すと、自然と言葉が出た。
「思ったより元気そうだな。」
彼はまだ戦う希望を捨ててはいない。
筋骨隆々だったはずの腕からうっすらと骨が見え隠れしていても、沖田の目は変わらず1番隊組長のそれだった。
「そんなことを言ってくれるのは、齋藤さんだけですよ。」
皆病人扱いするんだから、と頬を膨らませて愚痴た。
それから二人は色々な話をした。まるで半年の月日が嘘だったかのように。
「平助は、達者ですか。」
「あぁ。アイツは腕を上げた。」
「平助を斬るんですか。」
恐らく齋藤がここに姿を現した時点で、その意味を沖田は察したのだろう。
「やり合うのは、会津公の御前試合以来だな。」
まだ試衛館一派が上洛して間もない頃、会津公の御預になるにあたり、実力を示すために行われた御前試合で、沖田と藤堂は剣を交えた。
勝敗は言うまでもないだろう。
「病気しているくらいが、丁度良いでしょう。」
フフフ、と咳交じりに沖田は冗談ぽく笑い声を上げた。
「今の平助は一筋縄では行かんぞ。…万全を期せ。」
「言われなくても、いつでも行けますよ。」
沖田の憎まれ口がどこか懐かしく、齋藤は思わず笑みをこぼした。
開き放たれた障子戸の先に見える、色白で痩せこけた青年の姿は、齋藤が知る沖田の姿ではなかった。
「久しぶりだな。」
部屋に入るなり、齋藤は沖田に言葉をかけた。しかし、それ以上沖田に掛ける言葉が見つからない。
二人の間に重苦しい沈黙が流れる。
狭い六畳一間の部屋を見回すと、枕元の刀に目が留まった。
鞘の漆は綺麗に磨かれ、刀の傍には打ち粉が置かれていた。
齋藤は枕元の刀から視線を外すと、自然と言葉が出た。
「思ったより元気そうだな。」
彼はまだ戦う希望を捨ててはいない。
筋骨隆々だったはずの腕からうっすらと骨が見え隠れしていても、沖田の目は変わらず1番隊組長のそれだった。
「そんなことを言ってくれるのは、齋藤さんだけですよ。」
皆病人扱いするんだから、と頬を膨らませて愚痴た。
それから二人は色々な話をした。まるで半年の月日が嘘だったかのように。
「平助は、達者ですか。」
「あぁ。アイツは腕を上げた。」
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