異世界猫カフェでまったりスローライフ 〜根暗令嬢に憑依した動物看護師、癒しの猫パラダイスを築く〜

きよぴの

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第1部 伯爵邸での日々

傲慢な忠告と資金集めのための構想

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梓は、石鹸の構想を胸に、庭師のサイモンの元へと急いだ。ソーダ草の入手と、薬草園の利用について相談するためだ。

​庭園のアーチをくぐろうとしたその時、梓は立ち止まった。アーチの陰から、優雅な声が梓を呼び止めた。

​「まあ、お姉様。また泥だらけになろうとなさって?」

​そこに立っていたのは、淡いピンクのドレスを纏ったセシリアだった。彼女は、悲しげな顔つきで梓を見つめている。

​(お姉様ったら、どうしたのかしら。私が注意してあげないと、貴族らしくないと、家名にも傷がついてしまうわ。嫌われ役をかってでも、家族を守る私。なんて健気で、献身的なヒロインなのかしら)

​セシリアの自己陶酔的な心の声を聞きながら、梓は深々と一礼した。

​「セシリア。ごきげんよう」

​「お姉様、わたくしは心を鬼にして忠告しなければなりません。そのように泥を気にもせず、井戸端でご自身でドレスを洗うなど……」

セシリアは、梓の手元に目をやった。

「ご覧になって。その手は、水仕事と土いじりで荒れてしまっているわ」

​セシリアは、心底心配している風を装いながら、言葉を続けた。

​「洗濯はメイドの仕事です。ですが、最近はメイドたちも、手が荒れると愚痴をこぼしています。お姉様が頻繁にドレスを汚すせいで、彼女たちが何度も水仕事をさせられているのです。このままでは、彼女たちの手がひび割れてしまうわ」

​(そうか、洗濯はメイドの仕事。そして、水仕事は手を荒らす……)

​梓は、先ほど思いついた石鹸について考えた。ソーダ草の石鹸は、洗浄力は高いが、アルカリ性が強ければ、逆に手荒れを悪化させる可能性がある。

​(いけない。石鹸だけでは不十分だ。メイドたちや、私自身の手荒れを防ぐものが必要だわ)

​セシリアの「忠告」は、梓に新たなビジネスのヒントを与えた。

​(そうだ、ハンドクリームだ!この世界には、高い保湿力と、持続性のある手荒れケア用品が存在しない。サイモンからもらう高い保湿力を持つ薬草と、ガスパーからもらう上質な油脂で、最高のハンドクリームができる。これは、貴族の女性たち、そして水仕事に苦しむ使用人たちの双方に、必ず求められる!)

​セシリアは、梓の無言を肯定と受け取ったのか、さらに追い打ちをかけた。

​「そして、お姉様。そのように動物たちと接した後、家畜のような、妙な匂いがすると、以前、殿下が不快におっしゃっていましたよ」

​セシリアは優雅にハンカチで鼻を覆う仕草をする。

​(お姉様の匂いは本当に不快だわ。どうして、私のように優雅で完璧に過ごせないのかしら?これで殿下はますます私に夢中になるわ)

​セシリアの優越感に満ちた心の声を聞きながら、梓の頭の中はビジネスの構想で満たされた。

​(家畜のような匂い?そうね。それは問題だわ。保護猫カフェの最大の課題だもの)

​梓の脳裏に浮かんだのは、保護猫カフェの成功に必要な要素だ。

​(保護猫カフェの成功には、徹底した消臭が不可欠。特に猫のトイレの臭いは致命的だ。そして、猫にも人にも害のない安全な消臭成分が必要だわ)

​セシリアの傲慢な指摘は、梓に二つ目のビジネスを確信させた。

​(サイモンの薬草園にある高い消臭効果を持つ薬草を使って、動物にも安全な「癒やしの消臭スプレー(香水)」を開発する。これは、猫カフェの生命線となり、そして、私の資金源となる!)

​ハンドクリーム、石鹸、そして動物に優しい消臭スプレー。セシリアの優雅な忠告と、その裏にある傲慢な本音は、梓に自由への切符となる三つのビジネス構想を確固たるものにした。

​「警告をありがとう。セシリア」

​梓は、しっかりとセシリアの目を見つめて言った。

​「これで、もっといい未来を思い描ける」

​梓の力強い目に、セシリアはたじろぐ。

​(いつもなら、目も合わせずに俯いているだけなのに。お姉様、やっぱり少し変わったのかしら?)

​梓は、溢れんばかりの構想を胸に、セシリアと別れ中庭に急いだ。時間を無駄にしている場合じゃない。

サイモンとガスパーへの協力要請が、今の最優先事項だ。

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