ルスルスーさようなら、普通さん。ー

仮乃 あお

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第1章「普通」

第4話

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「オカマ……オネェ……?」

カナコは俯きながら、低い声音で呟いた。
よく見ると膝の上にある拳が小刻みに震えている。

「あなた今のは差別的発言よ!!」

次の瞬間、カナコは私に指を刺しながら言い放った。
さっき怒られた時よりも声量は無かったが、明らかに今回の方が怒りがこもっていることが分かる。

「ご、ごめんなさい……!」

私は今日何回この人に謝るんだろう?
悪いのは私なんだけど、差別的発言と言われても、いまいちピンっと来なかった。
だって、”オネェ”も”ホモ”もテレビや漫画なんかでよく使われている言葉なのに…。

「学校で習わなかったの?差別用語だって」

カナコは俯いたまま私に問う。
学校でそんなもの習った記憶がない。
もしかしたら、そんな内容の講演会を受けたかもしれないが……まともに話を聞いたことがなかった。
私が”多分……習ってないです”と恐る恐る告げると、カナコは小さく溜め息を吐いた。

「そうよね、習わないよね。」

カナコは自嘲するように軽く笑った。
そして、すぐにいつもの真面目な表情に戻る。

「学校はそんなことよりも、もっと将来に役立つことを学ぶ場所だもんね」

そう告げるカナコの表情は至って普通だが、何処か悲しそうな表情を浮かべているように見えた。

「あなた、”普通は嫌だ”って叫んでたけど、普通の方が人間よっぽど楽よ」

さっきの出来事をさらっと掘り返され、恥ずかしくなったが、今はそこではない。
カナコのその言葉に何処か重みを感じた。
きっと過去にも差別を受けたりしてきたのだろうか。
だとしたら、かなり失礼なことをしてしまった。
私はその後もずっと謝り続けたが、今度は”しつこい”とカナコに怒られてしまった。

__

気が付くと空はオレンジ色を通り越し、所々ピンク色や紺色等の様々な色が混じり合っていた。
もうすぐ日が暮れそうだ。
そろそろ帰ることをカナコに告げ、玄関まで送ってもらった。

「もうすぐ日が暮れるし、林の中は危ないから、街まで送って行こうか?」

カナコは心配そうに申し出たが、林の中は走ってしまえば一瞬で抜けてしまう距離なので、断ることにした。

「大丈夫です、走ってすぐに林を抜けますから。」

そう告げ、”お邪魔しました”とカナコに礼と別れを告げ、別荘を後にした。
カナコは私の背中が見えなくなるまで、外で見送っていた。

「まさかだけど……嫌な予感がする…」
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