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第1章「普通」

第3話

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辿り着いた先には、本当に建物があった。
林の中にポツンと不自然に建ってある建物は、別荘と聞いてすぐに想像出来るような建物だった。
かなりの大きさの木造建築。煙突や柵もしっかりとしていて、漫画やテレビによく出てきそうな立派な別荘だった。

「どうぞ、入って」

”お邪魔します”と挨拶しながら、取り敢えず中に入る。
靴を脱いでリビングらしき所へ案内された。
中は案外殺風景で、必要最低限の物しか置いておらず、何処か寂しい印象を受ける。

「そこに座って」

色々と部屋を見ていると、小さい一人用のソファに座るよう促された。
小さいけれど、私一人には充分すぎる大きさで、意外と柔らかめのソファで下に沈んでいくのが心地いい。
すると、ティーカップとティーポットを持って相手が現れた。
ティーポットで紅茶を注いで飲むなんてしたことがなかったので、相手が紅茶を注いでいる光景が新鮮だった。
お洒落にソーサーを敷いて、私に淹れたての紅茶を差し出した。

「あ、ありがとうございます」

相手も向かいのソファに座り、優雅に紅茶を口にしている。
私も相手を真似て、紅茶を口にした。
一口だけ口にしたが、その瞬間茶葉の香りが口全体に広がって、その後紅茶の甘みが追ってくる。

「美味しいでしょ?…ていうか、敬語じゃなくていいから。」

私が紅茶を口にして、目を輝かせているのを伺ったのかそう告げた。
少しだけ相手が微笑を浮かべているように見えた。
敬語じゃなくてもいいと言われても、知らない相手に対して無闇にタメ口を使える主義ではない。なので、そこは無視をした。

「あの、あなたは一体…?お名前は?」

そもそもの疑問。
突然怒られたのに、何故か今では別荘に案内され、紅茶をご馳走になっている。
……もしかして、簡単についてきちゃったけど、怪しい人だったりして?!

「相手の名を尋ねる前に、まずは自身を名乗らなきゃダメよ。
……まぁ私から声掛けたんだし、今回は私から名乗らないとダメよね。」

また怒られたと思いきや、相手は苦笑を浮かべた。

「私は押止 奏斗おしどめ かなと
奏斗だけど、”カナコ(奏子)”って呼んでくれてもいいのよ?いや、むしろそう呼んで!奏斗なんて、男臭いもの。」

奏斗ってことは……やっぱり男なんだ。
確かにスカートを履いているけど、スカートの下からズボンを履いてるし、そういうファッションなのかな?
でも、なんで”カナコ”??

「私は佐野みよりです……そのカナコさん?は、男なんですか?女なんですか?」

カナコと呼んで欲しいと言われたので、早速そう呼んでしまった。
そして、一番気になっている性別について質問してみた。
しかし、カナコは顎に手を置き、考える仕草を見せたまましばらく固まっていた。
そしてしばらくしてカナコが口を開いた。

「私は戸籍上は男性だけど、女性に憧れている…って感じかしらね」

戸籍上は男性ってことは、男ってこと、だよね?
でも女性に憧れているって言うことは……。

「カナコさんって、ホモとかオネェとかその類ってことですか?」

私は紅茶を口にしながら、至って真面目に質問した、つもりだった。
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