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第1章「普通」

第10話

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カナコは何処か悔しそうに膝の上の両手を握り締めながら俯いた。
カナコ一人では悪魔は倒せない……。
……だから、ここまで走るように促した、要するに”逃げなさい”って意味だったのか。

「彼女を殺しても悪魔は消えるけど、同時に彼女も死んでしまう……。
……そんなやり方はしたくないし、あの子、あなたの友達なんでしょう?」

実乃梨を殺す…そんなこと考えたくもなかった。
友達なんかじゃない、大事な親友だから。

「でも、どうして実乃梨に悪魔が?どうしたら助かるんですか??」

実乃梨の身が危ないのに、こうして何も出来ない自分がもどかしい。
早く助けなくてはという焦りで、ついカナコに色々と問い詰めてしまう。

「悪魔は人間の不幸や悩み苦しんでる姿が大好き。
だから、悪魔は人間が”カットウ”を抱き、苦しんでいる姿を見ると、その身体に乗り移り、蝕む。
”カットウ”は人間の悩みの種みたいなもので、何かしらの悩みを抱える人の中に生まれる……つまりは、悪魔のエサ。」

私が所々首を傾げながら聞いていると、カナコは分かりやすく簡潔にもう一度説明してくれる。
少し怖い人だと思ってたけど、実は優しい人だということが伝わる。

「”カットウ”を完全に悪魔に喰われると、悪魔に身体を蝕まれ、その人間は記憶を失くし、悪魔になるわ。」

私はその言葉に絶句した。
つまり今、実乃梨は悪魔になろうとしているってこと…?

「ど、どうしたらいいの……?!」

私はパニックになり、頭を両手で抱え込んでうずくまった。
しかしそれでもカナコはいつものように叱責するのではなく、静かに答えた。

「さっきも言ったけど、私一人では悪魔を倒せない。
あなたの友達が助かる方法はただ一つ。

攻撃型のルスを見つけること。」

カナコは真っ直ぐな瞳を私に向け、告げた。
そんなのすぐに見つかるものなのか?
私たちには時間がないと言うのに。

「他に手はないんですか!?」

ルスや悪魔のことはよく分からないけど、夢でも言っていたように、もしルスが選ばれし者なら、もう一人探すのに時間がかかるはず。
それならもっと早く実乃梨を助けられる方法を……!

「残念ながらないわ。人間が乗っ取られている以上、物理的な攻撃はその人間自身にも負荷を与えるから、やめた方がいい。
でも、ルスの放つ攻撃は悪魔だけにしか効かない。
たまに物体には効くけど、人間には絶対に効かないはず。
そうなると、攻撃型のルスを探すしか方法はないわね。」

そう告げると、カナコは立ち上がった。
私はその言葉に軽く絶望を受け、身体が動かなかった。

「大丈夫、きっと助けられる!
絶対に攻撃型のルスを見つけて、お友達を助けましょう!」

明るく言い放つカナコの言葉に、頼りがいを感じた。
そのせいか少しだけ涙が溢れそうになった。
今は泣いたって仕方ない。自分の出来ることをやらなくちゃ。

「うん……私も探すの手伝います!」


こうして、ルス探しの日々が始まった――。
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