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昔と変わらない
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「……よく覚えてるな」
俺がうんざりしていると、それを見た諒は楽しそうに笑った。
「俺、高校の時の事は意外と覚えてるよ。特にセノとの事は……楽しかったからね」
諒は懐かしそうに目を細めて得意げに微笑むが、俺はそんな言葉を聞いても苦しくなるだけで、用意してくれた水ごとその気持ちを飲み込んだ。
「助かった、ありがとう。酔いも醒めたしそろそろ行くわ」
「終電の時間過ぎてるけど大丈夫?」
「……」
時計をみると一時半をさしている。確かにもう乗れる電車はなくなっていた。
「泊っていいよ。もし家族が不倫疑ったら、さっきの写真を見せるから」
スマホを振りながら楽しそうに笑う諒。
完敗だ。
結局諒の家に泊ることになってシャワーと部屋着を借りた。入れ替わりで浴室に行った諒が戻ってくる前に寝てしまいたくて、俺は再びソファに丸まった。
しかし、そう上手くはいかず、シャワーから出てきた諒が俺の体を揺する。
「セノ。ベッドいきな」
「ここでいい。どこでも眠れるからお気遣いなく」
「そういうのいいから」
諒は面倒くさそうに吐き捨てると、「軽っ……」と驚きながら俺を抱えてベッドにへ放り投げた。昔から諒は細いのに力がある。
それにしても一人暮らしのシングルサイズのベッドに男二人はせまい。しかも諒の隣に寝て俺が落ち着けるはずがない。お互い背を向けていても、どうしても体が触れてしまう。背中から体温が伝わる。自分の鼓動がいつもより大きく聞こえて耳障りだった。
今夜は絶対眠れないと諦めていたが、よっぽど疲れていたのか、それとも悪酔いしたせいか、緊張もなんのその、すぐに心地良い眠気がやってきた。そして俺はいつの間にか爆睡していた。
翌朝、目の前には頭を抱えた諒が床でうずくまっていた。
「確かに寝ぼけた俺が悪かったけど、蹴り落とすことはないと思う……」
そう。朝ほぼ同時に目が覚めた諒は、半分寝ぼけた状態で「おはよう」といいながら、あろうことか俺に抱きついてきたのだ。
同じく寝ぼけていた俺は、急な出来事に動揺して諒を蹴ってしまった。それも思ったより強く。ベッドの下でなったゴンという音ではっきり目が覚めて、今何が起きたかやっと理解した。
「悪い、寝起きで加減が出来なった」
昨日からとても大人とは思えない行動を繰り返している。頭が痛い理由はきっと、二日酔いだけじゃない。
しかし、思い返せば諒は昔からこんなノリだった。すぐ肩を組んでくるし、どこかへ連れて行こうと簡単に腕や手を引くし、とにかく人懐っこくて距離感が近いのだ。おかしくないかと聞いても本人は何の疑問も持っていないようで、他の人にも――と諒が言いかけた時は「もういい。お前が普通だよ」とその言葉を遮った。
さすがにスキンシップをとる相手はある程度選んでいるらしいが、あまりクラスで交流しない俺には、他に誰が距離が近い対象となっているかなど知らない。
大体一緒にいる時は俺がスキンシップの対象になり、片思いをこじらせている身にはこの距離感が辛いだけだった。かと言って他の人にもそれをしているなんて言われたら、それはそれでモヤモヤする。
「お邪魔しました」
諒の家を出て家の最寄りの駅へ向かう電車に揺られながら、短く震えたスマホを取り出して画面をみると『よろしく』と短いメッセージの通知がきていた。送り主は諒だ。
その場でさよなら出来ずに諒の家に泊まったのは完全に失敗だった。さすがに、好いている相手から連絡先を交換しようと声がかかって目の前で断れるほど、俺は自分に厳しくなれない。
それに諒が連絡先を聞いてくれた時、顔にこそ出さないが確かに俺は喜んでいた。
高校の頃から常に異性の恋人がいた諒に、好きだと自覚した後も自分の気持ちを伝えなかった。そして高校卒業後は都内へいくと決めていた俺は、諒への片思いはそのまま忘れるつもりで、もう会えなくなることを言い訳にして連絡を減らしていった。
卒業して都内に出た後、機種変更の時には新しい連絡先を知らせなかった。
そこまでしたのだ。
それなのに簡単に連絡先を交換して喜んでしまった。自分の流されやすさにうんざりする。
諒には家族がいる。今更、再会したところで、俺が気持ちを伝える日は来ない。会えば会うほど苦しくなっていくだけだとわかっている。
確か、諒は単身赴任中だと言っていた。何の仕事をしているかは知らないけれど、向こうも社会人だ。きっともう、そんなに連絡は来ないだろう。
俺は挨拶のメッセージにも、あえて返事をしなかった。自分が連絡不精なのは高校の時から変わらない。俺のこの行動で諒が連絡しにくくなるとは思えないが、どちらかと言えば自分に釘を刺したのだ。
期待するな、過去に出来ないうちは、諒にもう会うな、と。
駅に着くとスマホを鞄にしまって電車を降りた。最寄りの駅がある場所は都心へいくのに便利な下町だ。通勤ラッシュこそ人は多いが、一般で言う通勤時間が過ぎれば人はまばらだ。
俺は家に向かって歩きながら、今日、今からやることを頭の中で整理した。
昨日の案件で連絡が来ていたら即返信。この間撮った写真のチェックと加工――残っている作業を急ぎの順番に並べた後、少し考えてからその場で足をとめる。
(今日は、いや、しばらく外には出ないな)
俺は向かう先を家から近所のスーパーに変更した。
諒にも、ちゃんと食事をとっているのかと聞かれたが、正直俺は昔から食に関心を持てない。外食はたまにするが、用事がない限り作業を中断して外に出るのは嫌いだ。
そんな理由で家からほとんど出ないが自炊は苦手で、昔は毎日、塩むすびに海苔を巻いて食べていた。健康に支障がなければ今もずっとそうしていたと思う。当たり前だが、それだけではあまりにも痩せて、体力も落ちた。
仕事に影響が出そうになり反省した結果、今は外出ついでに作業の合間に短時間で食べることの出来るものをまとめ買いするようになった。健康的とは言えなくても昔よりはましになっている。
俺がうんざりしていると、それを見た諒は楽しそうに笑った。
「俺、高校の時の事は意外と覚えてるよ。特にセノとの事は……楽しかったからね」
諒は懐かしそうに目を細めて得意げに微笑むが、俺はそんな言葉を聞いても苦しくなるだけで、用意してくれた水ごとその気持ちを飲み込んだ。
「助かった、ありがとう。酔いも醒めたしそろそろ行くわ」
「終電の時間過ぎてるけど大丈夫?」
「……」
時計をみると一時半をさしている。確かにもう乗れる電車はなくなっていた。
「泊っていいよ。もし家族が不倫疑ったら、さっきの写真を見せるから」
スマホを振りながら楽しそうに笑う諒。
完敗だ。
結局諒の家に泊ることになってシャワーと部屋着を借りた。入れ替わりで浴室に行った諒が戻ってくる前に寝てしまいたくて、俺は再びソファに丸まった。
しかし、そう上手くはいかず、シャワーから出てきた諒が俺の体を揺する。
「セノ。ベッドいきな」
「ここでいい。どこでも眠れるからお気遣いなく」
「そういうのいいから」
諒は面倒くさそうに吐き捨てると、「軽っ……」と驚きながら俺を抱えてベッドにへ放り投げた。昔から諒は細いのに力がある。
それにしても一人暮らしのシングルサイズのベッドに男二人はせまい。しかも諒の隣に寝て俺が落ち着けるはずがない。お互い背を向けていても、どうしても体が触れてしまう。背中から体温が伝わる。自分の鼓動がいつもより大きく聞こえて耳障りだった。
今夜は絶対眠れないと諦めていたが、よっぽど疲れていたのか、それとも悪酔いしたせいか、緊張もなんのその、すぐに心地良い眠気がやってきた。そして俺はいつの間にか爆睡していた。
翌朝、目の前には頭を抱えた諒が床でうずくまっていた。
「確かに寝ぼけた俺が悪かったけど、蹴り落とすことはないと思う……」
そう。朝ほぼ同時に目が覚めた諒は、半分寝ぼけた状態で「おはよう」といいながら、あろうことか俺に抱きついてきたのだ。
同じく寝ぼけていた俺は、急な出来事に動揺して諒を蹴ってしまった。それも思ったより強く。ベッドの下でなったゴンという音ではっきり目が覚めて、今何が起きたかやっと理解した。
「悪い、寝起きで加減が出来なった」
昨日からとても大人とは思えない行動を繰り返している。頭が痛い理由はきっと、二日酔いだけじゃない。
しかし、思い返せば諒は昔からこんなノリだった。すぐ肩を組んでくるし、どこかへ連れて行こうと簡単に腕や手を引くし、とにかく人懐っこくて距離感が近いのだ。おかしくないかと聞いても本人は何の疑問も持っていないようで、他の人にも――と諒が言いかけた時は「もういい。お前が普通だよ」とその言葉を遮った。
さすがにスキンシップをとる相手はある程度選んでいるらしいが、あまりクラスで交流しない俺には、他に誰が距離が近い対象となっているかなど知らない。
大体一緒にいる時は俺がスキンシップの対象になり、片思いをこじらせている身にはこの距離感が辛いだけだった。かと言って他の人にもそれをしているなんて言われたら、それはそれでモヤモヤする。
「お邪魔しました」
諒の家を出て家の最寄りの駅へ向かう電車に揺られながら、短く震えたスマホを取り出して画面をみると『よろしく』と短いメッセージの通知がきていた。送り主は諒だ。
その場でさよなら出来ずに諒の家に泊まったのは完全に失敗だった。さすがに、好いている相手から連絡先を交換しようと声がかかって目の前で断れるほど、俺は自分に厳しくなれない。
それに諒が連絡先を聞いてくれた時、顔にこそ出さないが確かに俺は喜んでいた。
高校の頃から常に異性の恋人がいた諒に、好きだと自覚した後も自分の気持ちを伝えなかった。そして高校卒業後は都内へいくと決めていた俺は、諒への片思いはそのまま忘れるつもりで、もう会えなくなることを言い訳にして連絡を減らしていった。
卒業して都内に出た後、機種変更の時には新しい連絡先を知らせなかった。
そこまでしたのだ。
それなのに簡単に連絡先を交換して喜んでしまった。自分の流されやすさにうんざりする。
諒には家族がいる。今更、再会したところで、俺が気持ちを伝える日は来ない。会えば会うほど苦しくなっていくだけだとわかっている。
確か、諒は単身赴任中だと言っていた。何の仕事をしているかは知らないけれど、向こうも社会人だ。きっともう、そんなに連絡は来ないだろう。
俺は挨拶のメッセージにも、あえて返事をしなかった。自分が連絡不精なのは高校の時から変わらない。俺のこの行動で諒が連絡しにくくなるとは思えないが、どちらかと言えば自分に釘を刺したのだ。
期待するな、過去に出来ないうちは、諒にもう会うな、と。
駅に着くとスマホを鞄にしまって電車を降りた。最寄りの駅がある場所は都心へいくのに便利な下町だ。通勤ラッシュこそ人は多いが、一般で言う通勤時間が過ぎれば人はまばらだ。
俺は家に向かって歩きながら、今日、今からやることを頭の中で整理した。
昨日の案件で連絡が来ていたら即返信。この間撮った写真のチェックと加工――残っている作業を急ぎの順番に並べた後、少し考えてからその場で足をとめる。
(今日は、いや、しばらく外には出ないな)
俺は向かう先を家から近所のスーパーに変更した。
諒にも、ちゃんと食事をとっているのかと聞かれたが、正直俺は昔から食に関心を持てない。外食はたまにするが、用事がない限り作業を中断して外に出るのは嫌いだ。
そんな理由で家からほとんど出ないが自炊は苦手で、昔は毎日、塩むすびに海苔を巻いて食べていた。健康に支障がなければ今もずっとそうしていたと思う。当たり前だが、それだけではあまりにも痩せて、体力も落ちた。
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