俺は隠して君は噓をつく

雲巡アキノ

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タイミングの良い誘い

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 あれから数日後、俺は連載の撮影のために指定のスタジオへ来ていた。
 最初に決まっていたのは、インタビューの様子を撮った写真と、愛用の雑貨と並んでいる写真がいること。写真さえ決まればカメラマンは別室にいて良いという話だったが、同席したいと希望を伝えた。
 今回のコンセプトに合わせるなら、その人が語りながら雑貨に向けるまなざし、触れる時仕草も写真に残したい。
 企画の担当によってカメラの動ける範囲は変わるが、今回は柔軟に対応してくれる人のようでほっとした。
 撮影がすべて終わるとそのまま現地で解散して、放置していたスマホを鞄から取り出し画面を見た瞬間、思わず唸ってしまった。

『今日の夜、何か予定ある? この間の店で飲まない?』

 諒からメールが届いていた。よりによって俺が外にいるタイミングにくるなんて、家にいたら即答で断っていた。      
 違う、それは言い訳だ。今だって仕事が忙しいと断れば済む話だ。

『無理、忙しい』

 そうメッセージを入力した後、指が画面の上を彷徨う。
 最終的に俺が送信したのは『行く』の一言だった。
 俺は高校卒業と共に諒と距離を置いた過去の自分を褒めてやりたい。会える距離にいるとわかった途端、こんなに我慢がきかずに簡単に会いに行ってしまうのだから。



「マスター、このカクテルおいしいね」

 待ち合わせの時間に店へ来ると、諒は既にカウンターに座って飲んでいた。このバーの雰囲気通り、マスターとの会話を楽しんでいるようだ。

「あ、セノ~。お疲れ」

 こちらに気がついて手を振る諒の隣に座り、いつもの酒で良いかと聞くマスターに短く返事をした。
 俺は頻繁に来る客じゃない。それでもマスターはすぐに頼む酒を覚えてくれて、忘れないから凄いと思う。自分は相変わらず写真が絡む関係じゃなければ人に関心を持てないし、そんなこと絶対にできない。

「お疲れ。仕事帰りか?」
「ん、そうそう。予定より早く終わったから飲みたくなって。セノは?」
「あぁ。今日はこの間打ち合わせした件の撮影」
「へぇ。どんな写真?」
「雑誌の連載用の。公開はまだ先だから詳しい内容は言えない」
「あぁ、そっか。今は仕事なんだから簡単には話せないよね」

 自分が頼んだカクテルが出てきて、諒と軽く乾杯してから口にする。柑橘系のさっぱりした味は、飲む時を選ばないから好きだ。

「相変わらず青が好きなんだな」

 いつもの癖で、グラスを傾けながら、光に合わせて中の青色が変わる様子を楽しんでいると、隣にいた諒が懐かしそうに目を細めて笑みを浮かべる。

「そうだな。何か落ち着く」
「セノは青が似合うよ、服も青系取り入れたらいいのに。今度一緒に買い物行く?」
「いらね。いいんだよ、このままで」
「勿体ない。おしゃれすればもっといい感じになるのに。俺、人の服選ぶのも好きだよ」

 グラスを傾けながら眉尻をさげて残念がる諒の言葉はスルーして、自分もカクテルを一口飲んだ。
昔から私服は黒しか着ていない。それはこだわりなんかじゃなくて興味がもてないだけだ。色の組み合わせを考えながら選ぶ手間がいらない。人に会う時のために清潔感は保つようにしている。服装は地味でも整っていれば問題ないだろう。
 そんな自分とは逆で、諒は色々な服を着るし何でも着こなしてしまう。モデルをしているのも納得だった。今日もどこに売っているのかわからないような、少し個性のある服を着ているけどよく似合っている。全然おかしなところがない。
 
 諒を見ていると撮りたいシチュエーションが湧いてくる。今だって、カウンターに座り、グラスを傾けているその姿が絵になる。

「? どうしたの? なんか変?」

 こちらを見て不思議そうに聞く諒の言葉で我に返る。ついじっと見つめてしまっていたようで恥ずかしい。

「なんでもない。今日着てるの変わった服だなって思っただけ」
「あぁ、これ。モデルやってた時の知り合いがアパレルの会社立ち上げて、少し手伝ってるからお礼にくれたんだ。こういう服初めてなんだよね、変?」

 諒は服をつまんで首をかしげているが、似合っていないわけがない。

「似合ってるよ」

 そういうと諒は「ありがとう」と笑った。
 その笑顔はまるで褒められた子供のようで可愛くて、こっちまでつられて口元が緩んでしまう。

「あ、笑った」

 諒がこっちを見てまた嬉しそうに笑うから、急に見られたことが恥ずかしくなって慌てて諒から顔をそらした。
 立ち上げたばかりのアパレルの手伝いとは、やはりモデルだろうか。
 誰かが諒の写真を撮っている姿を勝手に想像したら、何ともいえない不快な気持ちが沸き上がる。
 俺は堂々と諒の写真を撮れるカメラマンに嫉妬しているのかもしれない。自分はもう、このイケメンの写真を撮ることはないだろうから。 


「セノが明け方の空を背景に撮りたいって言って、寒い中早朝に待ち合せたりしたよな」

 ほろ酔いで饒舌なっている諒は、他愛無い会話の後、高校の思い出を懐かしそうに語っている。

「あったな、そんな事」
「冬の海に入った時は死ぬかと思ったな」
「焦ったよ。冗談で言ったのに、お前マジで入るから」
「嘘だ。人が震えてんのに腹抱えて爆笑してたじゃん」
「面白かったんだよ。こんな事もするんだって。それにすぐ上着脱いで背中にかけただろ」

 今日はこの間のように悪酔いはしない。心の底から諒との会話を楽しんでいた。
 きっと諒が話しやすいように話題を振ってくれるおかげだろう。つい俺も饒舌になって、面白い思い出を振り返っては笑ってしまう。
 こんなに笑うのは久しぶりかもしれない。笑い過ぎて腹が引きつる。
 放課後の寄り道や、ただ何となく一緒に過ごした休日のように、まるで高校時代に戻ったようだった。
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