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記憶喪失の魔王

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「崖の下で倒れてたんです」

僧院に男が運ばれてきた。

「やや!こいつは…」

僧侶たちの噂によると東の魔王らしい。
東の魔王はあくどい行いをしてきたことで有名だった。

「ここはどこだ…。俺は誰だ…」

「院長、記憶喪失のようです」
「ふむ、そうか」

僧侶たちはまだ修行の身のため、唯一記憶喪失を治せるのは僧侶の長、院長だけだった。


院長は治療魔法を使わず、何事もなかったかのように魔王に接した。

「俺は誰なんだ…?何をしていた…?」
「さあ…私もあなたを見かけたことすらないのでなんとも」
「なぜ俺の頭には大きな角が付いてる…?」
「さあ…生まれつきじゃないですかね」



僧侶は院長室にいる院長に尋ねた。
「先生、あの人記憶喪失ですよね?治療魔法を施さなくて良いのですか?」

院長は後ろ手を組み、古びた眼鏡を反射させながら窓の外を眺めた。

「…ああいう悪い輩はね、記憶が戻ったところでなんの役にも立たないのだよ。悪党に戻さないのが世のため。人のためだ」
「それもそうですけど…」

僧侶と院長で話し込んでいるところに、別の僧侶が院長室に駆け込んできた。

「院長、大変です!西の魔王が手下を引き連れて我らの街に攻め込んできたようです!もう教会のすぐそこまで来ています!どうしましょう…!」
「なにっ!!」

院長は目にも止まらぬ速さで廊下を駆けて行き、部屋で寝ている魔王の肩を両手で揺さぶった。


「さあさあ、東の魔王さん!あなたは魔王なんですよ!起きてください!思い出してください!西の魔王がすぐそこまでやってきました!奴を倒せるのはあなたしかいません!さあ今こそ本来の自分を呼び覚ますのです!!」






ー完ー
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みんなの感想(3件)

スィグトーネ 18日にプロフ画像を変更

東洋西洋問わずに、こういう恋愛や片思いの話はよく聞きます。

貴族の「私」の最後の行動が、想像力を掻き立てられて好きです。

解除
スィグトーネ 18日にプロフ画像を変更

おもしろかったです。
こういうショートショートものは、新しい話を作るのがとても大変だと思いますが、ぜひ頑張ってください!

新都 蘭々
2023.06.13 新都 蘭々

初めて感想をいただけて飛び上がる程嬉しいです。モチベーションも自信もなかったのでとても励みになりました。読んでいただきありがとうございます!

解除
スィグトーネ 18日にプロフ画像を変更

最後の一言が強烈過ぎて好きです。

わざわざ救いに来た「俺」……どんな表情をしているのか、想像するとよりおもしろいです。

解除
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