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第1話 誕生、魔法使い
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「むかしむかし、あるところにリース王国を苦しめる悪い悪魔がいました。その悪魔は人間の国を乗っ取ろうと考え、さっそく仲間に声を掛けて戦いに出ました。建物は崩れ、街は火の海、もうこの国はダメかと思ったその時──空から十二人の魔法使いが現れました。魔法使いたちは次々に悪魔を懲らしめ、リース王国に平和が戻ってきました。王様は十二人の魔法使いに感謝し、国を挙げてパーティーでもと思い、魔法使いたちの部屋へ誘いに行きました。ですがそこには誰もいませんでした、あったのは『私たちは旅人です』そう一言書かれていた一枚の手紙だけ。王様が用意したパーティー会場には、十二時の鐘が鳴り響き、いつしか魔法使いたちは 十二時の魔女 と呼ばれ、リース王国の伝説となりましたとさ、おしまい」
「すごーい! 十二時の魔女さんたちってまだいるのかな?」
「世界を見て回れば、いつか会えるかもね」
「ほんと!? じゃあ私旅人になる!」
「ミーシャなら立派な旅人さんになれるわ」
「うん!」
王都から少し離れた街に一人、夢を持った少女が生まれた。彼女の名前はミーシャ・アングレー、古いおとぎ話に夢を持ち、旅人に憧れる女の子。
「さっ、私たちが起きてるからって夜更かししないの、おやすみミーシャ」
「おやすみお母さん⋯⋯」
王都から聞こえる十二時の鐘は、時に響き、夜空を統べる音となる──。
十二年後。
「ミーシャ・アングレー」
「はい!」
講堂に響く声に続き、次々と呼ばれていく卒業生たち。演壇《えんだん》に一人ずつ上り、表彰されていく。
「ミーシャ・アングレー、あなたはリース魔法学校において優秀な成績を収め、全課程を修了したことをここに証します。おめでとう」
「ありがとうございます」
私の名前はミーシャ・アングレー、たった今王都にあるリース魔法学校を卒業したエリートだ。中には在学中に魔女の称号を与えられる超エリートもいるけど、私は魔女になりに来たわけじゃないから特に気にしてないかな、貰えたらラッキーぐらい? 今年の魔女は確か⋯⋯五人だったかな? 五百人の中からたったの五人か⋯⋯そう考えたら意外と凄いのかも。
「おめでとうミーシャ」
「あっ! お母さん、お父さん!」
「お疲れ様、家を離れて三年間よく頑張ったな」
「今日は久しぶりに三人で卒業祝いの外食よ」
「やったー! 家族でご飯なんていつぶりだろ!」
私は久しぶりの家族との再開に舞い上がり、その勢いでリース魔法学校を後にした。門までの道のりには大勢の卒業生と卒業生をスカウトする会社だったり大学だったりで賑わっていて、当然私にも丁寧なお誘いが来た。もちろんその場で断ったけど。
「おお! これは凄いな」
「なんだこれ、先生から何も聞いてない」
門をくぐり抜けるとそこには、在校生全員が掲げているであろう大きな花のアーチが出来上がっていた。
「ってあれ、私たちが一番乗り?」
「少し早く来すぎちゃったかしら」
なるほど⋯⋯捕まってらっしゃるわ卒業生たち。後ろ見たらまだこっち見てる大人の方々がいっぱいいるし⋯⋯苦笑いしとこ。
そんなことを門の方を見ながら考えていると、肩をトントンされた。
「前に誰もいないし、飛んできたら?」
「私一人で? てか歩けばいいじゃん」
「お母さんとお父さんはミーシャの成長した姿が見たいんだ」
親っていうのはそういうもんなのか。それじゃあ期待に応えないとね。
「分かった」
「はい、預かってた鞄《かばん》」
「ありがと」
えーっと、どこに入れたっけ⋯⋯あれー? 私の杖ないんだけど、これだから伸縮型の杖は嫌いなんだよ。⋯⋯あっ、ラッキー! 百リース発見! 革袋の中入れとこ。
「杖出さないの?」
「それが鞄の中探しても見つからなくて⋯⋯」
「えー無くしちゃったの? せっかくお父さんが作ってくれた杖なのに!」
先端の三日月模型に星のアクセサリーまで付いてる可愛い杖だから、無くしたの結構ショックなんだけど⋯⋯
「じゃあこれ使いな」
そうお父さんから渡された杖は先端が黒く光り、満天の星空のような色をした杖だった。
「誰の杖? こんな杖初めて見たけど⋯⋯」
「それ私の予備だわ、持ってきてたんだお父さん」
「持ち手部分が伸縮型だから嵩張《かさば》らないと思ってね」
いや嵩張るでしょ、娘の卒業式に予備杖持ってくる父親なんてうちの親ぐらいだよ。
「そもそもお父さんは杖使わないのになんで持ってきてるの? 戦う時は盾と剣で応戦して、盾に付与した回復魔法で味方をアシストするタンクヒーラーみたいなことしてたじゃん」
「あれは面白そうだったから使ってただけだ」
「えぇ⋯⋯」
めちゃくちゃ様になってたから今度こそ本職だと思ってたのに⋯⋯思えば昔からこんなのばっか、私が面白半分でトウモロッコの種を剣に貼り付けて火をつけた剣を「炎の剣、モロッコソード!」とか言ってた時も、火で駄目になっちゃった剣を修理してくれたし、無くした私の杖だってお父さんが作ってくれた。
でも全部趣味だって言うし、嘘みたいな話だよ。
「そんな話は後でも出来るでしょ? 私は早くミーシャが杖に乗って飛んでるところを見てみたいのだけど」
「ごめんごめん、お父さんも早く見てみたいよ」
「それじゃあお母さん、この杖借りるね」
「はーい!」
よし! この目の前にある大きな花のアーチを飛んでくぐればいいってことでしょ?
「いくよー!」
「えっ? 杖踏んずけて何してるの──」
杖を地面に置き、両足をつけたミーシャはお母さんの声が少し聞こえたにも関わらず杖に魔力を注ぎ込んでしまい、そのまま花のアーチに向かって飛び去ってしまった。
「いやー! 風が気持ちー! お母さんとお父さん、ちゃんと見てくれてるかな?」
両足で杖の上に立ちながら空を飛ぶミーシャは在校生たちの注目の的。そんなことも気にしないミーシャはさらにスピードを上げ、学校の外へ飛び出した。
「やっぱり私たちの子だわ、普通杖に乗るって言ったら跨《またが》るもの」
「昔のルナエさんに似て腕白《わんぱく》な子だとは思っていたけど、三年経った今でも腕白だとは思わなかったよ。これは将来が楽しみだ」
「私も昔はやんちゃしてましたからねー⋯⋯悪い所だけ遺伝してないといいけど。それとカイルベルト、ミーシャの将来はもう決まっているはずよ──」
卒業式が終わり、ミーシャたちはお父さんとお母さんが泊まっている宿屋を目指して歩いていた。
「これ杖で飛んでも良くない?」
「そしたらお父さん置いてけぼりになっちゃうじゃない」
「あっ確かに」
「ごめんなー、杖が使えなくて」
杖作れるのに杖使えないって、杖職人にはなれないわけだ。魔法とか試しに撃てないし。
「おっとごめんよ」
「いえ、こちらこそすみません」
「大丈夫? ぶつかったみたいだけど」
「うん大丈夫だよ」
この街にも慣れたなー、王都なのに治安悪いところとか。さっきぶつかってきた人なんか、財布掏ろうとしてきたからこっちが掏摸《すり》返しちゃったよ。このお金は有難く頂戴して、今日の晩御飯になってもらおう。
「ここだよミーシャ」
「宿屋着いたの?」
財布から目を離し見上げると、そこには私が想像していた以上に高そうな宿屋が視界一面に広がっていた。
「でかっ!」
「お父さんがいい宿屋を選んでくれたみたいなの」
右側の敷地ほぼこの宿屋じゃん、どれだけ繁盛したらこんな広い土地買えるんだろ⋯⋯入口も広っ!
「すみません」
「はーい!」
お父さんが声を掛けると、受付の奥の方から小走りでこっちに向かってきたお姉さん二人組。
「宿屋シトラスへようこそ! ご宿泊ですか? それともご休憩ですか?」
「一泊お願いしたいんですけど」
「承知しました、三名様でお間違いないですか?」
「はいそうです」
「それではお手数をおかけ致しますが、こちらにお名前をフルネームでお書きください」
丁寧すぎて逆に怖いわ、私が初めて王都に来た時に泊まった宿屋と全然違うんだけど⋯⋯流石は高級宿屋⋯⋯立ち振る舞いから顔まで全てが一流だわ。
「ありがとうございます、カイルベルト・アングレー様。ルナエ・アングレー様。そしてミーシャ・アングレー様。ご案内いたします、こちらへどうぞ」
その言葉を信用して、私たちはお姉さんについていった。
そこで私が一つ思ったのは、すれ違う従業員の人たち全員、顔が整っている⋯⋯
「こちら三人部屋になります、何かあれば受付までお申し付けください」
「ありがとうございます」
「それではごゆっくりどうぞ」
お姉さんは丁寧に礼までしてその場を去った。
「⋯⋯ということはこの宿屋は美男美女祭りってこと!?」
「何言ってるの、早く中に入るわよ」
「はーい」
ドアを開けると、そこにはいかにも趣味の悪い貴族様が飾ってそうな絵画が私たちを歓迎してくれる。
「わぁー! 凄い綺麗な部屋ね!」
「この辺りで一番の人気店であり高級宿屋だからな」
やっぱり⋯⋯お母さんのことになるといつもこう⋯⋯三年前から全然変わってないや。
「それじゃあ晩御飯まではゆっくりしとく?」
「お父さんはさっきミーシャに貸したお母さんの予備杖を点検すると同時に、ちょっとした細工をしたいから部屋に残るけど⋯⋯二人はどうするんだ?」
「お母さんも部屋に残るわ、こんな素敵な宿屋滅多に来られないし」
「それじゃあ私も残ろっかな、ちょっと疲れた」
ベッドに向かいながらそう言うミーシャ。ベッドに倒れた瞬間布団がふわっと浮き上がり、辺りにお日様のいい匂いを漂わせる。
「ごめん⋯⋯寝る⋯⋯」
「晩御飯の時間になったら起こすわね」
「おねがーい⋯⋯」
瞼《まぶた》を一気に閉じ、思いままに身を任せ、私は深い眠りに落ちた。
「⋯⋯シャ」
「⋯⋯ミーシャ」
うるさいなぁ⋯⋯まだ疲れが取れてないのに⋯⋯。
「ミーシャ、そろそろ起きなさい」
「しつこい⋯⋯」
「晩御飯よ」
ばん⋯⋯ごはん⋯⋯?
私は少し瞼を開き、見知らぬ天井とにらめっこ。あっ⋯⋯そっか、美男美女祭りの高級宿屋に泊まってるんだった。
「はぁ⋯⋯」
ゆっくりと起き上がり息を吐いたあと、鼻の中へ強制的に入ってくる肉の香り。
「いい匂い⋯⋯」
「ありがとうございます」
「あっ⋯⋯どうもー」
料理を運んでくれてる宿屋の人がいるのになんでこのタイミングで起こすかなぁお母さん!
「こちらトクシンドラゴンの甘辛ソース和えでございます。毒素は完璧に処理していますので⋯⋯ご安心してお召し上がりください。そしてこちらがトウモロッコとキャベロのサラダです、特製ソースをかけてお召し上がりください」
「最後にこちらお水でっ──ああぁ!!」
「「ミーシャ!」」
「おいまじか──」
⋯⋯あっぶな⋯⋯まさか上からお水が降ってくるとは、油断してた。咄嗟に『浮遊』を使ってコップとお水を浮かせられたから良かったけど、コップの素材が重かったら今頃びしょ濡れだと思うと⋯⋯危なかったぁ。
「杖無しでよくやるわね」
「まあこれくらいはね、重さにもよるけど」
机にコップを置きながらミーシャは答える。
「すみません! すみません!」
「いえいえ、ミーシャも大丈夫だったんだろ?」
「うん」
顔立ちがまだ幼い従業員さんが私たちに平謝りしていると、それを隣で見ていたと思われるエルフのお姉さんが顔を出してきた。
「申し訳ございません、お詫びにこちらのお料理の代金分を宿泊費から引いておきますので」
「いや、そこまでしてくれなくても⋯⋯」
「貰えるものは貰っておきましょ、そうしないとあそこにいる従業員さんが報われないわ」
さすがお母さん、私の言いたいことを言ってくれた。⋯⋯ちょっとスッキリ。
「お気遣いありがとうございます。ほら、あなたも謝って」
「この度はご迷惑をおかけしてしまい、大変申し訳ございませんでした」
「いえ、これからも頑張ってくださいね」
「あっ! ありがとうございます魔法使いさん!」
魔法使い⋯⋯いい響き⋯⋯今までは魔法使い見習いだったから、やっぱこっちの方がしっくりくるし⋯⋯何よりかっこいい⋯⋯。
「それでは失礼いたします、ごゆっくりお召し上がりください」
「しっ失礼します!」
突然びしょ濡れにされかけたことはさておき、目の前には豪華なドラゴンの肉料理⋯⋯やることは一つでしょ!
「とりあえず⋯⋯いただきます!」
「いつも切り替えが早いことで」
「ポジティブに育ったな~」
久しぶりの一家団欒《いっかだんらん》は楽しく、目の前の料理がいつの間にか無くなっていた。主に魔法学校であった出来事を話していたけど、徐々に王都リーシアンの話になっていき、どんな物があるか、何処のお店の料理が美味しかった? などと質問攻めにされた。⋯⋯この高級宿屋シトラスの料理が一番美味しいよ⋯⋯。
「ふぅ⋯⋯食べた食べた」
「追加で頼んじゃったもんね」
「それじゃ、私はもう一度寝る」
少しだけ寝たのが悪かったのか、食後だからなのか分からないが謎の眠気が来てしまった⋯⋯これは寝るしかない。
「ちょっと! ご飯食べた後すぐ寝たら太るわよ」
「これからは夢だった旅が出来るんだから、直ぐに痩せれるってー」
「お風呂はどうするんだ?」
「うーん⋯⋯起きた時入ろうかな、最悪魔道具のシャワーでも良いし」
「それじゃ、おやすみなさーい」
いざ、夢の旅へー。
「ちょっと──」
ふわふわで気持ちの良い布団に包まれて、ミーシャは一瞬にして深い眠りについた。
「ん⋯⋯朝⋯⋯?」
ミーシャは薄く目を開け、カーテンから微かに漏れる日差しを目で感じると、不思議な音が鳴っていることに気がついた。
⋯⋯足音? 廊下側じゃない⋯⋯窓側⋯⋯でもそっちにはベッド無いから、お父さんとお母さんでもない⋯⋯音もなんか変⋯⋯何だ、この足音。
「すごーい! 十二時の魔女さんたちってまだいるのかな?」
「世界を見て回れば、いつか会えるかもね」
「ほんと!? じゃあ私旅人になる!」
「ミーシャなら立派な旅人さんになれるわ」
「うん!」
王都から少し離れた街に一人、夢を持った少女が生まれた。彼女の名前はミーシャ・アングレー、古いおとぎ話に夢を持ち、旅人に憧れる女の子。
「さっ、私たちが起きてるからって夜更かししないの、おやすみミーシャ」
「おやすみお母さん⋯⋯」
王都から聞こえる十二時の鐘は、時に響き、夜空を統べる音となる──。
十二年後。
「ミーシャ・アングレー」
「はい!」
講堂に響く声に続き、次々と呼ばれていく卒業生たち。演壇《えんだん》に一人ずつ上り、表彰されていく。
「ミーシャ・アングレー、あなたはリース魔法学校において優秀な成績を収め、全課程を修了したことをここに証します。おめでとう」
「ありがとうございます」
私の名前はミーシャ・アングレー、たった今王都にあるリース魔法学校を卒業したエリートだ。中には在学中に魔女の称号を与えられる超エリートもいるけど、私は魔女になりに来たわけじゃないから特に気にしてないかな、貰えたらラッキーぐらい? 今年の魔女は確か⋯⋯五人だったかな? 五百人の中からたったの五人か⋯⋯そう考えたら意外と凄いのかも。
「おめでとうミーシャ」
「あっ! お母さん、お父さん!」
「お疲れ様、家を離れて三年間よく頑張ったな」
「今日は久しぶりに三人で卒業祝いの外食よ」
「やったー! 家族でご飯なんていつぶりだろ!」
私は久しぶりの家族との再開に舞い上がり、その勢いでリース魔法学校を後にした。門までの道のりには大勢の卒業生と卒業生をスカウトする会社だったり大学だったりで賑わっていて、当然私にも丁寧なお誘いが来た。もちろんその場で断ったけど。
「おお! これは凄いな」
「なんだこれ、先生から何も聞いてない」
門をくぐり抜けるとそこには、在校生全員が掲げているであろう大きな花のアーチが出来上がっていた。
「ってあれ、私たちが一番乗り?」
「少し早く来すぎちゃったかしら」
なるほど⋯⋯捕まってらっしゃるわ卒業生たち。後ろ見たらまだこっち見てる大人の方々がいっぱいいるし⋯⋯苦笑いしとこ。
そんなことを門の方を見ながら考えていると、肩をトントンされた。
「前に誰もいないし、飛んできたら?」
「私一人で? てか歩けばいいじゃん」
「お母さんとお父さんはミーシャの成長した姿が見たいんだ」
親っていうのはそういうもんなのか。それじゃあ期待に応えないとね。
「分かった」
「はい、預かってた鞄《かばん》」
「ありがと」
えーっと、どこに入れたっけ⋯⋯あれー? 私の杖ないんだけど、これだから伸縮型の杖は嫌いなんだよ。⋯⋯あっ、ラッキー! 百リース発見! 革袋の中入れとこ。
「杖出さないの?」
「それが鞄の中探しても見つからなくて⋯⋯」
「えー無くしちゃったの? せっかくお父さんが作ってくれた杖なのに!」
先端の三日月模型に星のアクセサリーまで付いてる可愛い杖だから、無くしたの結構ショックなんだけど⋯⋯
「じゃあこれ使いな」
そうお父さんから渡された杖は先端が黒く光り、満天の星空のような色をした杖だった。
「誰の杖? こんな杖初めて見たけど⋯⋯」
「それ私の予備だわ、持ってきてたんだお父さん」
「持ち手部分が伸縮型だから嵩張《かさば》らないと思ってね」
いや嵩張るでしょ、娘の卒業式に予備杖持ってくる父親なんてうちの親ぐらいだよ。
「そもそもお父さんは杖使わないのになんで持ってきてるの? 戦う時は盾と剣で応戦して、盾に付与した回復魔法で味方をアシストするタンクヒーラーみたいなことしてたじゃん」
「あれは面白そうだったから使ってただけだ」
「えぇ⋯⋯」
めちゃくちゃ様になってたから今度こそ本職だと思ってたのに⋯⋯思えば昔からこんなのばっか、私が面白半分でトウモロッコの種を剣に貼り付けて火をつけた剣を「炎の剣、モロッコソード!」とか言ってた時も、火で駄目になっちゃった剣を修理してくれたし、無くした私の杖だってお父さんが作ってくれた。
でも全部趣味だって言うし、嘘みたいな話だよ。
「そんな話は後でも出来るでしょ? 私は早くミーシャが杖に乗って飛んでるところを見てみたいのだけど」
「ごめんごめん、お父さんも早く見てみたいよ」
「それじゃあお母さん、この杖借りるね」
「はーい!」
よし! この目の前にある大きな花のアーチを飛んでくぐればいいってことでしょ?
「いくよー!」
「えっ? 杖踏んずけて何してるの──」
杖を地面に置き、両足をつけたミーシャはお母さんの声が少し聞こえたにも関わらず杖に魔力を注ぎ込んでしまい、そのまま花のアーチに向かって飛び去ってしまった。
「いやー! 風が気持ちー! お母さんとお父さん、ちゃんと見てくれてるかな?」
両足で杖の上に立ちながら空を飛ぶミーシャは在校生たちの注目の的。そんなことも気にしないミーシャはさらにスピードを上げ、学校の外へ飛び出した。
「やっぱり私たちの子だわ、普通杖に乗るって言ったら跨《またが》るもの」
「昔のルナエさんに似て腕白《わんぱく》な子だとは思っていたけど、三年経った今でも腕白だとは思わなかったよ。これは将来が楽しみだ」
「私も昔はやんちゃしてましたからねー⋯⋯悪い所だけ遺伝してないといいけど。それとカイルベルト、ミーシャの将来はもう決まっているはずよ──」
卒業式が終わり、ミーシャたちはお父さんとお母さんが泊まっている宿屋を目指して歩いていた。
「これ杖で飛んでも良くない?」
「そしたらお父さん置いてけぼりになっちゃうじゃない」
「あっ確かに」
「ごめんなー、杖が使えなくて」
杖作れるのに杖使えないって、杖職人にはなれないわけだ。魔法とか試しに撃てないし。
「おっとごめんよ」
「いえ、こちらこそすみません」
「大丈夫? ぶつかったみたいだけど」
「うん大丈夫だよ」
この街にも慣れたなー、王都なのに治安悪いところとか。さっきぶつかってきた人なんか、財布掏ろうとしてきたからこっちが掏摸《すり》返しちゃったよ。このお金は有難く頂戴して、今日の晩御飯になってもらおう。
「ここだよミーシャ」
「宿屋着いたの?」
財布から目を離し見上げると、そこには私が想像していた以上に高そうな宿屋が視界一面に広がっていた。
「でかっ!」
「お父さんがいい宿屋を選んでくれたみたいなの」
右側の敷地ほぼこの宿屋じゃん、どれだけ繁盛したらこんな広い土地買えるんだろ⋯⋯入口も広っ!
「すみません」
「はーい!」
お父さんが声を掛けると、受付の奥の方から小走りでこっちに向かってきたお姉さん二人組。
「宿屋シトラスへようこそ! ご宿泊ですか? それともご休憩ですか?」
「一泊お願いしたいんですけど」
「承知しました、三名様でお間違いないですか?」
「はいそうです」
「それではお手数をおかけ致しますが、こちらにお名前をフルネームでお書きください」
丁寧すぎて逆に怖いわ、私が初めて王都に来た時に泊まった宿屋と全然違うんだけど⋯⋯流石は高級宿屋⋯⋯立ち振る舞いから顔まで全てが一流だわ。
「ありがとうございます、カイルベルト・アングレー様。ルナエ・アングレー様。そしてミーシャ・アングレー様。ご案内いたします、こちらへどうぞ」
その言葉を信用して、私たちはお姉さんについていった。
そこで私が一つ思ったのは、すれ違う従業員の人たち全員、顔が整っている⋯⋯
「こちら三人部屋になります、何かあれば受付までお申し付けください」
「ありがとうございます」
「それではごゆっくりどうぞ」
お姉さんは丁寧に礼までしてその場を去った。
「⋯⋯ということはこの宿屋は美男美女祭りってこと!?」
「何言ってるの、早く中に入るわよ」
「はーい」
ドアを開けると、そこにはいかにも趣味の悪い貴族様が飾ってそうな絵画が私たちを歓迎してくれる。
「わぁー! 凄い綺麗な部屋ね!」
「この辺りで一番の人気店であり高級宿屋だからな」
やっぱり⋯⋯お母さんのことになるといつもこう⋯⋯三年前から全然変わってないや。
「それじゃあ晩御飯まではゆっくりしとく?」
「お父さんはさっきミーシャに貸したお母さんの予備杖を点検すると同時に、ちょっとした細工をしたいから部屋に残るけど⋯⋯二人はどうするんだ?」
「お母さんも部屋に残るわ、こんな素敵な宿屋滅多に来られないし」
「それじゃあ私も残ろっかな、ちょっと疲れた」
ベッドに向かいながらそう言うミーシャ。ベッドに倒れた瞬間布団がふわっと浮き上がり、辺りにお日様のいい匂いを漂わせる。
「ごめん⋯⋯寝る⋯⋯」
「晩御飯の時間になったら起こすわね」
「おねがーい⋯⋯」
瞼《まぶた》を一気に閉じ、思いままに身を任せ、私は深い眠りに落ちた。
「⋯⋯シャ」
「⋯⋯ミーシャ」
うるさいなぁ⋯⋯まだ疲れが取れてないのに⋯⋯。
「ミーシャ、そろそろ起きなさい」
「しつこい⋯⋯」
「晩御飯よ」
ばん⋯⋯ごはん⋯⋯?
私は少し瞼を開き、見知らぬ天井とにらめっこ。あっ⋯⋯そっか、美男美女祭りの高級宿屋に泊まってるんだった。
「はぁ⋯⋯」
ゆっくりと起き上がり息を吐いたあと、鼻の中へ強制的に入ってくる肉の香り。
「いい匂い⋯⋯」
「ありがとうございます」
「あっ⋯⋯どうもー」
料理を運んでくれてる宿屋の人がいるのになんでこのタイミングで起こすかなぁお母さん!
「こちらトクシンドラゴンの甘辛ソース和えでございます。毒素は完璧に処理していますので⋯⋯ご安心してお召し上がりください。そしてこちらがトウモロッコとキャベロのサラダです、特製ソースをかけてお召し上がりください」
「最後にこちらお水でっ──ああぁ!!」
「「ミーシャ!」」
「おいまじか──」
⋯⋯あっぶな⋯⋯まさか上からお水が降ってくるとは、油断してた。咄嗟に『浮遊』を使ってコップとお水を浮かせられたから良かったけど、コップの素材が重かったら今頃びしょ濡れだと思うと⋯⋯危なかったぁ。
「杖無しでよくやるわね」
「まあこれくらいはね、重さにもよるけど」
机にコップを置きながらミーシャは答える。
「すみません! すみません!」
「いえいえ、ミーシャも大丈夫だったんだろ?」
「うん」
顔立ちがまだ幼い従業員さんが私たちに平謝りしていると、それを隣で見ていたと思われるエルフのお姉さんが顔を出してきた。
「申し訳ございません、お詫びにこちらのお料理の代金分を宿泊費から引いておきますので」
「いや、そこまでしてくれなくても⋯⋯」
「貰えるものは貰っておきましょ、そうしないとあそこにいる従業員さんが報われないわ」
さすがお母さん、私の言いたいことを言ってくれた。⋯⋯ちょっとスッキリ。
「お気遣いありがとうございます。ほら、あなたも謝って」
「この度はご迷惑をおかけしてしまい、大変申し訳ございませんでした」
「いえ、これからも頑張ってくださいね」
「あっ! ありがとうございます魔法使いさん!」
魔法使い⋯⋯いい響き⋯⋯今までは魔法使い見習いだったから、やっぱこっちの方がしっくりくるし⋯⋯何よりかっこいい⋯⋯。
「それでは失礼いたします、ごゆっくりお召し上がりください」
「しっ失礼します!」
突然びしょ濡れにされかけたことはさておき、目の前には豪華なドラゴンの肉料理⋯⋯やることは一つでしょ!
「とりあえず⋯⋯いただきます!」
「いつも切り替えが早いことで」
「ポジティブに育ったな~」
久しぶりの一家団欒《いっかだんらん》は楽しく、目の前の料理がいつの間にか無くなっていた。主に魔法学校であった出来事を話していたけど、徐々に王都リーシアンの話になっていき、どんな物があるか、何処のお店の料理が美味しかった? などと質問攻めにされた。⋯⋯この高級宿屋シトラスの料理が一番美味しいよ⋯⋯。
「ふぅ⋯⋯食べた食べた」
「追加で頼んじゃったもんね」
「それじゃ、私はもう一度寝る」
少しだけ寝たのが悪かったのか、食後だからなのか分からないが謎の眠気が来てしまった⋯⋯これは寝るしかない。
「ちょっと! ご飯食べた後すぐ寝たら太るわよ」
「これからは夢だった旅が出来るんだから、直ぐに痩せれるってー」
「お風呂はどうするんだ?」
「うーん⋯⋯起きた時入ろうかな、最悪魔道具のシャワーでも良いし」
「それじゃ、おやすみなさーい」
いざ、夢の旅へー。
「ちょっと──」
ふわふわで気持ちの良い布団に包まれて、ミーシャは一瞬にして深い眠りについた。
「ん⋯⋯朝⋯⋯?」
ミーシャは薄く目を開け、カーテンから微かに漏れる日差しを目で感じると、不思議な音が鳴っていることに気がついた。
⋯⋯足音? 廊下側じゃない⋯⋯窓側⋯⋯でもそっちにはベッド無いから、お父さんとお母さんでもない⋯⋯音もなんか変⋯⋯何だ、この足音。
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息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
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