2 / 6
第一章 悪魔を喰らうもの
episode2 ネゴシエーター①
しおりを挟む
「──来ました」
声に怯えの色を滲ませるナラハの動きに合わせるように背後を見やれば、顔を真っ青にして先導する戦士の後ろから──。
「あれがデモンズイーターか……」
まるで闇夜で染め上げたようなフード付きのマントでその身を隠し、こちらに向かって静かな歩みを見せている。
距離が縮まるにつれて目に見えない壁に押し潰されるような感覚に襲われたジルドは、いつの間にかカラカラに乾いた喉へ強引に唾を流し込んだ。
「ア、アウァ……」
ジルドの隣では声にならない声を上げたナラハが地面に尻餅をついている。水面に浮かぶ水鳥のように両の足を動かして後ろに下がろうとするも、主の意思に反した腕は地面に縫い付けられたかのごとく微動だにしない。
結果として足は地面を削り取ることにただただ邁進していた。
「この度はこんな田舎町に悪魔が出たということでご愁傷さまでした」
鈴の音のような声は未だマントで全容を窺うことができないデモンズイーターから発せられたものではなかった。
改めて視線を声がした斜め下方向に移してみれば、年端もいかない少年が無邪気な笑みをこちらに向けて立っている。
ジルドは場違いなこの少年の登場に驚き、次に少年の足元にいる犬にも驚いた。デモンズイーターばかりに目がいき、少年と犬は全く視界に入っていなかった。
(なんでこんなところに子供と犬がいるんだ?)
ジルドが呆気に取られていると、
「こやつ大丈夫か?」
「犬がしゃべった⁉︎」
「む。わしの名前は太郎丸じゃ。犬などという蔑称は不愉快極まる。金輪際その名で呼ぶでないぞ」
人語を解す不気味な犬が不愉快そうに言う。驚きはそのままによくよく犬を見てみれば、頭に珍妙な面を乗せていることに気づいた。
(これは狐の面、か? しゃべるだけでも気味が悪いのになんで狐の面なんかつけてるんだ?)
激しく困惑するジルドをよそに、少年が犬に向けてあからさまな溜息を吐いた。
「太郎丸、これから仕事の話をするから少し黙っていて」
「しかしな──」
「太郎丸」
「わかったわかった」
犬を窘めた少年は、ジルドに再び無邪気な笑みを見せてくる。翻ってジルドは、絹糸のような銀色の髪と顔立ちが整った少年に険のある表情を向けてしまう。
普通の子供であればそれだけで泣き叫ぶこと必死なのだが、しかし、目の前の少年はまるで意に介した様子もなく話を続けた。
「初めての方は大体そういうお顔をされます。申し遅れましたが私はこういうものです」
少年は懐から取り出した四角い紙をまるで献上品のように恭しく差し出してきた。一見しただけでもかなり上質な紙であることがわかる。
戸惑いを覚えながらも受け取ったジルドは、紙に書かれている文字を声に出して読んだ。
「ネゴシエーター……?」
まるで聞いたことがない言葉に首を傾げるジルドに向かって、少年はこざかしげに人差し指を立てて言う。
「根本的にはあなた方が行っている事業と一緒です。それが必要とされる人間のところに必要な人間を送り込む」
「つまりは仲介人ってことか?」
「そう捉えていただいても結構です。まぁ言っても僕らが送り込む相手は悪魔に限定していますが」
そう言って妖しく微笑む少年に、ジルドは次第に不気味なものを感じ始めていた。
大人に憧れて大人の真似事をする子供はままいる。だが、目の前の少年はそういったものとは明らかに一線を画していた。世界が違うのだ。綺麗な顔の内に妙な色香と危うさを漂わせていたことも理由のひとつだった。
少年はジルドの思考を遮断するかのようにパンパンと手を叩いて注目を促した。
声に怯えの色を滲ませるナラハの動きに合わせるように背後を見やれば、顔を真っ青にして先導する戦士の後ろから──。
「あれがデモンズイーターか……」
まるで闇夜で染め上げたようなフード付きのマントでその身を隠し、こちらに向かって静かな歩みを見せている。
距離が縮まるにつれて目に見えない壁に押し潰されるような感覚に襲われたジルドは、いつの間にかカラカラに乾いた喉へ強引に唾を流し込んだ。
「ア、アウァ……」
ジルドの隣では声にならない声を上げたナラハが地面に尻餅をついている。水面に浮かぶ水鳥のように両の足を動かして後ろに下がろうとするも、主の意思に反した腕は地面に縫い付けられたかのごとく微動だにしない。
結果として足は地面を削り取ることにただただ邁進していた。
「この度はこんな田舎町に悪魔が出たということでご愁傷さまでした」
鈴の音のような声は未だマントで全容を窺うことができないデモンズイーターから発せられたものではなかった。
改めて視線を声がした斜め下方向に移してみれば、年端もいかない少年が無邪気な笑みをこちらに向けて立っている。
ジルドは場違いなこの少年の登場に驚き、次に少年の足元にいる犬にも驚いた。デモンズイーターばかりに目がいき、少年と犬は全く視界に入っていなかった。
(なんでこんなところに子供と犬がいるんだ?)
ジルドが呆気に取られていると、
「こやつ大丈夫か?」
「犬がしゃべった⁉︎」
「む。わしの名前は太郎丸じゃ。犬などという蔑称は不愉快極まる。金輪際その名で呼ぶでないぞ」
人語を解す不気味な犬が不愉快そうに言う。驚きはそのままによくよく犬を見てみれば、頭に珍妙な面を乗せていることに気づいた。
(これは狐の面、か? しゃべるだけでも気味が悪いのになんで狐の面なんかつけてるんだ?)
激しく困惑するジルドをよそに、少年が犬に向けてあからさまな溜息を吐いた。
「太郎丸、これから仕事の話をするから少し黙っていて」
「しかしな──」
「太郎丸」
「わかったわかった」
犬を窘めた少年は、ジルドに再び無邪気な笑みを見せてくる。翻ってジルドは、絹糸のような銀色の髪と顔立ちが整った少年に険のある表情を向けてしまう。
普通の子供であればそれだけで泣き叫ぶこと必死なのだが、しかし、目の前の少年はまるで意に介した様子もなく話を続けた。
「初めての方は大体そういうお顔をされます。申し遅れましたが私はこういうものです」
少年は懐から取り出した四角い紙をまるで献上品のように恭しく差し出してきた。一見しただけでもかなり上質な紙であることがわかる。
戸惑いを覚えながらも受け取ったジルドは、紙に書かれている文字を声に出して読んだ。
「ネゴシエーター……?」
まるで聞いたことがない言葉に首を傾げるジルドに向かって、少年はこざかしげに人差し指を立てて言う。
「根本的にはあなた方が行っている事業と一緒です。それが必要とされる人間のところに必要な人間を送り込む」
「つまりは仲介人ってことか?」
「そう捉えていただいても結構です。まぁ言っても僕らが送り込む相手は悪魔に限定していますが」
そう言って妖しく微笑む少年に、ジルドは次第に不気味なものを感じ始めていた。
大人に憧れて大人の真似事をする子供はままいる。だが、目の前の少年はそういったものとは明らかに一線を画していた。世界が違うのだ。綺麗な顔の内に妙な色香と危うさを漂わせていたことも理由のひとつだった。
少年はジルドの思考を遮断するかのようにパンパンと手を叩いて注目を促した。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
この聖水、泥の味がする ~まずいと追放された俺の作るポーションが、実は神々も欲しがる奇跡の霊薬だった件~
夏見ナイ
ファンタジー
「泥水神官」と蔑まれる下級神官ルーク。彼が作る聖水はなぜか茶色く濁り、ひどい泥の味がした。そのせいで無能扱いされ、ある日、無実の罪で神殿から追放されてしまう。
全てを失い流れ着いた辺境の村で、彼は自らの聖水が持つ真の力に気づく。それは浄化ではなく、あらゆる傷や病、呪いすら癒す奇跡の【創生】の力だった!
ルークは小さなポーション屋を開き、まずいけどすごい聖水で村人たちを救っていく。その噂は広まり、呪われた女騎士やエルフの薬師など、訳ありな仲間たちが次々と集結。辺境の村はいつしか「癒しの郷」へと発展していく。
一方、ルークを追放した王都では聖女が謎の病に倒れ……。
落ちこぼれ神官の、痛快な逆転スローライフ、ここに開幕!
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
無属性魔法しか使えない少年冒険者!!
藤城満定
ファンタジー
「祝福の儀式」で授かった属性魔法は無属性魔法だった。無属性と書いてハズレや役立たずと読まれている属性魔法を極めて馬鹿にしてきた奴らの常識を覆して見返す「ざまあ」系ストーリー。
不定期投稿作品です。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる