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灰被りの聖女
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親も知らず名も知らず。
いつからここにいるのかも少女は知らない。
一年を通して空から灰が降り落ちる不思議な街の片隅で、気づけば少女は当たり前のように物乞いをして日々を暮らしていた。
物乞いの成否にかかわることなく夕方を迎えると、少女は街で一番高い丘に登り、地面に寝転びながらどんよりとした鉛色の空から降ってくる灰を眺めるのを日課としている。
今も昔も灰が降るこの街は、街が属している国の厳重な監視下に置かれており、人が造ったとは思えないほどの巨大な壁に囲まれていた。
外敵に備えたものでなく、あくまでも中の住民たちを勝手に外へ出さないための壁。
当然住人は許可なく街の外に出ることを許されてはいなく、また許可を得て街を出た人間を少女は寡聞にして知らない。
たまに外の世界から送られてくる人間の話を聞くのが少女はことのほか好きだったが、外の世界の人間は一人の例外もなく数年後には原因不明の死を迎えてしまう。
監獄の街。
魔女の呪いがかかった街。
呼び方はほかにもたくさんあるけれど、中でも少女は灰被りの街という響きがなんとなく素敵で密かに気に入っていた。
今日も明日も明後日も。
少女は飽くことなく空を見上げ続ける。
☆彡
☆彡
☆彡
7年の時が過ぎ──────。
背が伸び大人に近づく少女の手には、以前にはなかった一冊の絵本が小脇に抱えられていた。外の世界から連れてこられた人間が、自分に素敵な名前を付けてくれた唯一の友達がとても大事にしていた絵本。
少女は今日も丘の上から一人空を見上げている。
絵本に出てくるような青い空がいつか灰被りの街に広がることを願って。
☆彡
☆彡
☆彡
一部の例外を除きこの世界に生きる人間は、青か赤の瞳を宿して生まれることが予め運命づけられていた。
青い瞳を持って生まれた者は自然を操る力を持ち、赤い瞳を持って生まれた者は並々ならぬ膂力をその身に宿す。
なぜ神は異なる二種類の人間を生み出したのか。まさに神のみぞ知るところではあるが、人間社会が確立される頃には青い瞳は優良種、赤い瞳は劣等種という明確な線引きが人間自らの手によって行われることとなる。
どの国においても政を担うのは青い瞳を持った特権階級に属する人間であり、それは北の大国ブリュンガルデ王国においても例外ではなかった。
戦争の時代。
忌むべき街の出身ながらも後天的に神から授かった癒しの力により、灰被りの聖女と呼ばれる15歳の少女がいた。
今、その少女は戦場の最前線にいる。
額に大粒の汗を流しながら少女は切り裂かれた兵士の腹部に重ねた両手を押し当て、癒しの力を行使していた──。
『この傷ではもう助かりっこない。聖女様、頼むから一思いに俺を殺してくれ……』
『生きることを諦めないでください。私が絶対に治して見せますから』
少女は命の灯火を一つでも多く守るため、時に冷たい雨が身を穿とうとも、時に汚物が混ざった泥に塗れようとも構うことなく戦場を駆けていく。
幾度となく自分の命を危険に晒しながらも懸命に、ただ懸命に癒しの力を行使し続けながらやがて一年が経過した頃。
少女の尽力が実を結び、ブリュンガルデ王国は勝利の勝鬨を上げたのだった。
それから二年の月日が流れ────。
「ねぇまだ治らないの?」
「もう少しですから」
「もう少しもう少しってあんたさっきからそればかりじゃないの!」
「ほんとにもう少しですから」
王宮の一角に設けられた診療所で、ユアは額に汗を滲ませながら伯爵令嬢の額にある切り傷に癒しの力を込めていく。しかし癒しの力を込めれば込めるほどに、力の証明たる緑の輝きはまるでユアをあざ笑うかのようにか細くなっていく。これは今に始まったことではなかった。
(どうして! どうして弱くなるの!)
焦るユアを前に伯爵令嬢は舌打ちを何度も鳴らして、
「さっき王族主催の舞踏会があるってわたくし言いましたわよね? 額に傷がついた状態で舞踏会に出ようものなら恰好の笑いの的だわ。──もしかしてわたくしなんて笑われてしまえばいいとでも思ってるの?」
「決してそのようなことは思っていません」
「だったらさっさと治しなさいよッ!」
ユアの頬に鋭い痛みが走った。直後、頬から流れ落ちるものが自身の白いローブに赤い染みを作っていく。
ウィンバード伯爵家は風の力を操ることに長けた一族。おそらくは風の力で頬を切ったのであろうが、今のユアにそんなことを気にしている余裕などあるはずもなく、何事もなかったかのように癒しの力を行使し続ける。
伯爵令嬢の傷が完治したのはそれから十分後のことだった。
「はぁはぁ……傷は完全に消えました。ご確認ください」
そばに控えている侍従から手鏡を向けられ、伯爵令嬢は額を入念にチェックする。
「──なんとか大丈夫そうね。この程度の傷にどれだけの時間をかければ気が済むのよ。時間はお金で買えないって知ってる? それとも唾棄すべき魔女の街出身のあなたには時間よりもお金のほうが貴重なのかしら?──ねぇちょっと聞いているの?」
苛立った言葉と同時に足をすくわせるほどの突風が巻き起こる。派手に転んだ結果、ユアはお尻を床に強打してしまう。部屋の中にもかかわらず突風が吹いた原因が唇を歪める伯爵令嬢によるものであることは、青い両の瞳が輝きを放っていることからして疑う余地はなかった。
「すみません。力を使い過ぎたようで目眩がしました……」
伯爵令嬢は唇の歪みを深くし、
「つまりこれしきのことで疲れたって言いたいわけ? なら自分で自分を癒せばいいじゃない。どうせそれしか能がないんだから」
診療室を高笑いで満たした伯爵令嬢は、これ以上用はないと言わんばかりの態度で立ち去っていく。
(自分で自分を癒す、か……それができればどんなによかったか)
他人を癒せることはできても自分を癒すことはできない。皆が思っているよりも癒しの力は万能ではないということだ。
ユアは鉛のように重くなった体に鞭打って床から立ち上がった。
(なんとか今日も無事に終わらすことができた……)
診療室を後にしたユアは足を大いにふらつかせながら自室に戻ると、そのまま倒れ込むようにベッドへ入る。
……逃げたい。
…逃げたい。
ただ逃げたい。
体は疲れているはずなのに眠ることができなくて、ここから逃げ出したいという思いだけが今日も頭の中を走り回っている。
戦争が終結した後もユアは自分のことは顧みず、聖女としての責務を果たそうと必死に力を尽くしてきた。
たとえ汚物を見るような目で見られたとしても。
たとえいわれない暴力を受けたとしても。
日常的に繰り返される貴族たちからの酷い仕打ちになんとか耐え忍んでいられるのは、聖女の護衛としてユアを敵兵から守り抜いてくれたアルフォンスの存在が、将来を誓い合った恋人がいたから。
(会いたい。今はただあの人に会いたい)
戦争時はユアの護衛だったアルフォンスも、今や誰もが羨む聖輪騎士団・団長の任についている。そのため半年ほどは顔はおろか姿さえも見ていない。
騎士団長として忙しいのは重々理解している。それでも一瞬だけでも彼に会いに来てほしかった。ただそれだけで生きる希望が持てるから。
ささやかな願いを胸に赤と緑の瞳は閉じていく……。
(もう朝……)
とくに望んでもいない朝が当たり前のようにやってくる。
窓越しに映る空はユアの心の内を映し出すかのように今日も鉛色で満ちていた。
ベッドからのそのそと下りたユアは、寝ぐせのついた髪そのままに洗面台へと向かい、桶に張られている水で顔を洗う。
(酷い顔ね……)
鏡に映る姿はまるで幽鬼のようだとユアは自虐の笑みを浮かべた。
顔を拭き、所々歯の欠けた櫛で髪を梳かしていく。
今日の務めを果たすためユアがクローゼットの聖衣に手を伸ばしていると、ノックもなく突然入口の扉が開かれた。
「──ツ!?」
咄嗟に聖衣を胸に押し当てるユアを見ても一顧だにせず、美々しい鎧をその身に纏いし近衛兵が熱のない声で淡々と告げてくる。
「謁見の間に至急来い。レガード王がお呼びだ」
それだけ言うと近衛兵はユアが理由を聞く間もなく去ってしまう。
王から呼び出しを受けたのは実に一年と半年振りだったがそんなことよりも、
「今さら私にどんな用が……」
独りごちるユアの言葉には怯えの色が多分に混じっていた。
いつからここにいるのかも少女は知らない。
一年を通して空から灰が降り落ちる不思議な街の片隅で、気づけば少女は当たり前のように物乞いをして日々を暮らしていた。
物乞いの成否にかかわることなく夕方を迎えると、少女は街で一番高い丘に登り、地面に寝転びながらどんよりとした鉛色の空から降ってくる灰を眺めるのを日課としている。
今も昔も灰が降るこの街は、街が属している国の厳重な監視下に置かれており、人が造ったとは思えないほどの巨大な壁に囲まれていた。
外敵に備えたものでなく、あくまでも中の住民たちを勝手に外へ出さないための壁。
当然住人は許可なく街の外に出ることを許されてはいなく、また許可を得て街を出た人間を少女は寡聞にして知らない。
たまに外の世界から送られてくる人間の話を聞くのが少女はことのほか好きだったが、外の世界の人間は一人の例外もなく数年後には原因不明の死を迎えてしまう。
監獄の街。
魔女の呪いがかかった街。
呼び方はほかにもたくさんあるけれど、中でも少女は灰被りの街という響きがなんとなく素敵で密かに気に入っていた。
今日も明日も明後日も。
少女は飽くことなく空を見上げ続ける。
☆彡
☆彡
☆彡
7年の時が過ぎ──────。
背が伸び大人に近づく少女の手には、以前にはなかった一冊の絵本が小脇に抱えられていた。外の世界から連れてこられた人間が、自分に素敵な名前を付けてくれた唯一の友達がとても大事にしていた絵本。
少女は今日も丘の上から一人空を見上げている。
絵本に出てくるような青い空がいつか灰被りの街に広がることを願って。
☆彡
☆彡
☆彡
一部の例外を除きこの世界に生きる人間は、青か赤の瞳を宿して生まれることが予め運命づけられていた。
青い瞳を持って生まれた者は自然を操る力を持ち、赤い瞳を持って生まれた者は並々ならぬ膂力をその身に宿す。
なぜ神は異なる二種類の人間を生み出したのか。まさに神のみぞ知るところではあるが、人間社会が確立される頃には青い瞳は優良種、赤い瞳は劣等種という明確な線引きが人間自らの手によって行われることとなる。
どの国においても政を担うのは青い瞳を持った特権階級に属する人間であり、それは北の大国ブリュンガルデ王国においても例外ではなかった。
戦争の時代。
忌むべき街の出身ながらも後天的に神から授かった癒しの力により、灰被りの聖女と呼ばれる15歳の少女がいた。
今、その少女は戦場の最前線にいる。
額に大粒の汗を流しながら少女は切り裂かれた兵士の腹部に重ねた両手を押し当て、癒しの力を行使していた──。
『この傷ではもう助かりっこない。聖女様、頼むから一思いに俺を殺してくれ……』
『生きることを諦めないでください。私が絶対に治して見せますから』
少女は命の灯火を一つでも多く守るため、時に冷たい雨が身を穿とうとも、時に汚物が混ざった泥に塗れようとも構うことなく戦場を駆けていく。
幾度となく自分の命を危険に晒しながらも懸命に、ただ懸命に癒しの力を行使し続けながらやがて一年が経過した頃。
少女の尽力が実を結び、ブリュンガルデ王国は勝利の勝鬨を上げたのだった。
それから二年の月日が流れ────。
「ねぇまだ治らないの?」
「もう少しですから」
「もう少しもう少しってあんたさっきからそればかりじゃないの!」
「ほんとにもう少しですから」
王宮の一角に設けられた診療所で、ユアは額に汗を滲ませながら伯爵令嬢の額にある切り傷に癒しの力を込めていく。しかし癒しの力を込めれば込めるほどに、力の証明たる緑の輝きはまるでユアをあざ笑うかのようにか細くなっていく。これは今に始まったことではなかった。
(どうして! どうして弱くなるの!)
焦るユアを前に伯爵令嬢は舌打ちを何度も鳴らして、
「さっき王族主催の舞踏会があるってわたくし言いましたわよね? 額に傷がついた状態で舞踏会に出ようものなら恰好の笑いの的だわ。──もしかしてわたくしなんて笑われてしまえばいいとでも思ってるの?」
「決してそのようなことは思っていません」
「だったらさっさと治しなさいよッ!」
ユアの頬に鋭い痛みが走った。直後、頬から流れ落ちるものが自身の白いローブに赤い染みを作っていく。
ウィンバード伯爵家は風の力を操ることに長けた一族。おそらくは風の力で頬を切ったのであろうが、今のユアにそんなことを気にしている余裕などあるはずもなく、何事もなかったかのように癒しの力を行使し続ける。
伯爵令嬢の傷が完治したのはそれから十分後のことだった。
「はぁはぁ……傷は完全に消えました。ご確認ください」
そばに控えている侍従から手鏡を向けられ、伯爵令嬢は額を入念にチェックする。
「──なんとか大丈夫そうね。この程度の傷にどれだけの時間をかければ気が済むのよ。時間はお金で買えないって知ってる? それとも唾棄すべき魔女の街出身のあなたには時間よりもお金のほうが貴重なのかしら?──ねぇちょっと聞いているの?」
苛立った言葉と同時に足をすくわせるほどの突風が巻き起こる。派手に転んだ結果、ユアはお尻を床に強打してしまう。部屋の中にもかかわらず突風が吹いた原因が唇を歪める伯爵令嬢によるものであることは、青い両の瞳が輝きを放っていることからして疑う余地はなかった。
「すみません。力を使い過ぎたようで目眩がしました……」
伯爵令嬢は唇の歪みを深くし、
「つまりこれしきのことで疲れたって言いたいわけ? なら自分で自分を癒せばいいじゃない。どうせそれしか能がないんだから」
診療室を高笑いで満たした伯爵令嬢は、これ以上用はないと言わんばかりの態度で立ち去っていく。
(自分で自分を癒す、か……それができればどんなによかったか)
他人を癒せることはできても自分を癒すことはできない。皆が思っているよりも癒しの力は万能ではないということだ。
ユアは鉛のように重くなった体に鞭打って床から立ち上がった。
(なんとか今日も無事に終わらすことができた……)
診療室を後にしたユアは足を大いにふらつかせながら自室に戻ると、そのまま倒れ込むようにベッドへ入る。
……逃げたい。
…逃げたい。
ただ逃げたい。
体は疲れているはずなのに眠ることができなくて、ここから逃げ出したいという思いだけが今日も頭の中を走り回っている。
戦争が終結した後もユアは自分のことは顧みず、聖女としての責務を果たそうと必死に力を尽くしてきた。
たとえ汚物を見るような目で見られたとしても。
たとえいわれない暴力を受けたとしても。
日常的に繰り返される貴族たちからの酷い仕打ちになんとか耐え忍んでいられるのは、聖女の護衛としてユアを敵兵から守り抜いてくれたアルフォンスの存在が、将来を誓い合った恋人がいたから。
(会いたい。今はただあの人に会いたい)
戦争時はユアの護衛だったアルフォンスも、今や誰もが羨む聖輪騎士団・団長の任についている。そのため半年ほどは顔はおろか姿さえも見ていない。
騎士団長として忙しいのは重々理解している。それでも一瞬だけでも彼に会いに来てほしかった。ただそれだけで生きる希望が持てるから。
ささやかな願いを胸に赤と緑の瞳は閉じていく……。
(もう朝……)
とくに望んでもいない朝が当たり前のようにやってくる。
窓越しに映る空はユアの心の内を映し出すかのように今日も鉛色で満ちていた。
ベッドからのそのそと下りたユアは、寝ぐせのついた髪そのままに洗面台へと向かい、桶に張られている水で顔を洗う。
(酷い顔ね……)
鏡に映る姿はまるで幽鬼のようだとユアは自虐の笑みを浮かべた。
顔を拭き、所々歯の欠けた櫛で髪を梳かしていく。
今日の務めを果たすためユアがクローゼットの聖衣に手を伸ばしていると、ノックもなく突然入口の扉が開かれた。
「──ツ!?」
咄嗟に聖衣を胸に押し当てるユアを見ても一顧だにせず、美々しい鎧をその身に纏いし近衛兵が熱のない声で淡々と告げてくる。
「謁見の間に至急来い。レガード王がお呼びだ」
それだけ言うと近衛兵はユアが理由を聞く間もなく去ってしまう。
王から呼び出しを受けたのは実に一年と半年振りだったがそんなことよりも、
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