3 / 16
異界人②
しおりを挟む
程なくして背後から聞こえてきたのは、一定のリズムに刻まれた足音と幻想的な音を奏でる鈴の音色。
音は平伏するユアの横を通り過ぎると壇上の前で鳴り止み、そして──。
(え!?)
明らかに壇上を上がっている足音にユアは驚きを隠せなかった。
壇上に上がることが許されているのは、ブリュンガルデ王国を統べる王自身と近衛兵の一部のみ。王宮で働く者であれば誰もが知っていることだ。
その制限をいとも容易く越えた音の主は、レガード王にとって特別な存在だということを暗に知らしめるものだった。
ユアが顔を上げるよう宰相から命じられたのはそれから間もなくのことだった。
「こちらがブリュンガルデ王国の新たなる聖女だ」
新たな聖女という異界人の容姿は、切れ長の目と長いまつ毛で聡明そうな印象を受けた。古文書の記録にあった通りの黒い瞳で、黒い髪は腰のところまで伸びている。
なによりユアの目を引いたのは異界人が身に着けている衣装だった。壺のような形をしたスカートを履いていて、赤一色に染まっている。上半身も白に白を重ねた独特な仕立ての装束で、左右の袖を覆う布地が膝の付近まで垂れ下がっている。
作りこそ聖衣とは全く異なるが、聖衣と同じく神聖な衣服であることをユアは確信した。
「灰被りの聖女ユアさん、お初にお目にかかります。ただいま偉大なるレガード王のご紹介に与りましたサンゼンイン・シズカと申します」
サンゼンイン・シズカと名乗った異界人は両手をお腹の前で重ねると、サラサラと音が聞こえてきそうな輝く黒髪を頬に滑らせながらゆっくり頭を下げた。
見たこともないその仕草は異界人の挨拶であることは想像つくが、これほど綺麗な挨拶をユアは見たことがない。
顔を上げたサンゼンイン・シズカは、春の陽だまりのような柔らかい笑みをユアに向けてきた。
(ただ笑んでいるだけなのに……)
この世界の住人とは全く違う美しさと気品を併せ持つサンゼンイン・シズカに、ユアはただただ圧倒されてしまった。
「シズカ殿は八百万もの神が住まう古い歴史を持つ国から来た。それだけではなくシズカ殿の家は1500年の長きに渡り神に仕えている由緒正しく格式高い家柄だそうだ。聖女の名を継ぐのにこれほど素晴らしい者がほかにいるだろうか」
レガード王が高らかに告げると、謁見の間内から割れんばかりの拍手が巻き起こった。
その様子を機嫌よく眺めるレガード王は、拍手が鳴りやむタイミングで宰相の名を呼ぶ。宰相は壁際に控える近衛兵に向けて顎をしゃくった。
近衛兵たちは六人がかりで厚い布に覆われた大きな箱らしきものを中央に置く。すぐに近衛兵の一人が布を勢いよく引くと、目に飛び込んできたのは鉄格子の中で横たわる血に濡れたサーベルフォックスの姿だった。
「見てわかる通りこのサーベルフォックスは今や瀕死の状態。放っておけば間もなく死ぬだろう」
レガード王の言葉に嘘偽りがないことは、死が日常だった戦場を生き抜いてきたユアにはわかり過ぎるくらいにわかる。
ユアが視線を異界人に戻すのとレガード王の口が再び開かれたのはほぼ同時だった。
「シズカ殿、真なる聖女の御業をここにいる者たちにも見せてやってくれ」
頷き壇上をゆっくり降りていくサンゼンイン・シズカ。やがて鉄格子の右隣に立ったサンゼンイン・シズカは優雅な所作で片膝を落とす。
格子の隙間に腕を差し入れると、浅い呼吸を繰り返しているサーベルフォックスの額に透けるような白い手を当てがった。
少しの間を置いて、サンゼンイン・シズカの左手から黄金の光がほとばしる。ユアはあまりの眩しさに直視することができなかった。
「──終わりました」
サンゼンイン・シズカが立ち上がるのと呼応して、サーベルフォックスの両目が二度三度と重く開かれる。その後緩慢な動きで立ち上がったサーベルフォックスは、固唾を飲んで見守っている者たちを威嚇するように低い唸り声を上げると、名前の由来となった長く鋭い二本の牙を格子に叩きつけた。
(これは私と一緒の癒しの力!?……ううん、同じなんかじゃない。私なんかよりも遥かに強力な癒しの力をサンゼンイン・シズカさんは持っている)
力が衰えている今は言うに及ばず、たとえ戦場を駆け巡っていた頃のユアであっても、瀕死状態のサーベルフォックスを癒すには相当な時間を要するだろうことは想像に難くない。
それを彼女は一瞬で癒してしまったのだ。
「瀕死のサーベルフォックスがまるで何事もなかったかのように……」
「素晴らしい! これこそが真の癒しの力だ!」
サンゼンイン・シズカが再び頭を下げると、先程を上回る拍手と喝采が謁見の間内を席巻していく。
鳴り止まない拍手を軽く手を上げることで沈めたレガード王は、ユアに色のない視線を戻して言う。
「灰被りの元聖女ユアにはこれまでの多大な功績を鑑み、ブリュンガルデ王国の直轄領たるタイニアを領地として与える。そこで静かに余生を過ごすのがよかろう」
レガード王の言葉に続く形で宰相が口を開く。
「慈悲に溢れた王の言葉にこのベルナーゼ・ドルフ、感動のほかございません。──灰被りの元聖女ユア、偉大なるレガード王に感謝の言葉を述べることを特別に許可する」
感謝なんかしたくない。
感謝するようなことなんて何一つない。
それでもユアにはこう言うよりほか仕方がなかった。
「ありがとうございます。偉大なるレガード王のお慈悲にユアは感謝の言葉しかございません……」
ユアが小さく拳を固めながら言えば、レガード王は鷹揚に頷く。
時を経ずして失笑の声が次々と上がった。
レガード王がユアに下賜するというタイニアは瘴気が漂う地として知られている。直轄領といえば聞こえはいいが、領民がいるわけでもなく草木もまともに生えない。どこまでいっても荒涼とした風景が広がる不毛の地だ。
(どんなに身を粉にして国に尽くしても、結局彼らにとって私はどこまでいっても灰が降り積もる街出身の下賤な女。決して相容れることのない存在だということがよくわかった。それでも私にはあの人がいる)
ユアはすがる思いで恋人のアルフォンスをひたと見つめる。アルフォンスはユアが灰被りの街の孤児であることを知っても関係なく愛してくれた。
だが、ここで思いもよらない光景がユアを襲う。
アルフォンスはユアの視線に気づくとまるで逃げるように顔を逸らしたのだ。
(どうして……⁉)
人目を忍んで何度も愛の言葉を交わした。
人目を忍んで何度も口づけを交わした。
たとえどんなことがあろうとも、アルフォンスだけはユアの味方であると信じていた。
激しく動揺するユアにレガード王は一両日中に王宮から出ていくよう告げてくる。それだけでは終わらず、さらにレガード王は驚愕の言葉を口にした。
「かねてから申し伝えていた通り、アルフォンス卿にはシズカ殿の護衛を命じる」
「ははっ! 喜んでその大任をお受けいたします!」
一切の淀みなく命令を受諾するアルフォンス。
混乱を極めるユアを嘲笑うかのように、サンゼンイン・シズカはアルフォンスの前に歩を進めた。
「アルフォンス様、この世界に私は未だ不慣れです。これから色々と教えてくださいね」
「お任せください。このアルフォンス・レイズナー、これよりは命を賭してサンゼンイン・シズカ様をお守りいたします」
シズカの手に口づけするアルフォンスを見て、ユアは自分の中で何かが砕ける音をはっきりと聞いた。
「灰被りの元聖女ユアよ。用件はこれにて終わりだ。この場から早々に立ち去るがよい」
(もうどうでもいい。もうどうでも……)
ノロノロと立ち上がったユアは黒い視線と笑みを一身に浴びながら出口に向かって歩いていく。
そんな彼女の足を止めさせたのは、謁見の間を切り裂くような鋭い声だった。
音は平伏するユアの横を通り過ぎると壇上の前で鳴り止み、そして──。
(え!?)
明らかに壇上を上がっている足音にユアは驚きを隠せなかった。
壇上に上がることが許されているのは、ブリュンガルデ王国を統べる王自身と近衛兵の一部のみ。王宮で働く者であれば誰もが知っていることだ。
その制限をいとも容易く越えた音の主は、レガード王にとって特別な存在だということを暗に知らしめるものだった。
ユアが顔を上げるよう宰相から命じられたのはそれから間もなくのことだった。
「こちらがブリュンガルデ王国の新たなる聖女だ」
新たな聖女という異界人の容姿は、切れ長の目と長いまつ毛で聡明そうな印象を受けた。古文書の記録にあった通りの黒い瞳で、黒い髪は腰のところまで伸びている。
なによりユアの目を引いたのは異界人が身に着けている衣装だった。壺のような形をしたスカートを履いていて、赤一色に染まっている。上半身も白に白を重ねた独特な仕立ての装束で、左右の袖を覆う布地が膝の付近まで垂れ下がっている。
作りこそ聖衣とは全く異なるが、聖衣と同じく神聖な衣服であることをユアは確信した。
「灰被りの聖女ユアさん、お初にお目にかかります。ただいま偉大なるレガード王のご紹介に与りましたサンゼンイン・シズカと申します」
サンゼンイン・シズカと名乗った異界人は両手をお腹の前で重ねると、サラサラと音が聞こえてきそうな輝く黒髪を頬に滑らせながらゆっくり頭を下げた。
見たこともないその仕草は異界人の挨拶であることは想像つくが、これほど綺麗な挨拶をユアは見たことがない。
顔を上げたサンゼンイン・シズカは、春の陽だまりのような柔らかい笑みをユアに向けてきた。
(ただ笑んでいるだけなのに……)
この世界の住人とは全く違う美しさと気品を併せ持つサンゼンイン・シズカに、ユアはただただ圧倒されてしまった。
「シズカ殿は八百万もの神が住まう古い歴史を持つ国から来た。それだけではなくシズカ殿の家は1500年の長きに渡り神に仕えている由緒正しく格式高い家柄だそうだ。聖女の名を継ぐのにこれほど素晴らしい者がほかにいるだろうか」
レガード王が高らかに告げると、謁見の間内から割れんばかりの拍手が巻き起こった。
その様子を機嫌よく眺めるレガード王は、拍手が鳴りやむタイミングで宰相の名を呼ぶ。宰相は壁際に控える近衛兵に向けて顎をしゃくった。
近衛兵たちは六人がかりで厚い布に覆われた大きな箱らしきものを中央に置く。すぐに近衛兵の一人が布を勢いよく引くと、目に飛び込んできたのは鉄格子の中で横たわる血に濡れたサーベルフォックスの姿だった。
「見てわかる通りこのサーベルフォックスは今や瀕死の状態。放っておけば間もなく死ぬだろう」
レガード王の言葉に嘘偽りがないことは、死が日常だった戦場を生き抜いてきたユアにはわかり過ぎるくらいにわかる。
ユアが視線を異界人に戻すのとレガード王の口が再び開かれたのはほぼ同時だった。
「シズカ殿、真なる聖女の御業をここにいる者たちにも見せてやってくれ」
頷き壇上をゆっくり降りていくサンゼンイン・シズカ。やがて鉄格子の右隣に立ったサンゼンイン・シズカは優雅な所作で片膝を落とす。
格子の隙間に腕を差し入れると、浅い呼吸を繰り返しているサーベルフォックスの額に透けるような白い手を当てがった。
少しの間を置いて、サンゼンイン・シズカの左手から黄金の光がほとばしる。ユアはあまりの眩しさに直視することができなかった。
「──終わりました」
サンゼンイン・シズカが立ち上がるのと呼応して、サーベルフォックスの両目が二度三度と重く開かれる。その後緩慢な動きで立ち上がったサーベルフォックスは、固唾を飲んで見守っている者たちを威嚇するように低い唸り声を上げると、名前の由来となった長く鋭い二本の牙を格子に叩きつけた。
(これは私と一緒の癒しの力!?……ううん、同じなんかじゃない。私なんかよりも遥かに強力な癒しの力をサンゼンイン・シズカさんは持っている)
力が衰えている今は言うに及ばず、たとえ戦場を駆け巡っていた頃のユアであっても、瀕死状態のサーベルフォックスを癒すには相当な時間を要するだろうことは想像に難くない。
それを彼女は一瞬で癒してしまったのだ。
「瀕死のサーベルフォックスがまるで何事もなかったかのように……」
「素晴らしい! これこそが真の癒しの力だ!」
サンゼンイン・シズカが再び頭を下げると、先程を上回る拍手と喝采が謁見の間内を席巻していく。
鳴り止まない拍手を軽く手を上げることで沈めたレガード王は、ユアに色のない視線を戻して言う。
「灰被りの元聖女ユアにはこれまでの多大な功績を鑑み、ブリュンガルデ王国の直轄領たるタイニアを領地として与える。そこで静かに余生を過ごすのがよかろう」
レガード王の言葉に続く形で宰相が口を開く。
「慈悲に溢れた王の言葉にこのベルナーゼ・ドルフ、感動のほかございません。──灰被りの元聖女ユア、偉大なるレガード王に感謝の言葉を述べることを特別に許可する」
感謝なんかしたくない。
感謝するようなことなんて何一つない。
それでもユアにはこう言うよりほか仕方がなかった。
「ありがとうございます。偉大なるレガード王のお慈悲にユアは感謝の言葉しかございません……」
ユアが小さく拳を固めながら言えば、レガード王は鷹揚に頷く。
時を経ずして失笑の声が次々と上がった。
レガード王がユアに下賜するというタイニアは瘴気が漂う地として知られている。直轄領といえば聞こえはいいが、領民がいるわけでもなく草木もまともに生えない。どこまでいっても荒涼とした風景が広がる不毛の地だ。
(どんなに身を粉にして国に尽くしても、結局彼らにとって私はどこまでいっても灰が降り積もる街出身の下賤な女。決して相容れることのない存在だということがよくわかった。それでも私にはあの人がいる)
ユアはすがる思いで恋人のアルフォンスをひたと見つめる。アルフォンスはユアが灰被りの街の孤児であることを知っても関係なく愛してくれた。
だが、ここで思いもよらない光景がユアを襲う。
アルフォンスはユアの視線に気づくとまるで逃げるように顔を逸らしたのだ。
(どうして……⁉)
人目を忍んで何度も愛の言葉を交わした。
人目を忍んで何度も口づけを交わした。
たとえどんなことがあろうとも、アルフォンスだけはユアの味方であると信じていた。
激しく動揺するユアにレガード王は一両日中に王宮から出ていくよう告げてくる。それだけでは終わらず、さらにレガード王は驚愕の言葉を口にした。
「かねてから申し伝えていた通り、アルフォンス卿にはシズカ殿の護衛を命じる」
「ははっ! 喜んでその大任をお受けいたします!」
一切の淀みなく命令を受諾するアルフォンス。
混乱を極めるユアを嘲笑うかのように、サンゼンイン・シズカはアルフォンスの前に歩を進めた。
「アルフォンス様、この世界に私は未だ不慣れです。これから色々と教えてくださいね」
「お任せください。このアルフォンス・レイズナー、これよりは命を賭してサンゼンイン・シズカ様をお守りいたします」
シズカの手に口づけするアルフォンスを見て、ユアは自分の中で何かが砕ける音をはっきりと聞いた。
「灰被りの元聖女ユアよ。用件はこれにて終わりだ。この場から早々に立ち去るがよい」
(もうどうでもいい。もうどうでも……)
ノロノロと立ち上がったユアは黒い視線と笑みを一身に浴びながら出口に向かって歩いていく。
そんな彼女の足を止めさせたのは、謁見の間を切り裂くような鋭い声だった。
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
拾った年上侯爵が甘え上手すぎて、よしよししてたら婚約することになりました
星乃和花
恋愛
⭐︎火木土21:00更新ー本編8話・後日談8話⭐︎
王都の市場で花屋をしているリナは、ある朝――
路地裏で倒れている“美形の年上男性”を拾ってしまう。
熱で弱っているだけ……のはずが、彼はなぜか距離が近い。
「行かないで」「撫でて」「君がいると回復する」
甘えが上手すぎるうえに、褒め方までずるい。
よしよし看病してあげていたら、いつの間にか毎日市場に現れるようになり、
気づけば花屋は貴族の面会所(?)になっていて――
しかも彼の正体は、王都を支える侯爵家の当主だった!?
「君は国のために必要だ(※僕が倒れるから)」
年上当主の“甘え策略”に、花屋の心臓は今日ももたない。
ほのぼの王都日常コメディ×甘やかし捕獲ラブ、開幕です。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。
蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。
これで、貴方も私も自由です。
……だから、もういいですよね?
私も、自由にして……。
5年後。
私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、
親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、
今日も幸せに子育てをしています。
だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。
私のことは忘れて……。
これは、すれ違いの末に離れ離れになった夫婦の物語。
再会したとき、二人が選ぶのは「離婚」か、それとも「再構築」か。
妻を一途に想い続ける夫と、
その想いを一ミリも知らない妻。
――攻防戦の幕が、いま上がる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる