貧乏から貧困、その先。

護茶丸夫

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11 相変わらず声がでかい

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*すみません、書き足し中が予約投稿で上がってました。慌てて書き足したのを、改めてドン*


「トームー! 行商のおっさんが来たぞー。」
「おー! 今行くぞー!」

 家で鉈の手入れをしていたら、ギルが子供の様に外から大声で呼んできた。
 ワタワタと片付け、外に出る。
 ギルが帰って来てからは、昔のように誘われて出かけるようになった。
 出かけるって言っても、最近は男小屋でまったりするだけなのだが。

「珍しいな、秋にしか来たことないのに。」
「だよな、雪が降ったら来ないと思ってたよ。」
「今回は何があるのか楽しみだな。っても、買えないけどな。」
「せっかく来たのになー、物は売れない買い取る物もない、おっさんも大変だー。」
「だよな。なんか悪いなぁ。」

 今日は二人とも手ぶらだ。
 見るだけでも楽しいから、気にしないでおこう。
 欲しいのがあれば、急いで家に売り物を取りに行けばいい。

 行商のおっさんがいつも露店を開く広場に来たら、荷物の乗った馬車のみ置かれていた。
 集まった村の皆は、馬車の周りで話し合っている。

「どうしたんだ?」
「ああ、今村長の所に行ってるんだってさ。話が先だって、アルバートと一緒にいったままだよ。」
「ふーん。なんだろう。」

 それぞれが思い思いに、気持ち売り物になりそうな物を持って集まっている。
 やっぱり今、何か持ってきた方がいいかな。
 物々交換になっちまうけど、おっさんは気にしないのがありがたい。
 そわそわしながら話をしながら待っていると、暖かそうな上着を着たおっさんとアルバートが戻って来た。

「おおー! みんな待たせてすまないなー!」

 相変わらず声がでかい。

 おっさんはがさがさと馬車へ荷物を取り出すために乗り込む。
 いつもならすぐに荷ほどきして広げるはずが、珍しく手伝えと言われ、馬車の木箱を運ぶ。
 しかし馬車の中はガラガラだ。
 あるのは、明らかに売り物ではない日用品が少しだけ。
 ちょっと少なすぎないか? 儲かってないのか。

「よし! これで全部だ! ……。あー。贈り物だ! 貰ってくれ!」

 木箱が開けられるのを、わいわいと待っていた村の皆。
 その言葉にピタリと話声が止まる。

 いや、何言ってんだ、おっさん。

「儂は引退することにした! 引退後は、息子夫婦の世話になる!」
「だから、ここに来るのは、これで、最後だ……。」

 俺も含めて、みんな、驚きで言葉が出ない。
 涙を流し、一人ひとりの顔をしっかりと見ていくおっさん。

 おっさんと目が合った。
 あれ? いつの間におっさんはこんなに年をとったんだろう。
 こんなにしわくちゃな爺さんだったか?
 でっかい手とでっかい体で、でっかい声で。
 あれ? いつの間におっさんはこんなにちっちゃい爺さんになったんだ?

「おっさん……。」
「おっさん、どうして。」

 荷下ろしを手伝っていたギルと二人そろって、声が出ない。
 泣きながら顔を見て回るおっさんに、何を言っていいのかわからない。

 おっさんの隣にいたアルバートが赤い目をして、皆に聞こえる様に話し始めた。

「行商人さんは、引退するのを延ばし延ばしで頑張って来てくれてたんです。」
「最後にって、商品、困ってるだろうって、持って。持ってきてくれた……。」

 アルバートまで泣き出した。
 俺は、息が苦しくて、もう喋れない。 

「この後は息子がいる隣の国までひとっ走りだ。」

 涙が流れっぱなしで、笑いながら話すおっさん。
 なんだおっさん、普通の声の大きさでも話せるじゃねえか。
 あんまり声がでかいから、耳が悪いもんだとばかり。

「儂は、この村が一番好きだったんだ。いつもニコニコして、悪いヤツなんていなかった。馬車の番をしなくても眠れる村なんて、そうそうなかったんだ。」
「今の村長の親父さんも、駆け出しだった頃の儂にいつだって親身になってくれた。今の村長の寂しんぼ坊主も、そのまま良くしてくれて。その息子のこいつもだ。村の皆も、なんだかんだで世話をやいてくれて。体調が悪い時もすぐバレっちまう。」
「だから、皆元気で。儂のできる精一杯を受け取ってくれ。」

 おうおうと泣くおっさんに、かける言葉が無い。
 村の皆は慌てて家に帰り、代金のかわりに精一杯の保存食を渡し始めた。

 俺も急いで家に戻り、とっておきの毛皮と細工用の革を渡せるだけ渡す。
 マリーは移動中に寒くない様にと、まだ綺麗な毛布を持たせる。
 子供達は、自分一人で狩りで捕った、記念の毛皮で作ったお気に入りの道具を。
 ギルは馬用の飼い葉を腕いっぱいに持ってきた。

 まて、それはどこから持ってきた。

「おっさん、長生きしろよ。いつも、ありがとう。」
「泣き虫トムは、髭もじゃになっても相変わらず泣き虫だ。マリーを大切にするんだぞ。」
「……うん。元気でいろよ。」

 おっさんは一人一人に声をかけて、泣きながら馬車を出した。
 これからどこにも寄らず、真っ直ぐ隣国に向かうらしい。
 雪が本格的になる前に、移動しきりたいって。

 無事に目的地に着いてくれればいい。
 あと、息子さん夫婦に大切にされて欲しい。
 声がでかすぎると、孫に嫌われっちまうぞ。
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