貧乏から貧困、その先。

護茶丸夫

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12 両手に刃物で

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 雪が積もっていく。
 狩りは遠出しないと獲物がいない。

「音が聞こえないなぁ。足音もなにも聞こえねえ」
「木が凍る音だけだー。」
「静かにしろ。音が無いなら、目で見ろ、気配を探れ、鼻を効かせろ。違和感があればすぐに合図を出せ。」
「おう。」
「ふわーい。」

 親父を含めて引退組が復帰したお陰で、三組に分かれて交代で見習いを連れて出る事が出来る。
 ギルの親父さんは体がきついって引退するはずだったのに、ギルが戻って来たとたん元気になった。
 引退組が張り切っていると、見習いの子供達が大人しくて助かる。
 俺らもついでに怒られるのは、お約束だから仕方ない。
 あいつが扱かれてるのは見てると面白いが、油断するととばっちりが来るので笑えない。

「トムおじさん、違和感って?」
「周囲を見てると、『ん?』ってなる瞬間があるんだ。その時は何かがこっちを見てるか、隠れてる事が多い。」
「それって、わかるの?」
「すごい!カッコイイ!」

 見習い達とひそひそと会話しながら、指示や教えをかみ砕いて伝える。
 昔は爺ちゃん達が引率で、親父達が俺らに分かりやすいように教えてくれたモンだ。
 今の見習いが一人前になれば、俺らが引率者の立ち位置か。
 できるかなぁ。特にギル。

「なんとなく?」
「ええー? 俺はちっともわからねーよ。」
「うるさいぞ。」

 見習いの質問に答えながら、案の定怒られる。
 ギルは弓は上手いのに、見つけるのが下手だからなぁ。
 喋りすぎるから、獲物に気づかれやすいんだよ。
 見習いも呆れてるぞ。

 前の組の仕掛けた罠の場所に寄る。ここも何も無しっと。
 さすがにもう、ここらには罠にかかるほどはいないか。

 一応、村の周囲には狩人嫁と見習いたちが罠を仕掛けてある。
 罠のついでに細い木を切り倒し、薪と根っ子を採って冷たい空気にさらしておくのもお願いした。

 試しに根っ子を粉にしてみる事も考えたが、あまりにも手間がかかりすぎたのでやめた。
 水につけておく方が楽だ。水の取り換えなら、チビ達でも出来る。
 だが子供達には食べさせられない。「大人用の食事」として憧れても、一口いや、一噛みすればもう食べたいとも思わないからなぁ。
 長男が初めて口にした時の、あの絶望した顔。
 悪いが大笑いさせてもらった。

 まぁ、実際マズイ。
 虫になった気分になる。まだ虫を食べた方が。いや、あまり変わらないか。
 柔らかいか硬いかの違いで、味は一緒だ。
 うん。狩り頑張ろう。

 山向こうならばまだ獲物はいるかもだが、この時期の山越えと、大型と遭遇した場合の損得を考えて、登るのは中腹まで。
 あとは、大型と出会った場合は、仕留めきるまで村には戻らない決まりを作った。

 手負いが一頭でも、俺達のにおいをたどって来る事が一番怖い。
 大型同士がにおいをたどってたどり着き、間違いなく被害が出る。

 村に大型を呼び込んでしまうとか、嫁達の方が怖いわ。
 マリーなら絶対、「オラッコイヤー!」って、両手に刃物で飛び掛かっちまう。
 やだ怖い。
 想像しただけで涙出そう。ううう。

 中型の獣なら群れでウロウロしてるのが、まだいる。
 ちょっとずつ間引きさせて貰う。
 見習い達も弓が上手いのがちょいちょいいる。
 弓が苦手な子は、あとで別の得意を探してやろう。

「よし、一度戻ろう。」
「二頭なら、まぁまぁかな。」
「こっちの人数多かったからな。さて、次の組に、この場所を伝えないといけないから、ちゃんと覚えておいてくれよ。」
「「「はいっ」」」

 貯蔵庫の食料は、もうからっぽだけど、なんとか残り物で食べて生きていけてる。
 移住した若い奴らは、ちゃんと食べているだろうか、元気だろうか。

 灰色の空を見上げても、自分の出した白い息だけが見える。

 家に戻ろう。

 家の中に人数は多いが、その分薪が少なくても暖かい。
 肉を配る時に、兄貴の顔も見に行こう。
 担ぎやすいように獲物の足をくくり、見習いの一人に持たせる。
 順番で担いで運ぶが、割合は見習いがおおい。
 うん、俺らも通った道だ。頑張れよ。

「なぁギル、あとで兄貴のとこに一緒に行こうぜ。」
「おっ、じゃぁチビ達がいる時間を狙って行こうよ。最近話が長すぎて、止めどころがわからないんだよー。」
「でもなぁ、一緒に勉強させられっちまうぞ。」
「べつにいいよー。隣の子の答え、見ればいいんだよ。」
「それはーどうかと……。」
「ギルおじさん、そんなことしてたの?」
「さすがに、ちょっとない。」
「それは、大人としてどうかと思う。」

 見習い達がドン引きだ。
 てへへじゃねえよ。

 よし、兄貴にチクってやろう。
 最近怪我が良くなって、喋れるようになったら、話が止まらなくなった。
 昔っから話好きだったけど、ここの所、物凄い勢いで話す。
 村長の家に来た人は必ず捕まる。
 まだ歩けないから、被害は村長宅内だけで済んでるけども。

 その村長宅は、ヒマを持て余してる村の子供達が入り浸っているが、読み書き計算も楽しそうに兄貴が教えてるので助かる。
 ただ、痩せ過ぎが元に戻らないのが、気になる。
 もう少し肉を付けないと、不安で仕方がない。

 いや、考えすぎだろ。
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