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13 俺は手伝いだけ
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懸命に作った秘密き、いや、地下の部屋が暖かい。さすが俺。
もう寒い外に出たくない。
でも、この時期の朝の水汲みは、男の仕事だ。
洗濯もままならない、いい方法が浮かべばマリーも喜んでくれるのに。
「なに溜息ついてんだ?」
「いや、洗濯がな。」
「え? とうとう洗濯までお前がやるの?」
「すげえ兄ぃ、主婦の鏡。」
「いや、あのな。マリーが、下着を洗われるの嫌がるんだ。だから、俺は手伝いだけしか。」
「あ? 本当にやろうとしたの?」
「トム……。」
「兄ぃ……。」
井戸の周辺にいたみんなが、溜息をついた。なぜ?
「寒いし、水は冷たいし、なにかいい考えはないかなぁっと。」
「あーはいはい。家に洗濯場でも作れば? それで、寒くない家の中で洗濯して貰えばー? お前も好きなだけ、手伝えるんじゃないのー。」
「ギル! 頭いいなお前!」
「「「「えー。」」」」
そうか、家の中に洗濯する場所を作れば。いや、家に小屋をくっつけて作って。
そうだな、かまどの横にドアをつけて、お湯を運びやすく。
いや、水がめをかまどの裏において、常にぬるい水があれば。
水はけはどうする? 土間のままじゃドロドロになっちまう。
地下に水がいかない様に、工夫するには。
「おい、ギル。どうするんだあれ。」
「ギル兄ぃ、また余計な事を。」
「これはまたマリーに怒られるな。」
「やべえ、俺はとっとと帰る。」
「俺も! あとは任せた!」
「ギル、いつも言ってるだろ、考えてから喋れと。」
「待って待って、俺のせいなの?」
細々と食べ物を分け合い、どうにか冬を越せそうだ。
やっと空気の冷たさが緩んできた。もうすぐ春だ。
隣村から連れてきたお婆さんが、とうとう亡くなった。
いつも村長の家で、ずっと離れ離れになった家族のために祈ってるのは見てた。
そして、どんなにすすめても、少しずつ食べなくなっていたのは聞いてた。
こちらの村で墓を作ると決まった後、立て続けに年寄りたちが眠るように逝ってしまった。
村の墓地までには、少しだけ距離がある。
さすがに亡くなった人数が多いので、入り口近くに墓を並べる事になった。
あと兄貴の墓。村長の分は、一番村に近い場所に。
亡くなったお婆さんを、こっちに埋葬するのを決めた次の日。
村長の家で、みんなでがやがやと準備している中、兄貴の返事がなくなったから、うとうとしてると思ってた。
子供達が異変を感じて大人を呼んだ時には、もう心臓は止まってた。
呆然としていたら、他の家からも慌てて人が走ってくる。
その日のうちに兄貴を入れて三人。
次の日の朝も、話し合いでもしていたかのように、眠ったまま二人。
みんなで別れの会食を作っているときに、急に倒れた一人。
なんだこれ。
なんだこれ。
なんだっていうんだ?
アルバートが感染病を疑ったけど、誰もそれらしい症状もない。
どうも食を減らしすぎと、年齢もあったんだろうと。
兄貴は。
アンリが泣きながら、ここまで頑張って回復できると思わなかったって。
黙々と墓を掘り、埋葬した。
ずっとフワフワとして、ただただ淡々と何もかもをこなした。
ふと気がついたら、俺は兄貴の墓の前で座っていた。
隣を見ると、アンリとアルバートが泣いていた。
見回すと、他の墓の前にもそれぞれの家族がいて、みんな泣いている。
ああ、夢じゃなかった。
幻覚でもなかった。
一気にフワフワが消えた。
嫌になるほど心細くて悲しくて、叫びたくなる気持ちが噴き出した。
何かに喉が押されて、息苦しい。
心臓に穴が開いてるみたいに、何か足りない。
体のどこを見ても何ともないのに、どっか足りない。
寝てると思ってたら。
急に倒れたと思ったら。
兄貴以外は確かに年寄りで、仕方ないのかもしれないけどよ。
こんな、まとめて逝かなくてもいいじゃないか。
なんだこれ。
俺らが何をしたって言うんだ。
みんな一生懸命、真っ当に生きてきたじゃないか。
なんで、腹を空かせて死んじまわないといけないんだ。
爺ちゃん達はいくさで、何度も辛い思いをして戻ってきたのに。
婆ちゃん達だって、どんな時でもいつも明るく接してくれてたのに。
なんだっていうんだ。
いっつも人の心配ばっかりして、お節介ばっかり焼いてよ。
薬が効いてたんじゃないのかよ。
良くなってきてたじゃないか。
兄貴いないと俺ら、どうすりゃいいんだよ。
アルバートも可哀想じゃねえか。
アンリなんて、もう嫁の貰い手いないじゃねえか。
せめて、誰かに押し付けていけよ。
「あにきぃ、早すぎるよ。おいて行かないでくれよ。」
兄貴、どうすりゃいいんだよ。
俺らにどうしろって言うんだよ。
分かんねぇよ、口出ししてくれねぇと寂しいじゃねえかよ。
「あにきぃ……。」
村長の息子のアルバートが、新しい村長に決まった。
若いから無理だという本人を、皆で助け合うと約束してなって貰った。
こいつは誠実だ。
村長代理の時でも、十分に頼りになった。
ただ、父親に似て誠実すぎるのが心苦しくて、やっぱり辛い。
村長役交代させたくても、他に出来そうなのがいないんだ。
ごめんよ。
もう寒い外に出たくない。
でも、この時期の朝の水汲みは、男の仕事だ。
洗濯もままならない、いい方法が浮かべばマリーも喜んでくれるのに。
「なに溜息ついてんだ?」
「いや、洗濯がな。」
「え? とうとう洗濯までお前がやるの?」
「すげえ兄ぃ、主婦の鏡。」
「いや、あのな。マリーが、下着を洗われるの嫌がるんだ。だから、俺は手伝いだけしか。」
「あ? 本当にやろうとしたの?」
「トム……。」
「兄ぃ……。」
井戸の周辺にいたみんなが、溜息をついた。なぜ?
「寒いし、水は冷たいし、なにかいい考えはないかなぁっと。」
「あーはいはい。家に洗濯場でも作れば? それで、寒くない家の中で洗濯して貰えばー? お前も好きなだけ、手伝えるんじゃないのー。」
「ギル! 頭いいなお前!」
「「「「えー。」」」」
そうか、家の中に洗濯する場所を作れば。いや、家に小屋をくっつけて作って。
そうだな、かまどの横にドアをつけて、お湯を運びやすく。
いや、水がめをかまどの裏において、常にぬるい水があれば。
水はけはどうする? 土間のままじゃドロドロになっちまう。
地下に水がいかない様に、工夫するには。
「おい、ギル。どうするんだあれ。」
「ギル兄ぃ、また余計な事を。」
「これはまたマリーに怒られるな。」
「やべえ、俺はとっとと帰る。」
「俺も! あとは任せた!」
「ギル、いつも言ってるだろ、考えてから喋れと。」
「待って待って、俺のせいなの?」
細々と食べ物を分け合い、どうにか冬を越せそうだ。
やっと空気の冷たさが緩んできた。もうすぐ春だ。
隣村から連れてきたお婆さんが、とうとう亡くなった。
いつも村長の家で、ずっと離れ離れになった家族のために祈ってるのは見てた。
そして、どんなにすすめても、少しずつ食べなくなっていたのは聞いてた。
こちらの村で墓を作ると決まった後、立て続けに年寄りたちが眠るように逝ってしまった。
村の墓地までには、少しだけ距離がある。
さすがに亡くなった人数が多いので、入り口近くに墓を並べる事になった。
あと兄貴の墓。村長の分は、一番村に近い場所に。
亡くなったお婆さんを、こっちに埋葬するのを決めた次の日。
村長の家で、みんなでがやがやと準備している中、兄貴の返事がなくなったから、うとうとしてると思ってた。
子供達が異変を感じて大人を呼んだ時には、もう心臓は止まってた。
呆然としていたら、他の家からも慌てて人が走ってくる。
その日のうちに兄貴を入れて三人。
次の日の朝も、話し合いでもしていたかのように、眠ったまま二人。
みんなで別れの会食を作っているときに、急に倒れた一人。
なんだこれ。
なんだこれ。
なんだっていうんだ?
アルバートが感染病を疑ったけど、誰もそれらしい症状もない。
どうも食を減らしすぎと、年齢もあったんだろうと。
兄貴は。
アンリが泣きながら、ここまで頑張って回復できると思わなかったって。
黙々と墓を掘り、埋葬した。
ずっとフワフワとして、ただただ淡々と何もかもをこなした。
ふと気がついたら、俺は兄貴の墓の前で座っていた。
隣を見ると、アンリとアルバートが泣いていた。
見回すと、他の墓の前にもそれぞれの家族がいて、みんな泣いている。
ああ、夢じゃなかった。
幻覚でもなかった。
一気にフワフワが消えた。
嫌になるほど心細くて悲しくて、叫びたくなる気持ちが噴き出した。
何かに喉が押されて、息苦しい。
心臓に穴が開いてるみたいに、何か足りない。
体のどこを見ても何ともないのに、どっか足りない。
寝てると思ってたら。
急に倒れたと思ったら。
兄貴以外は確かに年寄りで、仕方ないのかもしれないけどよ。
こんな、まとめて逝かなくてもいいじゃないか。
なんだこれ。
俺らが何をしたって言うんだ。
みんな一生懸命、真っ当に生きてきたじゃないか。
なんで、腹を空かせて死んじまわないといけないんだ。
爺ちゃん達はいくさで、何度も辛い思いをして戻ってきたのに。
婆ちゃん達だって、どんな時でもいつも明るく接してくれてたのに。
なんだっていうんだ。
いっつも人の心配ばっかりして、お節介ばっかり焼いてよ。
薬が効いてたんじゃないのかよ。
良くなってきてたじゃないか。
兄貴いないと俺ら、どうすりゃいいんだよ。
アルバートも可哀想じゃねえか。
アンリなんて、もう嫁の貰い手いないじゃねえか。
せめて、誰かに押し付けていけよ。
「あにきぃ、早すぎるよ。おいて行かないでくれよ。」
兄貴、どうすりゃいいんだよ。
俺らにどうしろって言うんだよ。
分かんねぇよ、口出ししてくれねぇと寂しいじゃねえかよ。
「あにきぃ……。」
村長の息子のアルバートが、新しい村長に決まった。
若いから無理だという本人を、皆で助け合うと約束してなって貰った。
こいつは誠実だ。
村長代理の時でも、十分に頼りになった。
ただ、父親に似て誠実すぎるのが心苦しくて、やっぱり辛い。
村長役交代させたくても、他に出来そうなのがいないんだ。
ごめんよ。
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