貧乏から貧困、その先。

護茶丸夫

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14 結構強いもん

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 寒さが緩み、雪が溶けてきた。
 もう少し暖かくなれば、食べられる野草も芽を出す。
 そして考えたくもないが、来て欲しくない役人もまた来るだろう。
 この数年、税金を取りすぎだろう。
 急いで隠れ里の用意をしないと、人頭税の支払いがきつい。

「父さん、僕は役人が来ても平気だよ。」
「僕も! へいき!」
「そっか、そうか。二人とも強いな。お母さんに似たんだな。頼りになるなぁ。」
「私も家に残っても、平気だよ?」

 息子二人の健気な言葉に、涙が出そうだ。
 そして娘の強気な言葉に別の意味で、涙が出そうになる。

「駄目だ。年頃の娘が家に居たら、役人に連れて行かれっちまうかもしれないだろ。」
「心配性だー。大丈夫だよっ! 私、結構強いもん。」
「それはもっと駄目だ。役人は護衛を連れてくるんだぞ。」
「やっつけちゃうけど? 負けるわけないじゃない。」

 どうしよう、好戦的すぎる。
 しかも本当に勝てる気でいる。
 しかし頼れるお母さんなマリーが、びしりと指さす。

「牙持ちの群れの獣に、堂々と手を出したらどうなるかわかる?」
「……囲まれる。」

 マリー、その例えで大丈夫なのか?
 理解できてないぞ。

「そうね、殺るとこ見られたら囲まれちゃうわね。役人も同じなの。」
「? バレなきゃいいじゃない?」

 やるが殺すって聞こえたけど、気のせい?
 そして短絡的すぎるぞ、マチルダぁ。

「あんた、狩りに行くときどこに行くか言わないの?」
「言う。遅くなったら、父さんたちが探しに行くとき困るもん。」
「役人が出かける時、どこに行くか、誰にも言わないと思う?」
「あー。思わない。でも、追加で来ても、そいつもやっつけちゃえば……。」
「探しに来る時に一人で来ると思うの?倍の人数で来るわよ。」
「でも。」
「それでもまた、帰って来なかったら、騎士団連れてくるわよ? あんた騎士に勝てるの? 何十人の騎士相手にあんた一人で?」
「みんなで戦えば、勝てるんじゃないの?」
「本気で言ってるの?」

 大雨が屋根を叩く様な、めっちゃ早口が飛び交う。
 ここは雨足が止まるまで様子見が一番だ。

「マチルダ、あんたは狩人向いてない。」
「なんで!?」
「先を考えられない狩人なんて、すぐ獣に逃げられるか、返り討ちにされちゃう。しかも仲間を危険にさらす事を、平気で考えるなんて有り得ない。」
「危険なんて。」
「なんで大型を仕留めるまで、帰ってこないって決まりがあるか知ってる?」
「……。」
「村のみんなが戦えるわけじゃないからよ。人間相手なんて、人質取られたら終わりよ? あんたマシューが人質に取られても戦うの? マシュー死んじゃってもいいの?」
「でも。」
「ちゃんと考えなさい。お父さんの子なんだから、頭は悪くないわ。とにかく狩りに出るのは禁止。」

 めちゃめちゃ怒ってるマリーに、言い返せない娘。
 うん、父さんも無理だからね。そして、狩り禁止には賛成だ。
 息子二人は大人しく座ってる。
 二人とも手元をコチョコチョしてるのが、とても可愛い。
 落ち着くまで、三人で大人しくしておこう?
 
 しかしまた、年寄りと子供達には辛い思いをしてもらう事になるのが、本当に嫌になる。
 成人した子供達と隣村から来たみんなには、また隠れて貰う事になるのも嫌だ。
 前回役人が来た時より七人減ったが、さらに減っている様に見せる為、矛盾しない様にアルバートが各家に人をばらけさせる。

 さすがに細かくなってきた。
 もうこんがらがって覚えきれない。
 みんなも覚えきれないので、役人が来た時の動きを、何度か試す。
 無邪気にかくれんぼしてるつもりの子供達が、和む。
 町への道途中にある、隠れ見張り台も手直しする。
 やることは多い。
 考えるのは、あまり動けない年寄り達と新村長に任せっきりだ。

 毎日バタバタと偽装をして、あちこち補修もしてと忙しくしていたら、とうとう来た。
 いつもの徴税官と護衛二人だ。
 本当に、なんでこんなに税金ばっかり集めるんだ。
 こっちには何も恩恵が無いのに、あいつら強盗のように奪うだけ。

 アルバートが役人達の説明役になって、ついて回り説明している。
 こっちは前のように、こっそり隠れ里へと移動する。
 じっと息をひそめ、立ち去った合図を受けて慎重に村に戻る。
 どの家も荒らされているが、物がない分あまり散らからないから、まだマシだ。

 役人が予想通り、村人が減っているのを不審がっていたようだ。
 村入り口の墓を見て、納得できないが諦めたとか。
 あとは冬場に食料を探しに出たっきり戻ってこない、探せば遺体があるかもしれないと伝えたと。

 目撃した年寄りが言うには、徴税官がずいぶんと痩せていて、飢えているかのように食料を執拗に探していたらしい。
 鍋に残る野草と木の根の煮込みをみて、あからさまにがっかりしていたらしいが、きっちり全家屋の薪と小さな毛皮をあるだけ持って帰ったそうだ。

 取られたものを確認していたアルバートも、すっかりやせ細った。
 髭もあてていないから、ずいぶんと老けて見える。
 まぁ、貫禄はまだまだないが。
 
 年寄達が、もしかしたら役人達は村長が変わっている事に、気が付いていないかも、と笑っていた。
 いや、そこまで頭は悪くないとは思うけど、
 でも俺らでも結構、興味の無い事は覚えないものだし有りうるかも。
 
 ……。だとしたら、役人が残念過ぎて余計に腹が立つ。
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