貧乏から貧困、その先。

護茶丸夫

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15 町でモテちゃうかも

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 役人達をやり過ごし、さて、種まきはどうしたものかと頭を寄せ合う。
 町に行っても金は無いから、何も買えない。
 行商のおっさんが持ってきたのは、塩やスパイス、古着が主だ。子供用の服や人形、リボンはありがたかった。
 だが、売り物になるようなものはさすがにない。

 しかも冬前に行商のおっさんが、開いてる店がほとんどないのと、治安が物凄く悪くなって傭兵と浮浪者が増えたって話だった。
 買取も渋くて、商人同士でもなければ、かなり買い叩かれてるって。

「まいった、俺もみんなも何も思いつかない。」

「何よ、暖かくなったんだから、遠出してどうにかしましょ?」

「それだと、種まきがいつになるか分からない。俺ら狩人は良いけど、畑仕事の連中が辛そうでなぁ。」

「そうよねぇ。夏までに何とかしたいわよね……。」

「父さん! お母さん! わたし身売りする!」

「はい?」

「……。ダメよ。」

 家に帰ってからも途方に暮れていたら、娘から身売りの話が出てきた。
 まだ成人もしていないのに、馬鹿な事をとは言ったが、諦めてくれない。
 村長のアルバートに相談しに行くと、どうやら村の娘数人が、同じ事を言って困っているらしい。

「止めてるんですが、決心が固い子が多いのが……。」

「ウチもすっかり出ていく気満々だよ。身売りの意味わかってないぞ、絶対。」

「だよなぁ。ウチもそうだよ。」

「こっちもだ。町の現状を知らせてないからなぁ。」

「説明してもわかるかなぁ。」

「娘はは去年、町を見て来てるから、少しは知ってるはずなんだけどな。」

「どうしてあんなに頑固なんだ。」

「参ったな……。」

 結局、俺と男装した娘が、町に様子を見に行くことになった。
 自分の娘の相場を聞くと言うのは、辛いのだが。
 なにより本人の強い希望が通ったのは、わが家だけでなく村長にも付きまとった成果だ。
 
 気休めだが、ぞろぞろと連れて行くよりマシだ。
 男装の理由は、治安の悪化への不安が大きい。
 先日聞いた役人の痩せっぷりの話が、不安を煽る。

「どう? 曾婆ちゃんみたいに格好いいかな?」
「……。(もしかして、男装にこだわった理由って。)」
「……。(ヤダ。ウチの娘がこんなにおバカだったなんて。)」
「……。そ、そうね。ただちょっと、女の子らしさが出ちゃってるわね。」
「……。あれは母さんは腕っぷしが強くて、似合って、ガフっ」
「うふふ、やあね。お母さんは素敵だったわよ?」
「「まぁまぁじゃない?(普通)」」
「ふふん! 町でモテちゃうかもしれないわね。」

 男物を着て小振りの鉈と短剣を腰に差し、立ち姿を披露して回る娘に、溜息しか出ない。
 村のみんなも、娘達以外は言葉に困ってる。みんな、すまない……。
 決めたその日に出発。
 さすがに荷馬車は目立つので、歩いて一日かけて町に着く。
 最初の難関である町の入り口に、門番がいない。

「よかった! 喋れないって結構つらいね。」
「そっか、でも声でバレる可能性もあるから、気を抜くなよ。」
「わかってる! 任せてよ!。」
「ああ、頼むぞ。(どうしよう、チェルシーと似てきてる。)」

 驚いたことに、町の中に人がいない。いや、いると言えばいるが。
 ほとんどが道端にぼんやりと座っているか、寝転がってピクリとも動かない。

「……ねぇ父さん、このにおいって。ううん。行こう。」

 町に入る前から気がついてはいたが、あちこちから独特のにおいがする。
 娘も気が付いた様だが口には出さない。
 大通りを歩いていると、路地から視線を多く感じる。
 俺も娘も、革の鞘に収めた鉈を腰に下げているし、俺の容姿は少々物騒だ。
 緊張はするが絡まれることもなく、移動は出来た。

 身請け屋の周りには数人の姿はあるが、皆ぼんやりとしている。
 受付のくたびれた中年の男と、やり取りする。

「もしそっちの兄ちゃんが身売りするってんなら、これ位だ。」
「兄ちゃんじゃないわ。ピチピチのお嬢さんよっ!」
「ありゃ、女の子かい。じゃぁ、これだけだな。」

 受付が指を何本か出すが、女だとわかると指の本数が減る。
 一本あたりの金額がわからない、正直に聞くと驚くほど安い。
 値段を聞いてムカついたが、どうもあちこちの村や町から身売りに来る人数が多すぎて、値崩れしているそうだ。
 娼館や売春宿には人が増えすぎて、稼げない者はどんどん首になっていると。

 とりあえず食うに困ったら、王都に行くように勧められた。
 炊き出しというモノをやっていて、寝床は無くても何とか食べる物だけはあるらしい。
 でも、そこも人が余っていて、働き口についてはどうしようもないとも。
 どこもかしこも、いっぱいいっぱいだなぁとポロリとこぼす。
 男も疲れたように溜息をつき、頷く。

 当然だが、娘は自分につけられた安い値段に激怒した。
 一通り話し終わった男に、土砂降りの雨の様な早口で怒鳴りまくる。
 こうなると、俺にはなにも出来ないし言ってはいけない。
 相場の事情を話した身請け屋が、可哀想になるほどだ。
 そのうち吹っ切れたらしく、村に帰ろうといいだした。
 親身になって情報をくれた涙目の身請け屋に、こっそりすまないと謝り店を出た。
 
 変な感じだが嬉しい、金の目途は立たなかったが。
 娘が自分から諦めてくれた。それが一番だ!

 通りを歩いていて、町中から神経に触る腐臭が漂ってくる。
 このままここにいるよりは、移動して考えた方がいい。
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