貧乏から貧困、その先。

護茶丸夫

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19 話をぺちゃんこに

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 薄明かりの中、なんとか村に戻れた。
 男装姿を褒められてご満悦の娘は、べったりくっついていたのが嘘のようにご機嫌で歩く。
 ちょっと寂しい。
 もうちょっと、くっついてくる娘を堪能したかった。
 小っちゃい頃は、あんなに一緒にいてくれたのになぁ。
 悲しい。

 家が近くなったところで、娘を先に家に帰す。
 大張り切りで走っていく後ろ姿に、急に胸が切なくなる。
 お父さんも一緒に帰ろうとか、言ってほしかったなぁ。

 寂しく取って返したその足で、村長の家へと急ぐ。
 挨拶もそこそこに数種類の種もみを渡し、町と隣村の状態を新村長達に話す。

「その商人さんの働いている商会は、隣国では大きい方だと聞いたことがあるよ。」
「お? もしかして偉い人だったのかな?」
「うーん。危険だってわかってる国に、偉い人が来るのかね?」
「三人とも早く食べて。冷めるともっと、食べにくくなるわよ? 今ならまだ美味しいでしょ?」

 アルベルトがうんうん唸りながら、働いていた時のことを思い出す。
 俺のささやかな希望を、横で冷静に聞いていたアンリが突っ込んでくる。
 兄貴の嫁のリリー姉さんが、俺らの逸れがちな話をぺちゃんこにする。
 同居してる隣村の爺さん婆さん達も、うんうんと頷きながら食べている。

「それにしても、明日は張り切らないといけんなぁ。」

 先に食べ終わった隣村の鍛冶屋の親父さんが、嬉しそうに話し出す。
 食べ終わった順に各自で、皿を洗い場に持っていく。
 見ると食後の洗い物は、婆さん達がしれっと始めている。
 上手く分担してるんだなぁ。

 リリー姉さんは草茶を作り始めた。
 あ、ウチと違うにおいがする。ちょっと不安。
 マリーの草茶に慣れるまで、結構きつかったのを思い出す。
 今はおいしいけどな。うん。

 全員が食べ終わり、みんなで草茶をすする。
 両親が出稼ぎに出た家の子が、爺ちゃんと婆ちゃんに挟まれて大人しくしている。
 ウチの末っ子と年が近いせいか、よく一緒に遊んでいるのを見るがやっぱり大人しい。
 町では隣村の連中と会えなかったから、特に知らせてあげられる事が無い。
 罪悪感が募る。気が回らない大人でごめんな。

 改めて残りを報告する。
 商人が渡してくれた手紙をアルバートに渡すと、中身を読んだあと黙り込む。

「な、なんか悪い事が書いてあるのか?」

 ドキドキしながら聞いて見る。
 周囲も同じ気持ちなのか、アルバートの言葉を待って静かにしている。
 ひょいっと手紙を取り上げたアンリが、サッと目を通しニヤリと笑う。

「悪いと言えば悪いね。賄賂は一応禁止されてるよ。」
「ワイロ? どういう?」
「トム。その商人は『村の皆を連れてこい』って、言ったんだろ?」
「お、うん?『いつでもいい』って、言われた。」

「紹介状が三枚、手紙と一緒に入ってる。」
「?」
「従業員採用人数が二十人以上、家族同伴可能だが、試用期間中に問題があれば即刻帰国させる。
あと、密入国防止のため、出国時に国境警備兵の名前を記入する必要がある。従業員の入国後には、商会からその警備兵に金を払うって約束の書類だな。」
「は?」

「ワイロ払うから、出国させろって書いてあるのさ。しかも同じ書類が三枚。人数の所の字体だけが違うから、用意してあったんだろう。」
「気が付かなかった。いつの間に?」
「知らないよ。トム、お前村の人数言ったか?」
「子ども合わせて、大体七十人って、言ったかな。」

 アンリは、悪いいたずらをするときに浮かべる笑顔で、ニンマリとしている。
 これは、逆らっちゃいけない時の顔だ。

「ふふん。もっと連れてこいって事か。これはまた、面白いのをひっかけてきたな。」
「手紙によると。何度か出国させてるらしい。兵隊達には何度か金は渡してるから、喜んで通して貰えるらしいぞ。」
「細かい事も書かれてるが、まぁ、そん時に話せばいい。トム、偉いぞ。凄い伝手を見つけてきたな!」
「おおー?」

 良く分からないまま、頭をわしゃわしゃされ、褒めれらた。
 声の調子まで兄貴と同じ褒め方に、やっぱり兄弟なんだなぁとしみじみ思う。
 リリー姉さん相手に、何やら計画を立て始めてる。
 あの表情、二人とも怖い。
 アルバートも困ってるし、どうにかせねば。ううむ。
 
「隣村の居残り組が来るのを教えに行こうぜ!」と、声をかけ二人で家から逃げ出す。
 手分けして各家に話して回り、隣村からの皆に喜ばれた。

 次の日はいつもの野草と根っこの板の煮込みだが、昼から村の広場で大人数で食べる事になった。
 驚いたことに、平べったいパンのようなものも出た。
 木の根を粉にして練ったものを、パンの様に焼いた物だ。
 すごくマズイが、いつもと違う食感で満足だ。不味いけど。

 うん、手間はかかってるから、顔には出さない。
 ウチの子供達も粉にする手間を知っているせいか、笑顔で食べてる。
 くっ! ウチの子達が良い子過ぎて、自慢して回りたい!

 昼過ぎに隣村から十人近くが来てくれた。
 久しぶりの再会で皆嬉しそうだ。
 美味しくないが、量だけはある食事も嬉しそうに食べてくれた。
 あの不味いパンも。マズいのに。

 みんなが集まっている所で、アルバートが昨日の町の様子を伝えた。
 表情は一様に暗くなる。
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