もふもふの国の聖女様

護茶丸夫

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聖女選定 5

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「ねぇ、私も一緒にいいかな?」

 じわじわと近づいてきた、上部にボリュームのあるバーベナが声をかけてきた。
 あまり雰囲気を気にしないタイプかもしれない。

「めぇ?」

 少し低めの声で、聖獣が返事をする。
 なんだか嫌がっているような鳴き方だ。
 モフ毛に埋まる二人は疑問に思う。嫌がってる? なぜ?

「いいの? ありがとう!」

 ぱぁっと笑顔になり飛びつこうとする。
 え?っとベロニカとマーガレットは思ったが、バーベナが聖獣に触れるより早く神官が止める。
 二の腕をがっちりと捕まえ、形の良い眉が強くしかめられている。

「お待ちくださいバーベナ様! 聖獣様は許可されていません。」

「え? ちゃんとお返事貰ったよ?」

 きょとんとした顔で神官を見るバーベナ。
 美しい顔をしかめて、神官は答えた。

「いいえ『ちょっとそこで待ってなさい。』とお答えが、ございました。」

 いや、物凄く短い鳴き声でしたよね? 長くなってない?
 神官の言葉に、うんうんと頷き「めぇめぇ」と小さく鳴く羊型の聖獣。
 長い髪をさらりとかきあげ、凛とした態度で更に告げる神官。

「聖獣様よりバーベナ様は『清くないので、それぞれ相手がわかるまでは近づかないで欲しい。』拒否されております。」

「はぁ?」

「「えっ?」」

 三人とも顔が赤くなる。
 一人はアワアワとして、視線も定まらない。
 二人は聖獣のモコモコに包まれて、固まってしまった。

 神官は腰に下げていた袋から銀色のベルを取り出し、強めに振る。
 りりりりり涼やかとは言い難い、しっかりとした音が響く。
 音が鳴りやみ、ベルを袋に戻したところでドアノックの音がする。

「聖獣様、ドアを開けても宜しいですか?」

「……めぇ。」

 神官の問いにしばらく鼻をヒクヒクさせていた羊型の聖獣は、許可を出すように返事をする。

「どうぞ、お入り下さい。」

 ドアの方へと大きめに声をかけた神官は、バーベナの後ろに立ち、がしりともう片方の腕もつかむ。
 ぎょっとした様に、その腕と神官の顔を交互に見るバーベナ。

 ドアが開き、着替えを手伝ってくれた侍女達が入ってくる。
 神官は掴んだバーベナを侍女に引き渡すように、グイっとつきだす。

「こちらのご令嬢には、事情とお相手を聞かせてもらう必要が出ました。お手数ですが、お任せしても宜しいでしょうか?」

「もちろんですわ。その方お一人でいいのですね。」

 年かさの侍女が、いや、美魔女な侍女が神官とやり取りをする。

「はい。こちらのバーベナ様を。」

 若い侍女たちは、素早くバーベナの周囲を取り囲み思い思いの場所を掴む。
 見届けた神官は手を離し、素早く聖獣寄りの場所へ移動する。
 バーベナはまだ混乱中だ。

「あとはお任せください。聖獣様、聖女様方お騒がせいたしました事、深くお詫び申し上げます。」

 お詫びの声に合わせ、侍女達は揃って聖獣へと頭を下げる。
 皆一様に緊張した面持ちで、微動だにしない。

「めぇめぇー」

「ありがとうございます。では、確認して参ります。御前失礼いたします。」

 その声でサッと頭を上げ、数人がかりでバーベナを掴みなおす。
 「逃がさない」というより、「取られない様に」しっかり掴んでいる雰囲気だ。

「めぇー。」

「もったいないお言葉ですわ。これはお食事の時に、料理長にお礼の品を作って貰わないといけませんね。」

「めぇぇ!」

 やり取りの内容がわからないが、ねぎらいの言葉と何かプラスアルファな良い事があったのだろう。
 侍女達は嬉しそうに聖獣へと微笑み、バーベナを引っ張り部屋を出てい行く。

「えっ? なに? なにがおきてるの? ちょっと待って、ちょっとどういう事なの?」

 バーベナと、モコ毛埋まり中の二人が、話がわからないままに事態が進んでいく。
 パタンとドアが閉まり、戸惑い問いかけ続ける声だけがうっすらと聞こえる。
 その声も段々と小さくなり、部屋の中には静寂が広がる。

「お二人は聖女で決まりのようですので、この部屋で続けてお話させて頂きます。」

 神官がにっこりと笑顔を見せ、スタスタと聖獣の近くのテーブルセットへ向かう。
 何事もなかったかのような、見事な切り替えである。

 テーブルの上に用意されていた透かしの入った薄い布の覆いをするりと取り払い、伏せられていた厚めの切子のグラスを人数分用意する。
 モコ毛の中の二人をにこやかに椅子へと招く。

 固まって赤くなっていた二人は、おずおずと手をつないだまま、テーブルへ。
 繋いでいた手を離し、椅子を引いてもらい着席する。
 二人の向かいへと移動した神官は、ゆったりとくつろいだ様子でポットへと腕を伸ばす。
 
「市井では出回っていない、珍しいお茶なのです。」

 ぽってりとした珍しい形の陶器のポットからグラスへと、薄い緑色の液体が注がれる。
 液体でいっぱいになったグラスを、ニコニコと笑顔で二人の前にコトリとおき、自分の分も用意し椅子に浅く座る。

「まずはひと息入れましょう。冷やした甘いお茶です、どうですか?」
「あっ……美味しい……。」
「甘くて青い感じのするお茶は初めてです。美味しい。」
「お口に合った様で良かった。聖獣様のお気に入りのお茶なんですよ。」

 神官にすすめられるまま、液体を口にする。
 ベロニカは懐かしい風味に驚き、マーガレットは爽やかな味わいに感嘆する。
 聖獣の気に入っていて自分も一押しのお茶を喜ばれて、神官も嬉しい。
 二人は珍しいお茶を飲み、先ほどの混乱を忘れてしまった。

 お嬢さん方、ちょっとチョロ過ぎやしませんか?
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