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聖女選定 6
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「さて、どこからお話しましょうか。」
腿の上で手を組み、こてりと頭を傾げる神官。
背中を覆う長い青い髪をさらりと流し、一際目立つすっきりと伸びた細めの鼻筋。
細めの柔らかいカーブを描く、優し気な眉。
切れ長気味の、涼し気な目元を縁取る長いまつげ。
薄くピンクに色づく、少し大きめな口元。
白くきめ細かな肌。
その美しい顔を支える、しなやかな長い首元。
よく見れば、肩幅と胸の厚みはそれなりにがっちりとしている。
体格の出ない服で声を出さずに微笑んでいれば、誰もが女性だと思うだろう。
「あ、あの、神官様。」
おずおずとマーガレットがたずねる。
にこりと笑顔で受ける神官。
「聖獣様と、神官様のお名前をお聞きしても大丈夫でしょうか?」
「そうですね。改めてご挨拶させて頂きます。」
神官はスッと立ち上がり、のんびり立って待っていたモコモコ聖獣を自分の横へと誘導する。
「私の名前はペルーシャ。神殿では爵位も家名も関係なくなりますので、ペルーシャとお呼びください。」
「そして聖獣様のお名前は、私は『至高なる羊毛の穏やかな気品に溢れる美しき我が愛しのメリノ』と呼んでおります」
はい?
長い。
長すぎない?
ねぇこの人、大丈夫?
何かを諦めた感を醸し出す羊型聖獣の顔を、名前をよびながら嬉しそうに撫でるペルーシャ。
好きすぎか。
愛が溢れすぎて怖い。
「私は『至高なる羊毛の穏やかな気品に溢れる美しき我が愛しのメリノ』と呼んでいますが、他の方々は別の呼び方をしていらっしゃいます。多いのが『白メリノ』『モコモコメリノ』でしょうか。」
少しだけ顔をしかめたペルーシャは、その呼び方が不満の様だ。
ただし、わさわさと顔を撫で続ける手は、とても優しい。
「メリノ、という名前が共通ですね。メリノ様、とお呼びしても差支えないでしょうか?」
「そうですね『至高なる羊毛の穏やかな気品に溢れる美しき我が愛しのメリノ』には、つがいの雄がいます。そのつがいもメリノという名前がついてますので、区別するために『至高なる羊毛の穏やかな気品に溢れる美しきメリノ』と呼んでも良いかと思いますよ。」
長い名前に戸惑いながらも、ベロニカがたずねた。
順番、ではないだろうが、交代に聞いた方が良い気がする。
「あのう、ちなみにペルーシャ様は、つがいの方のメリノ様をどうお呼びになっているのですか?」
ペルーシャは少しだけキリっとした表情になり、丁寧に呼び名を告げる。
えっ? 何で今、キリっとしちゃったの?
「あの方の名前は『野趣あふれる羊毛の猛々しき螺旋の先導者大地のメリノ』です。」
「他の方は『つのメリノ』『茶メリノ』だとか、ちょっと失礼な名前ですね。あと、酷いのは『ぼさぼさ』や『ウール』ですっ!」
あっはい。茶色い毛なんですね。
プンプンしてるのが良く分かる怒り具合だ。
『至高なる羊毛の穏やかな気品に溢れる美しきメリノ』がペルーシャの横に座り、慰める様に腿の上に頭をそっとつける。
キリっとしたのは不満だったんですね。
要は二頭とも大好きなんですね、わかります。
「すみません、つい。」
ペルーシャが『至高なる羊毛の穏やかな気品に溢れる美しきメリノ』に謝る。
長い。
「慣れるまでは『白モコメリノ』様とお呼びしますね。」
そのいちゃつくような空気に、甘くないお茶にして貰えばよかったと後悔し始めたベロニカは、きっぱりとペルーシャに宣言した。
不満かもしれないが、覚えきれる自信が無い。
これは、慣れてもそのままだろう。
いや、間違いなく慣れるともっと縮む。
マーガレットも強く頷き、少しばかりのフォローを入れる。
「ペルーシャ様のお呼びになる『至高なる羊毛の穏やかな気品に溢れる美しきメリノ』はペルーシャ様だけの特別という感じがしますものね。」
「そうですわね、特に愛を感じますもの。」
「そうですか?」
二人の言葉にほんのりと頬を染め、照れたように青く長いまつげをそっとふせる。
チラチラと隣の羊を見ては、何度もはにかむ。
無駄に色気があるが、羊相手に色気だしても……。
しかも旦那持ちの羊だ。
愛情の一方通行。
これは、どの愛になるのだろう。
でも、一途で素敵ね。
あら? 二頭とも好きなら、それはどうなるんだろう?
何とも言えない気持ちになり、二人は無言でお茶を飲む。
「めぇめぇ。」
「そう、そうですね、説明の続きですね。」
コホンと咳払いをして、ペルーシャは話し出す。
聞き手の二人もモヤッとしたものはひとまず置いておく事にしたようだ。
「聖獣様に気に入られると『加護』をつけて頂ける事が多いです。この加護は聖獣様の話す言葉が理解できるようになります。」
「私や先ほどの侍女の皆さんはそれぞれ聖獣様達に『加護』を頂いているので、会話が可能です。」
「あとは何となくですが、相手の気持ちが伝わりやすいです。」
ほーほーと聞き入っていた二人。
しかしペルーシャの最後の言葉で、納得するマーガレットと石像のように固まるベロニカ。
今更だが、先ほど我にかえるまで「モフモフ」としか喋っていなかった事を思い出した。
いつからモフだけを考えてたっけ……。
腿の上で手を組み、こてりと頭を傾げる神官。
背中を覆う長い青い髪をさらりと流し、一際目立つすっきりと伸びた細めの鼻筋。
細めの柔らかいカーブを描く、優し気な眉。
切れ長気味の、涼し気な目元を縁取る長いまつげ。
薄くピンクに色づく、少し大きめな口元。
白くきめ細かな肌。
その美しい顔を支える、しなやかな長い首元。
よく見れば、肩幅と胸の厚みはそれなりにがっちりとしている。
体格の出ない服で声を出さずに微笑んでいれば、誰もが女性だと思うだろう。
「あ、あの、神官様。」
おずおずとマーガレットがたずねる。
にこりと笑顔で受ける神官。
「聖獣様と、神官様のお名前をお聞きしても大丈夫でしょうか?」
「そうですね。改めてご挨拶させて頂きます。」
神官はスッと立ち上がり、のんびり立って待っていたモコモコ聖獣を自分の横へと誘導する。
「私の名前はペルーシャ。神殿では爵位も家名も関係なくなりますので、ペルーシャとお呼びください。」
「そして聖獣様のお名前は、私は『至高なる羊毛の穏やかな気品に溢れる美しき我が愛しのメリノ』と呼んでおります」
はい?
長い。
長すぎない?
ねぇこの人、大丈夫?
何かを諦めた感を醸し出す羊型聖獣の顔を、名前をよびながら嬉しそうに撫でるペルーシャ。
好きすぎか。
愛が溢れすぎて怖い。
「私は『至高なる羊毛の穏やかな気品に溢れる美しき我が愛しのメリノ』と呼んでいますが、他の方々は別の呼び方をしていらっしゃいます。多いのが『白メリノ』『モコモコメリノ』でしょうか。」
少しだけ顔をしかめたペルーシャは、その呼び方が不満の様だ。
ただし、わさわさと顔を撫で続ける手は、とても優しい。
「メリノ、という名前が共通ですね。メリノ様、とお呼びしても差支えないでしょうか?」
「そうですね『至高なる羊毛の穏やかな気品に溢れる美しき我が愛しのメリノ』には、つがいの雄がいます。そのつがいもメリノという名前がついてますので、区別するために『至高なる羊毛の穏やかな気品に溢れる美しきメリノ』と呼んでも良いかと思いますよ。」
長い名前に戸惑いながらも、ベロニカがたずねた。
順番、ではないだろうが、交代に聞いた方が良い気がする。
「あのう、ちなみにペルーシャ様は、つがいの方のメリノ様をどうお呼びになっているのですか?」
ペルーシャは少しだけキリっとした表情になり、丁寧に呼び名を告げる。
えっ? 何で今、キリっとしちゃったの?
「あの方の名前は『野趣あふれる羊毛の猛々しき螺旋の先導者大地のメリノ』です。」
「他の方は『つのメリノ』『茶メリノ』だとか、ちょっと失礼な名前ですね。あと、酷いのは『ぼさぼさ』や『ウール』ですっ!」
あっはい。茶色い毛なんですね。
プンプンしてるのが良く分かる怒り具合だ。
『至高なる羊毛の穏やかな気品に溢れる美しきメリノ』がペルーシャの横に座り、慰める様に腿の上に頭をそっとつける。
キリっとしたのは不満だったんですね。
要は二頭とも大好きなんですね、わかります。
「すみません、つい。」
ペルーシャが『至高なる羊毛の穏やかな気品に溢れる美しきメリノ』に謝る。
長い。
「慣れるまでは『白モコメリノ』様とお呼びしますね。」
そのいちゃつくような空気に、甘くないお茶にして貰えばよかったと後悔し始めたベロニカは、きっぱりとペルーシャに宣言した。
不満かもしれないが、覚えきれる自信が無い。
これは、慣れてもそのままだろう。
いや、間違いなく慣れるともっと縮む。
マーガレットも強く頷き、少しばかりのフォローを入れる。
「ペルーシャ様のお呼びになる『至高なる羊毛の穏やかな気品に溢れる美しきメリノ』はペルーシャ様だけの特別という感じがしますものね。」
「そうですわね、特に愛を感じますもの。」
「そうですか?」
二人の言葉にほんのりと頬を染め、照れたように青く長いまつげをそっとふせる。
チラチラと隣の羊を見ては、何度もはにかむ。
無駄に色気があるが、羊相手に色気だしても……。
しかも旦那持ちの羊だ。
愛情の一方通行。
これは、どの愛になるのだろう。
でも、一途で素敵ね。
あら? 二頭とも好きなら、それはどうなるんだろう?
何とも言えない気持ちになり、二人は無言でお茶を飲む。
「めぇめぇ。」
「そう、そうですね、説明の続きですね。」
コホンと咳払いをして、ペルーシャは話し出す。
聞き手の二人もモヤッとしたものはひとまず置いておく事にしたようだ。
「聖獣様に気に入られると『加護』をつけて頂ける事が多いです。この加護は聖獣様の話す言葉が理解できるようになります。」
「私や先ほどの侍女の皆さんはそれぞれ聖獣様達に『加護』を頂いているので、会話が可能です。」
「あとは何となくですが、相手の気持ちが伝わりやすいです。」
ほーほーと聞き入っていた二人。
しかしペルーシャの最後の言葉で、納得するマーガレットと石像のように固まるベロニカ。
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