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孤児院を増やす
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王都から出て、森に囲まれた小さな町に住みついたある薬師は、年上の先住の薬師の手伝いをしながら暮らしていた。
土地に馴染もうと、薬師以外の雑務をこなしながら必死に働く姿に「都落ち」と陰口は少なくなり、また物腰の柔らかさから女性を中心に人気が出てきた。
町に着いてしばらくは、厳つい見た目に合わない丁寧な喋り方が強い違和感となり、周囲から警戒されていたが、真面目で一生懸命なその姿に絆されてしまうのは早かった。
「なぁ薬師様よぅ、なんで教会の寄付金が上がったのかわかるかい?」
「はい、確かに上がりましたね。牧師様から説明はありましたが、あまりこちらには縁がない話でしたね。」
「実はよう、聞いてもよく分かんなかったんだぁ……。」
「そうでしたか、では。ああ、私の説明で分かって頂けると良いのですが。」
気まずそうに頭を掻く男に、薬師は厳めしい顔をへにょりと崩し頷く。
「お!ありがてぇ。じゃぁよ、夕方に俺っちの家の前で皆集まるから、その時頼むよ。」
「ええ、でも。病人の近くで騒ぐわけにもいきませんから、近くの井戸の広場ではいかがですか?」
「わかった!仕事終わったら仲間集めて待ってるぜ。」
「はい、分かりました。細かい所が分からない時は、日にちを改めて皆で牧師様に聞きに行きましょう。」
「おう!そん時も頼むぜ。」
夕方なると先住薬師を誘い、男の家の近くの広場に向かう。
寄付金が上がった話のついでに、「せっけん」についても話をしようと考えたからだ。
「せっけん」が油で出来ていると聞いて、齧る子供がかなりの数いた。
そのたびに薬師や医者の所に駆け込む人を、少しでも減らしたいのが本音だ。
「教会の寄付金が上がったのは、各地の"孤児院を増やす"と言う目的なのは皆さんご存じですね。」
「この町にも孤児院がありますが、孤児の数は少ない。ただ、他の地域では孤児が多い場所もあります。」
「特に多いのは王都です。孤児院に入れない子供が多いと治安が悪くなります。また、子供達の心配をする聖女様の、心の負担を減らそうと考えられたと、説明がありました。」
「わかからない部分があれば、皆さんで一緒に考えてみませんか。それでも納得できない事や、足りない所は牧師様に聞きに行きましょう。」
そう薬師が口火を切ると、集まっていた男衆がわいのわいのと好きな様に喋りだす。
あまりの賑やかさに、何の騒ぎかと各家からわらわらと子供達が出てくる。
女衆は食事の準備で忙しい。
「王都の話なら、王都だけ金を払えばいいんじゃないのか?」
「孤児院に入れない孤児なんているのかい?」
「他にはいるのかい? 見た事ないぜ。」
「路地裏でウロウロしてるだけのガキ共が、そうらしい。」
「お! それなら領都で見た事あるぞ。広場で遊べばいいのによぉって思ったぜ。」
「遊んでるだけかと思った。」
「孤児より俺を養ってほしいぜ。」
「お前は嫁さんに養われてるじゃねーか。」
ひとしきりわいわいと騒ぎ、落ち着いたところで薬師が再び話を再開させる。
「みなさん、私は王都出身ですが、うろうろしている孤児は良く見ましたよ。孤児院にいる子は守ってくれる先生がいます。ですが、入れない子は雨風もしのげず、素行の悪い大人に、道具の様に使われています。助けたくても、孤児院はいっぱいで入れないと、断られたことが何度もあります。」
「儂も旅をする薬師仲間に聞いた事がある。治安の悪い地域は、孤児院に入れない子供が食事や寝場所を求めて、荒くれ者の仲間入りしてしまうと。まぁ、悪い道に引き込まれるが正しいな。」
先住薬師も付け加えた。
長年この町で「口話悪いが情が深い」事で信頼を集めていた、偏屈ジジイだ。
王都から来た厳つい薬師を手荒く使うので、みなヒヤヒヤしていた。
新しく来た若い薬師の方は、見た目と違い気が優しくて良かった。
時折、先住薬師を背負っては、薬草を探しに行く姿も見られた。
先住薬師の奥さんの買い物に、一緒につき合う姿もよくある風景となった。
薬師二人の話で、男達や聞いていた子供達の顔が強張る。
「それは、よくないな。」
「ひでぇな。」
「可哀想だなぁ。」
「本当だよ、親がいないってのに寝るとこもないなんてよ。」
「お父さん、お母さんいないの怖い。」
「かわいそう。」
「荒くれ?」
「素行のわるい?」
「ああ、どっちも乱暴者の事だよ。すぐ人を殴ったり、大声で怒鳴りまわる人の事だ。」
「惨い事もあるもんだな。」
「お母さん荒くれ?」
「ばか、ちがうよ。」
「そんなに変わるモンなんだなぁ。」
わいのわいのと騒いでいたが、結局ちゃんと払う結果に落ち着く。
もちろん本題の「せっけん」の使い方もきちんと説明できた。子供達もいたお陰で説明は早い。
この場に居ない人達にも伝えると皆が約束し、解散となった。
その後薬師二人は、おかみさん達のおすそ分けで両手いっぱいになりながら帰路についた。
後日、薬師二人は教会の牧師からお礼を言われ恐縮したが、この事を薬師仲間に伝えた。
手紙や伝言で「住民の理解を深めるために、追加で説明をした方がいい。」と、町の住民の様子を例にしながら。
あとは少しでも教会と良い関係で居続けられるように、お互いが行動しようと。
土地に馴染もうと、薬師以外の雑務をこなしながら必死に働く姿に「都落ち」と陰口は少なくなり、また物腰の柔らかさから女性を中心に人気が出てきた。
町に着いてしばらくは、厳つい見た目に合わない丁寧な喋り方が強い違和感となり、周囲から警戒されていたが、真面目で一生懸命なその姿に絆されてしまうのは早かった。
「なぁ薬師様よぅ、なんで教会の寄付金が上がったのかわかるかい?」
「はい、確かに上がりましたね。牧師様から説明はありましたが、あまりこちらには縁がない話でしたね。」
「実はよう、聞いてもよく分かんなかったんだぁ……。」
「そうでしたか、では。ああ、私の説明で分かって頂けると良いのですが。」
気まずそうに頭を掻く男に、薬師は厳めしい顔をへにょりと崩し頷く。
「お!ありがてぇ。じゃぁよ、夕方に俺っちの家の前で皆集まるから、その時頼むよ。」
「ええ、でも。病人の近くで騒ぐわけにもいきませんから、近くの井戸の広場ではいかがですか?」
「わかった!仕事終わったら仲間集めて待ってるぜ。」
「はい、分かりました。細かい所が分からない時は、日にちを改めて皆で牧師様に聞きに行きましょう。」
「おう!そん時も頼むぜ。」
夕方なると先住薬師を誘い、男の家の近くの広場に向かう。
寄付金が上がった話のついでに、「せっけん」についても話をしようと考えたからだ。
「せっけん」が油で出来ていると聞いて、齧る子供がかなりの数いた。
そのたびに薬師や医者の所に駆け込む人を、少しでも減らしたいのが本音だ。
「教会の寄付金が上がったのは、各地の"孤児院を増やす"と言う目的なのは皆さんご存じですね。」
「この町にも孤児院がありますが、孤児の数は少ない。ただ、他の地域では孤児が多い場所もあります。」
「特に多いのは王都です。孤児院に入れない子供が多いと治安が悪くなります。また、子供達の心配をする聖女様の、心の負担を減らそうと考えられたと、説明がありました。」
「わかからない部分があれば、皆さんで一緒に考えてみませんか。それでも納得できない事や、足りない所は牧師様に聞きに行きましょう。」
そう薬師が口火を切ると、集まっていた男衆がわいのわいのと好きな様に喋りだす。
あまりの賑やかさに、何の騒ぎかと各家からわらわらと子供達が出てくる。
女衆は食事の準備で忙しい。
「王都の話なら、王都だけ金を払えばいいんじゃないのか?」
「孤児院に入れない孤児なんているのかい?」
「他にはいるのかい? 見た事ないぜ。」
「路地裏でウロウロしてるだけのガキ共が、そうらしい。」
「お! それなら領都で見た事あるぞ。広場で遊べばいいのによぉって思ったぜ。」
「遊んでるだけかと思った。」
「孤児より俺を養ってほしいぜ。」
「お前は嫁さんに養われてるじゃねーか。」
ひとしきりわいわいと騒ぎ、落ち着いたところで薬師が再び話を再開させる。
「みなさん、私は王都出身ですが、うろうろしている孤児は良く見ましたよ。孤児院にいる子は守ってくれる先生がいます。ですが、入れない子は雨風もしのげず、素行の悪い大人に、道具の様に使われています。助けたくても、孤児院はいっぱいで入れないと、断られたことが何度もあります。」
「儂も旅をする薬師仲間に聞いた事がある。治安の悪い地域は、孤児院に入れない子供が食事や寝場所を求めて、荒くれ者の仲間入りしてしまうと。まぁ、悪い道に引き込まれるが正しいな。」
先住薬師も付け加えた。
長年この町で「口話悪いが情が深い」事で信頼を集めていた、偏屈ジジイだ。
王都から来た厳つい薬師を手荒く使うので、みなヒヤヒヤしていた。
新しく来た若い薬師の方は、見た目と違い気が優しくて良かった。
時折、先住薬師を背負っては、薬草を探しに行く姿も見られた。
先住薬師の奥さんの買い物に、一緒につき合う姿もよくある風景となった。
薬師二人の話で、男達や聞いていた子供達の顔が強張る。
「それは、よくないな。」
「ひでぇな。」
「可哀想だなぁ。」
「本当だよ、親がいないってのに寝るとこもないなんてよ。」
「お父さん、お母さんいないの怖い。」
「かわいそう。」
「荒くれ?」
「素行のわるい?」
「ああ、どっちも乱暴者の事だよ。すぐ人を殴ったり、大声で怒鳴りまわる人の事だ。」
「惨い事もあるもんだな。」
「お母さん荒くれ?」
「ばか、ちがうよ。」
「そんなに変わるモンなんだなぁ。」
わいのわいのと騒いでいたが、結局ちゃんと払う結果に落ち着く。
もちろん本題の「せっけん」の使い方もきちんと説明できた。子供達もいたお陰で説明は早い。
この場に居ない人達にも伝えると皆が約束し、解散となった。
その後薬師二人は、おかみさん達のおすそ分けで両手いっぱいになりながら帰路についた。
後日、薬師二人は教会の牧師からお礼を言われ恐縮したが、この事を薬師仲間に伝えた。
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