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町に平民用の学校を作る
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聖女様騒ぎが落ち着き、公共事業や孤児院増設も、話が出ただけで終わってしまった感が過ぎ去った頃。
また、新しい税を集めるお触れが出た。
王都と各領主の住む町に平民用の学校を作る。
平民用だが、聖女様の為に一部は貴族も出すから感謝するように。
さすがに平民達も不満を表した。だが、どうにもできない。
貴族専用の学校はすでにある。
平民枠として特待生制度や寄付金を積めば、入る事も出来るのだ。
それなのに更に学校を作るなど、無駄だとしか思えなかった。
税を納めた後、平民が出来る事はどうにか収入を増やす事だ。
それか、食べる分を減らす。
もしくは、食べる人数を減らす。
だが、度重なる税につられて物価も上がっている。
収入を増やす方法も無く、食べる量を減らすにしても、口減らしするにも限度がある。
これまでも物価が上がる事によって、立ち行かなくなった人は少数要る。
これから更に増えるだろうと言う事は、さすがに学が無いと言えども、誰もが予想はできた。
田舎がある者は早々に引っ越し、無いものは寄り添って生きていくしかない。
森に囲まれた町で、定住を決めた薬師もまた、途方に暮れていた。
今度ばかりは、住民達と一緒になって不満を言うしかない。
町の男達は、教会に話し合いの為に集まったが、あっという間に愚痴ばかりになってしまった。
多少の知識を持つ者や、王都に行ったことがある者は聞き役に回る。
いつ不満がこちらを向くか、分からないから。
「なぁお前、税金の話どうよ。」
「ああ、参っちまったな。どうするよ。」
「学校ってもなぁ。」
「平民の子供用って、何を教えるんだ?」
「学校出て何か変わるのかよ。」
「学校なんて、商人か役人の手伝いする奴しか役に立たないだろ。」
「しかも領主様の町は遠いしな。」
「今まで通り、貴族様の学校だけで良いんじゃねぇのか?」
「でもなぁ、聖女様のお名前で作るらしいぞ。」
「またかぁ。」
「なぁ、だいぶ前に出た、地下の道を作る話はどうなったんだ?」
「なんだっけか、下水道だ。」
「そういやあったな。」
「作るっていえば孤児院もあったぞ。」
「牧師様、孤児院ってどうなってるんですか?」
「そうだな、どうなってんだ。」
黙って聞く組にいる牧師はゆっくりと、表情は変えない様に微笑みながら注意しながら話す。
「他の町では作り始めている所もあります。この町では、孤児院の空きは余裕があるので、作る予定は無いですね。無い方が良いんです。」
「それだけ、この町の人々が善良である証拠です。」
そう言われると、まんざらでも無い町民達。
「それじゃ、地下の道はどうですか?」
「お、下水道だぜ、げすいどう。」
「こうきょうナントカってやつだな。」
「それが始まれば働き口は増えるぜ。」
少し明るい雰囲気になり、話題を変えて紛らわす人々。
この話題には触れたく無いが、正直に話すしかない牧師。
「下水道は私も詳しい話は。ただ、落ち着いて聞いて下さい。王都の教会からの連絡では『王都のみ』の事業で難航していると」
和やかだった空気が一気に変わる。
話したくなかった、牧師としては只々その気持ちでいっぱいだ。
「王都だけ?」
「は? なんだそれ?」
「どういうことだ?」
「なんで俺らが王都の為に。」
「こっち関係ないじゃねえか。」
ざわざわとした教会内で、不満がどんどん膨らむのが分かる。
できるなら、自分も同じ事を言いたい。
「王都の教会で確認をした事を、教えて貰えました。どうやら下水道を作るには、深く穴を掘ってトンネルを石組みしていく必要があるらしいのです。それで、地上にある道や建物を、一度壊して作って行く時間のかかる物だと、書いてありました。」
「まずは王都で作ってみて、手順がきちんと決まったら、町や村に作っていく。終わるのも始まる時期も、わからない大事業だと。」
「はぁ? おかしいよな。」
「いつになるんだか分かんねえんなら金取るなって。」
「地下に道なんていらねぇ。」
「役に立つのが分かってから決めりゃいいのによぉ。」
「大事業っても、こっちに仕事が回ってこないのは納得いかねぇ。」
「まったくだ。」
「お貴族様は何考えてんだ。」
「俺らの事なんて考えてねぇよな。」
牧師は話し終わり、ざわめく中そっと目を伏せ、小さいがとても冷淡な声でぼそりとつぶやく。
「無計画過ぎで困りますね。」
ざわめきの中でもよく通る声でのつぶやきだった。
ぎょっとして牧師を見る男衆。
「が、学校は?」
「そうだ、学校ってのは何ですか?」
牧師の様子を見て、取りなそうとした男達が地雷を踏む。
普段から住民と共に笑い、辛い時は一緒に考え、時には涙を溢す。
常に暖かな微笑みを浮かべ、孤児院の子も町の子も分け隔てなく面倒を見て、悩み事とも言えない愚痴を黙って聞いてくれる心優しい牧師様。
その牧師様の笑顔が、不思議と今は物凄く怖い気がする。
「教会で週一回、大人子供関係なく教えている、読み書き計算を子供達だけに教える場所のようです。」
誰がどんな思惑があっても、結局は払う事になる税金。
また近いうちに改めて、集会という名の愚痴大会を開く事を決めて、今回はお開きになった。
それまでに各自情報を集めてみようと提案し、すばやく集会をしめたのは誰だったか。
その日集会から家に帰った男達は、まとめた話を嫁さんに語る。
牧師様は怒らせちゃいけない。
「そんな当たり前の事、今更言われても。」
嫁に鼻で笑われても、気晴らしに飲みに行けない。
仕方ないので、子供達に愚痴る。
子供達も仕方ないから、父親の話を黙って聞く。
そのうち母親が、愚痴る父親をどやしつけるのを見てスッキリ出来るから大丈夫。
また、新しい税を集めるお触れが出た。
王都と各領主の住む町に平民用の学校を作る。
平民用だが、聖女様の為に一部は貴族も出すから感謝するように。
さすがに平民達も不満を表した。だが、どうにもできない。
貴族専用の学校はすでにある。
平民枠として特待生制度や寄付金を積めば、入る事も出来るのだ。
それなのに更に学校を作るなど、無駄だとしか思えなかった。
税を納めた後、平民が出来る事はどうにか収入を増やす事だ。
それか、食べる分を減らす。
もしくは、食べる人数を減らす。
だが、度重なる税につられて物価も上がっている。
収入を増やす方法も無く、食べる量を減らすにしても、口減らしするにも限度がある。
これまでも物価が上がる事によって、立ち行かなくなった人は少数要る。
これから更に増えるだろうと言う事は、さすがに学が無いと言えども、誰もが予想はできた。
田舎がある者は早々に引っ越し、無いものは寄り添って生きていくしかない。
森に囲まれた町で、定住を決めた薬師もまた、途方に暮れていた。
今度ばかりは、住民達と一緒になって不満を言うしかない。
町の男達は、教会に話し合いの為に集まったが、あっという間に愚痴ばかりになってしまった。
多少の知識を持つ者や、王都に行ったことがある者は聞き役に回る。
いつ不満がこちらを向くか、分からないから。
「なぁお前、税金の話どうよ。」
「ああ、参っちまったな。どうするよ。」
「学校ってもなぁ。」
「平民の子供用って、何を教えるんだ?」
「学校出て何か変わるのかよ。」
「学校なんて、商人か役人の手伝いする奴しか役に立たないだろ。」
「しかも領主様の町は遠いしな。」
「今まで通り、貴族様の学校だけで良いんじゃねぇのか?」
「でもなぁ、聖女様のお名前で作るらしいぞ。」
「またかぁ。」
「なぁ、だいぶ前に出た、地下の道を作る話はどうなったんだ?」
「なんだっけか、下水道だ。」
「そういやあったな。」
「作るっていえば孤児院もあったぞ。」
「牧師様、孤児院ってどうなってるんですか?」
「そうだな、どうなってんだ。」
黙って聞く組にいる牧師はゆっくりと、表情は変えない様に微笑みながら注意しながら話す。
「他の町では作り始めている所もあります。この町では、孤児院の空きは余裕があるので、作る予定は無いですね。無い方が良いんです。」
「それだけ、この町の人々が善良である証拠です。」
そう言われると、まんざらでも無い町民達。
「それじゃ、地下の道はどうですか?」
「お、下水道だぜ、げすいどう。」
「こうきょうナントカってやつだな。」
「それが始まれば働き口は増えるぜ。」
少し明るい雰囲気になり、話題を変えて紛らわす人々。
この話題には触れたく無いが、正直に話すしかない牧師。
「下水道は私も詳しい話は。ただ、落ち着いて聞いて下さい。王都の教会からの連絡では『王都のみ』の事業で難航していると」
和やかだった空気が一気に変わる。
話したくなかった、牧師としては只々その気持ちでいっぱいだ。
「王都だけ?」
「は? なんだそれ?」
「どういうことだ?」
「なんで俺らが王都の為に。」
「こっち関係ないじゃねえか。」
ざわざわとした教会内で、不満がどんどん膨らむのが分かる。
できるなら、自分も同じ事を言いたい。
「王都の教会で確認をした事を、教えて貰えました。どうやら下水道を作るには、深く穴を掘ってトンネルを石組みしていく必要があるらしいのです。それで、地上にある道や建物を、一度壊して作って行く時間のかかる物だと、書いてありました。」
「まずは王都で作ってみて、手順がきちんと決まったら、町や村に作っていく。終わるのも始まる時期も、わからない大事業だと。」
「はぁ? おかしいよな。」
「いつになるんだか分かんねえんなら金取るなって。」
「地下に道なんていらねぇ。」
「役に立つのが分かってから決めりゃいいのによぉ。」
「大事業っても、こっちに仕事が回ってこないのは納得いかねぇ。」
「まったくだ。」
「お貴族様は何考えてんだ。」
「俺らの事なんて考えてねぇよな。」
牧師は話し終わり、ざわめく中そっと目を伏せ、小さいがとても冷淡な声でぼそりとつぶやく。
「無計画過ぎで困りますね。」
ざわめきの中でもよく通る声でのつぶやきだった。
ぎょっとして牧師を見る男衆。
「が、学校は?」
「そうだ、学校ってのは何ですか?」
牧師の様子を見て、取りなそうとした男達が地雷を踏む。
普段から住民と共に笑い、辛い時は一緒に考え、時には涙を溢す。
常に暖かな微笑みを浮かべ、孤児院の子も町の子も分け隔てなく面倒を見て、悩み事とも言えない愚痴を黙って聞いてくれる心優しい牧師様。
その牧師様の笑顔が、不思議と今は物凄く怖い気がする。
「教会で週一回、大人子供関係なく教えている、読み書き計算を子供達だけに教える場所のようです。」
誰がどんな思惑があっても、結局は払う事になる税金。
また近いうちに改めて、集会という名の愚痴大会を開く事を決めて、今回はお開きになった。
それまでに各自情報を集めてみようと提案し、すばやく集会をしめたのは誰だったか。
その日集会から家に帰った男達は、まとめた話を嫁さんに語る。
牧師様は怒らせちゃいけない。
「そんな当たり前の事、今更言われても。」
嫁に鼻で笑われても、気晴らしに飲みに行けない。
仕方ないので、子供達に愚痴る。
子供達も仕方ないから、父親の話を黙って聞く。
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