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肉の匂いだけ
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服も何日替えていないだろう。
最後に顔や体を拭いたのはいつだったか。
「飯、こればっかりだな。」
「顎が四角くなってる気がするぜ!」
「はははは」
食事はもう塩味だけになっている。
黒パンはまだあるらしく、かろうじて風味があるのはこれだけだ。
「そうだよなぁ、やっぱさ、娘ってのは難しいな。」
「そっちもか、わかるぜぇ。味方がいねぇんだ。」
「はははは」
家族の話と家族の悩みはそれぞれ尽きない。
会いたいと言いたいが、何となく言えない。
そうやってぼんやりしていると、また朝になる。
「あーなんとかならんかな、この飯。」
「肉の匂いだけして、俺らは塩スープとか。」
「はぁ。スープに怒られっぞ?」
「腹減ったなぁ。」
領主や騎士達の天幕近くから、まともな食事のにおいがする。
もう考えるのも面倒くさい。
前線に並べば、いつもの顔が遠くに見える。
「ははは、あいつらも腹押さえてっぞ。」
「よし、腹減ったって、合図送ろう。」
並んでいるときの時間つぶしは、相手側との身振り手振りの伝言遊びだ。
何事もなく一日は終わる。
食事はとうとう半分になった黒パンと、塩しか入ってないお湯。
少しばかり離れているが、林の草でも取ってきて入れれば少しはマシになるのに。
「あー腹が減りすぎて眠れなかったぜ。」
「お前もか。」
「動きたくねぇ。」
そして前線での伝言ゲームだ。
話の内容は決まって食事の事と、ピカピカの鎧を着た貴族の物まねだ。
笑いながらやり取りする相手側の見慣れた顔も、かなりやつれてきた。
「ん?なんだ?」
「あいつら何の合図だ?」
「"腹減って死にそう"よし、こっちも"塩スープお代わり"で、どうだ!」
「はははは!」
黒パンと塩味のお湯な食事。
肉の匂いだけの、みじめな食事だが、それしか楽しみが無い。
眠ろうにもうとうとするだけで、すぐに目が覚めてしまう。
「くそっ腹減りすぎて眠れねえ。」
「ああ、考えたくないなぁ。眠れねえ。」
「せめて何か腹に入れたいなぁ。」
「夢でもいいから、飯が食いてえ。」
朝、あちこちの天幕から騎士が走って移動していく。
もやもやと、嫌な空気が漂っているのがわかる。
朝食はいつもの小さい黒パンと、今日はただの塩水だ。
隊列を組む様に叫ぶ騎士の声が、いつもと違う怒鳴り方だ。
「おい!なんか、今日は雰囲気ちがうぞ?」
「まさか。」
「今更かよ!」
いつものように前線に並ばされるが、ぎゅうぎゅうで密集度合いが違う。
よくわからない緊張感で、皆キョロキョロとするだけで話す余裕がない。
遠くから騎士達の号令が聞こえる。
何の号令かはわからないが、良いものではない気がする。
「おいおいおい、本当にやるのか?」
「構えだなんて、知らねえよ!」
チラリと前を見ると、あちらも人がみっしりと並んでいる。
いつもの遊び相手達も並んでいるのが見えたが、確かめる勇気はない。
手が震える。
手にしているのは、この頼りない槍一本だけ。
ごわごわに汚れ切った、防具でもないただの布の服。
飲み込む唾も流れるはずの汗も、出てこない。
ただただ自分が、寒くもないのに震えている事だけはわかった。
唯一教えられた、突撃の合図が響き渡る。
「ああ、ちくしょう。あいつらの顔見れねぇ。ちくしょうちくしょう!あああああ」
最後に顔や体を拭いたのはいつだったか。
「飯、こればっかりだな。」
「顎が四角くなってる気がするぜ!」
「はははは」
食事はもう塩味だけになっている。
黒パンはまだあるらしく、かろうじて風味があるのはこれだけだ。
「そうだよなぁ、やっぱさ、娘ってのは難しいな。」
「そっちもか、わかるぜぇ。味方がいねぇんだ。」
「はははは」
家族の話と家族の悩みはそれぞれ尽きない。
会いたいと言いたいが、何となく言えない。
そうやってぼんやりしていると、また朝になる。
「あーなんとかならんかな、この飯。」
「肉の匂いだけして、俺らは塩スープとか。」
「はぁ。スープに怒られっぞ?」
「腹減ったなぁ。」
領主や騎士達の天幕近くから、まともな食事のにおいがする。
もう考えるのも面倒くさい。
前線に並べば、いつもの顔が遠くに見える。
「ははは、あいつらも腹押さえてっぞ。」
「よし、腹減ったって、合図送ろう。」
並んでいるときの時間つぶしは、相手側との身振り手振りの伝言遊びだ。
何事もなく一日は終わる。
食事はとうとう半分になった黒パンと、塩しか入ってないお湯。
少しばかり離れているが、林の草でも取ってきて入れれば少しはマシになるのに。
「あー腹が減りすぎて眠れなかったぜ。」
「お前もか。」
「動きたくねぇ。」
そして前線での伝言ゲームだ。
話の内容は決まって食事の事と、ピカピカの鎧を着た貴族の物まねだ。
笑いながらやり取りする相手側の見慣れた顔も、かなりやつれてきた。
「ん?なんだ?」
「あいつら何の合図だ?」
「"腹減って死にそう"よし、こっちも"塩スープお代わり"で、どうだ!」
「はははは!」
黒パンと塩味のお湯な食事。
肉の匂いだけの、みじめな食事だが、それしか楽しみが無い。
眠ろうにもうとうとするだけで、すぐに目が覚めてしまう。
「くそっ腹減りすぎて眠れねえ。」
「ああ、考えたくないなぁ。眠れねえ。」
「せめて何か腹に入れたいなぁ。」
「夢でもいいから、飯が食いてえ。」
朝、あちこちの天幕から騎士が走って移動していく。
もやもやと、嫌な空気が漂っているのがわかる。
朝食はいつもの小さい黒パンと、今日はただの塩水だ。
隊列を組む様に叫ぶ騎士の声が、いつもと違う怒鳴り方だ。
「おい!なんか、今日は雰囲気ちがうぞ?」
「まさか。」
「今更かよ!」
いつものように前線に並ばされるが、ぎゅうぎゅうで密集度合いが違う。
よくわからない緊張感で、皆キョロキョロとするだけで話す余裕がない。
遠くから騎士達の号令が聞こえる。
何の号令かはわからないが、良いものではない気がする。
「おいおいおい、本当にやるのか?」
「構えだなんて、知らねえよ!」
チラリと前を見ると、あちらも人がみっしりと並んでいる。
いつもの遊び相手達も並んでいるのが見えたが、確かめる勇気はない。
手が震える。
手にしているのは、この頼りない槍一本だけ。
ごわごわに汚れ切った、防具でもないただの布の服。
飲み込む唾も流れるはずの汗も、出てこない。
ただただ自分が、寒くもないのに震えている事だけはわかった。
唯一教えられた、突撃の合図が響き渡る。
「ああ、ちくしょう。あいつらの顔見れねぇ。ちくしょうちくしょう!あああああ」
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