奴隷市場

北きつね

文字の大きさ
18 / 56
第五章 移動

第三話 礼登

しおりを挟む

 晴海と夕花は、ホテルに戻って、チェックインをしたフリをして、荷物だけを受け取ってエレベータに乗る。
 一度、最上階まで登ってから、地下駐車場に移動する。トラクターにトレーラーを連結した状態で待機させてあると言われている。

「晴海さん。トレーラーは解ると思いますが、私たちが乗る車は、どれなのでしょうか?」

「能見さんが用意したから・・・。あった。あった。相変わらずだな」

「え?これが、そうなのですか?」

「そうだ。ナンバーが、863だろ?」

「晴海さん。愛されていますね」

「・・・。夕花・・・。可愛い顔して・・・」

「フフフ。でも、わかりやすいですね。私も、晴海さんのナンバーなら忘れません」

 晴海は夕花の笑顔を見て、肩を落とした。『863=はるみ』わざわざ能見が指定したナンバーだ。

「晴海さん。この車、情報端末対応ではないですよね?」

「うん。準備してもらうときに、追跡を躱せる車にしてもらったからね」

「そうなのですね。私・・・。運転が出来ないです」

「あっ」

 晴海は、夕花のスキルを思い出すが、情報端末の補助がある車。所謂オート車の免許を持っていた。目の前にある車は、情報端末の補助が受けられないマニュアル車と呼ばれている。一部のマニアしか乗らなくなっているが、根強い人気がある。
 晴海も、能見に言われて免許を取得する時に、マニュアル講習を選択した。免許もマニュアル車が運転できる。

 晴海は、車に近づいて情報端末をかざす。
 ドアのロックが解除される。間違いないようだ。クロークに預けていた荷物を車に乗せる。トランクを開ける必要もなく、後部座席で十分おける量だ。

「晴海様」

 晴海と夕花が荷物を積んでいたら、後ろから声をかけられた。

 晴海は振り向いて、声をかけてきた男を見る。

「夕花!車の中に入れ!いいか、絶対に出てくるな!ドアをロックしろ!」

 晴海が荒らしい声で夕花に指示を飛ばす。夕花も、逡巡はしたが晴海の指示に従うように、車の助手席に乗り込んでロックをした。

「なんで、お前がここに居る!文月ふみつき礼登あやと!」

 晴海は、声をかけてきた男に敵意をむき出しにして睨みつける。懐に忍ばせてあるナイフに手を伸ばす。殺しても構わないと思える人物が目の前にいる。思いとどまったのは、夕花が近くに居て、今からの伊豆での生活を楽しみにしている雰囲気がある。夕花の些細な楽しみを奪うわけには行かないと考え思いとどまらせたのだ。

「お館様。ナイフの必要はありません。お館様が、私に”死ね”とお命じになれば、私は喜んで死にます」

 文月礼登が両手をあげたので、晴海もナイフから手を離した。

「礼登。なんでお前が居る!?」

「お館様の側に居るのが私の勤めです。晴海様が、我らの””なのです」

「お前は、ならば何故!」

 晴海も、礼登が現れた事、情勢が変わっていなければ、礼登が来た意味を考えた。答えは解っているが、確認しなければならない。

「それは・・・。私もわかりません。父と兄を殺そうと探したのですが見つかりません。百家のどこかが匿っているようなのです」

「文月の総意ではないと言いたいのか?」

「・・・。お館様。父と兄は、私が殺します。それまで待って頂けませんか?父と兄を殺した後でならどのような処罰でもお受けいたします」

 晴海は、たっぷりと時間をかけて、礼登を睨みながら様子を伺う。

「礼登。お前をここに向かわしたのは誰だ?お前以外に誰が知っている?」

 晴海は、礼登に質問したが、この質問は確認の意味しか持っていない。

「御庭番の忠義殿です。こちらに来たのは、私だけです。準備をしました御庭番衆と市花家には、トラクターの輸送を頼みました」

「そうか、能見の指示なのだな?」

「はい」

 晴海はまっすぐに礼登の目を見る。
 少しの動揺を見せない礼登の目を見ている。

「わかった。信頼は出来ないが、信用してやる。それで、お前がトラクターを運転するのか?」

「はい。お館様」

「礼登。お館様はやめろ。俺は、文月は信用も信頼もしていない。俺の参集にも応じなかった」

「はい。そうです。参集の書状を見て、父と兄は姿を消しました。お館様」

「礼登。何度も言わせるな。晴海と呼べ」

「・・・。はい。晴海様」

「礼登。俺と、妻の夕花を全力で守れ、そうしたら、お前の願いを叶えてやる」

「ありがとうございます」

「俺と夕花が狙われたら、夕花を守れ、全力で!」

「・・・。はい」

「もし、俺が殺されるか、死亡が確認されたら、夕花をお前の手で殺せ。誰の目にも見せるな。死体も、解らないようにしろ。その後で、お前も死ね」

 頭を下げながら、晴海からの命令を聞いていた、礼登は、晴海から最後に告げられた命令を聞いて顔をあげてしまった。

「どうした?礼登。返事は?」

「失礼いたしました。晴海様。ご命令しかと承りました」

 礼登は、晴海をしっかりと見つめてから、頭を下げて命令を受諾した。

「晴海様。トレーラーを前に付けます。移動をお願い出来ますか?」

「わかった。足柄まで頼む。お前は、どうする?」

「富士で一旦降りて、日本平でまた乗り込んで、伊勢方面を回ってから、山陰に向かいます。その後、四国を回ってから駿河に

 晴海は、礼登の言い方が気になった。
 文月の家は、北関東に住んでいるはずだ。

「礼登。駿河に住むのか?」

「はい。忠義様から、安倍川河口付近にある。船舶停留所の管理を任されました」

「そうか、護衛は?」

「は?」

「お前の護衛だよ!」

「・・・」

「俺に変わって、文月の現当主と次期当主を殺してくれるのだろう?」

「・・・」

「わかった。能見に伝える」

「晴海様・・・。ありがとうございます」

 礼登も、晴海の性格は把握している。一度決めたら考えを変えない。しっかりと間違いを指摘すれば意見を変えてくれるのだが、感情論では晴海に意見の変更を求めるのは難しい。一番正しい言葉は、”謝意”を示すことだと解っている。

 礼登が頭をあげてから、トレーラーを晴海が乗る予定の車の前に付ける。乗り込むための、スロープを下げる。

 晴海は、運転席に乗り込む。
 夕花の視線に気がついた。

「夕花?」

「晴海さん。大丈夫ですか?」

 晴海は、夕花の心配そうな顔を見て、自分がまだ興奮しているのを自覚した。

「うん。大丈夫だよ。彼は、昔から知っていてね。僕を裏切ったと思っていたから、目の前に出てきて驚いただけだよ」

 納得した顔ではないが、晴海が大丈夫と言っているのだから、大丈夫なのだろうと考えた。

「わかりました。大丈夫だと言った晴海さんを信じます」

「ありがとう。あっそれから、トレーラーもどうやら、能見たちが手配したようだよ」

「そうなのですか?どうやって・・・」

「うーん。いろいろ手段はあるだろうけど、今は安全に移動できる手段だと思っておこう」

「わかりました」

 晴海と夕花が、夫婦の心温まる会話をしていると、目の前にトレオーラーが止まってスロープを降ろした。

 晴海は、車のエンジンをスタートさせて、ゆっくりとした速度でスロープを登っていく、トラクターの運転席から礼登が降りてきて、晴海の誘導を行う。トレーラーの中央部分にタイヤを固定する場所が用意されていて、しっかりとロック出来る。トレーラーの中には、小屋が作られていて、晴海と夕花が足柄まで休めるようになっている。
 ソファーとベッドが置かれているだけの簡素な部屋だ。ウォーターサーバーが置かれていて、お茶を入れる程度は出来るようになっている。

 タイヤをしっかりとロックした。礼登が小屋に居る晴海と夕花に話しかける。

「晴海様。奥様。準備が出来ました。足柄に向けて出発します。常磐道に入ってから、一度」「行程は、礼登に任せる。到着予定時間は?」

「はっ17時間後を予定しております。明日の朝に到着予定です」

「わかった。途中で何かトラブルがでたり、新しい情報が入ったり、問題が発生したら、能見経由で連絡を入れろ」

「かしこまりました」

 ソファーに座りながら、晴海は礼登に命令する。
 夕花は、どうしたらいいのかわからなかったので、晴海に言われて晴海の横に座って、晴海の手を握っていた。

 降ろしていたスロープをあげて、トレーラーの扉を閉めた。5分後、トラクターはゆっくりとした速度で走り始めた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

あまりさんののっぴきならない事情

菱沼あゆ
キャラ文芸
 強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。  充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。 「何故、こんなところに居る? 南条あまり」 「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」 「それ、俺だろ」  そーですね……。  カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

織田信長 -尾州払暁-

藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。 守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。 織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。 そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。 毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。 スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。 (2022.04.04) ※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。 ※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

処理中です...