82 / 161
第六章 ギルド
第二話 いい女
しおりを挟むナナは、俺とミルの話を黙って聞いてくれた。
冷え切った飲み物で、喉を潤す。
俺とミルの話が終わったと思ったのか、ナナは閉じていた目を開けて、俺を見つめてくる。
「リン君。いくつか、質問をしてもいい?」
「あぁ」
「まず、マヤちゃんは生きているのよね?」
「ミルと一つになったが、生きている。今は、神殿に居る。妖精になってしまっているから、連れてくるのは問題があると考えた」
「そう、わかった。マヤちゃんの本当の姿?なのよね?」
「マヤは、そう言っている。俺もよくわからないが、マヤは困らないから大丈夫だと言っている」
「ワタシが神殿に行けば、マヤちゃんに会えるの?」
「会える」
「わかった。わからないことが解って、マヤちゃんに会えるとわかっただけで十分」
「他には?」
「まず、ポルタ村長が、アゾレムに脅されていたという証拠は?」
「ない」
「ポルタ村の現状は?」
「俺の眷属たちが出入りを監視している。外から見たら、魔物に支配されたと見えるだろう」
「これから、どうするの?」
「まずは、ミヤナック家のハーレイに話をする」
「ハーコムレイ?」
「そうだ。アゾレム。宰相派閥に楔を打ち込めるから、乗ってくるだろう」
「そうね。ポルタ村は、要所ではないけど、アゾレムの喉仏にあたるから、欲しがるでしょうね」
「あぁアゾレムが兵を動かせば、領都に向けて眷属を動かす。アイツらは、俺の敵だ」
「ニノサとサビニを殺したのも?」
「直接手を下したヤツはわからないけど、アゾレムが裏に居る」
ナナは、喉を潤すように、カップに注がれた液体を一気に流し込む。
それから、また目を閉じて、考え始める。
どのくらい時間が流れたかわからない。
ナナが目を開けて、ミルを見つめてから、俺に視線を戻した。
「リン君」
「ん?」
「神殿には、ワタシも行けるの?」
「行ける。神殿のことで、ナナへの頼み事もある」
「頼み事?」
「無理なら断ってくれてもいい。でも、俺が考えている内容を聞いた上で、計画に協力して欲しい」
「なに?」
俺は、ナナに、メロナにあるミヤナックか協力的な貴族が所有する館からマガラ渓谷に入る門を設置する。そして、アロイを抜けた先の街道のお受け直轄領に、門を作って、マガラ渓谷を経由した方法での通路を作成する計画を説明する。
「リン君。そんなことが可能なの?」
「神殿の準備は、マヤがしている。理論的には、可能だ。ミヤナック家は、ハーコムレイの妹と繋がりがある。ローザスに貸しがあるから、王家直轄領に小さな村を作るのは可能だと思うけど・・・。どうだ?」
「リン君。ニノサに似なくていいのに・・・。そうね。ミヤナック家・・・。ハーコムレイとローザスに貸しがあるのなら、成功する可能性が高いわね。それだけ?」
「いや・・・。ナナ。マガラ神殿の街を治める人物が必要だ」
「そうね。リン君やマヤちゃんじゃダメ?」
「マヤはダメだ。マヤも俺も、”やる”ことがある。ニノサとサビニと、マヤの復讐だ。それだけじゃなくて・・・。諸々の、因果を断ち切る」
日本での因果や白い部屋の話はしていない。でも、俺の言葉で、ナナが納得してくれたようだ。
「・・・。そうね」
「ナナ。マガラ神殿を任せたい。通路の街だけでいい。ダメか?」
ナナは、また目を閉じる。
考えているようには見えない。葛藤している・・・。と思えるが、なにか違う。何かを思い出しているようだ。
1-2分だろうが、俺には1時間にも感じられた。
ナナが目を開けて、俺を愛しむように見てくれた。
「門が開通したら、引き受けましょう。本当は、すぐにでも現役に復帰して、アゾレム領に殴り込みに行きたいけど、リン君とマヤちゃんとミトナルちゃんに任せるわ。ワタシの代わりに、しっかりとアゾレムを殴るのよ?」
「あぁもう二度と俺たちに絡みたくないと思わせるくらいに、叩き潰す」
「わかったわ。神殿で、宿屋兼食事処でもオープンするわ。四月兎の名前で、新規オープンするわ」
「わかった。一等地を用意するようにマヤに伝えておくよ」
「ふふふ。いいわね。他にも、この街に居る、アゾレム側ではない人間たちは誘っていい?」
「できれば、王家直轄領での営業をしてくれる人も欲しい。あと、旧ポルタ村も人が必要になる」
「そうね。そっちも人手が必要になるのね」
「あぁ護衛は、俺の眷属にある程度は任せられるけど、村の中は無理だ」
「それは、ローザスに頑張ってもらいましょう」
ナナの笑い声で、神殿の話は終わった。
魔道具を切ると、ナナがミルの武器を見つめる。
「ミトナルちゃん」
「はい?」
「双剣使い?」
「はい。属性魔法もありますが、剣でも戦えるようにしたいと思っています」
「そう。ねぇリン君。これから、王都に行くみたいだけど、2-3日ならアロイに逗留しても大丈夫?」
ミルを見るとうなずくから、問題はない。
それに、急いで入るが、2-3日で変わるような状況ではない。
「アロイの現状も知りたい。そのくらいなら問題はない」
「ミトナルちゃん。ワタシと模擬戦をしない?」
「え?」
「ミトナルちゃんの歩き方を見ると、王家直属か貴族に仕えるような騎士に剣を習っているわよね?」
「え?あっそうです」
前に、ミルに聞いた時には、スキルで覚えただけで、実際に訓練をしたわけではないと言っていた。ナナは、歩き方を見ただけで、ミルの実力を見抜いたのか?そんなことが出来るとは思えないが、ナナが言っている話は、俺がミルから聞いた話と変わらない。
ミヤナック家の護衛と、ローザスの護衛や騎士から吸収した技が、ミルの基本になっている。貴族に仕える騎士の剣だと言われれば、そうなるのだろう。
「綺麗だとは思うけど、リン君がこれからやろうとしている事には、向かないわよ」
「え?」
綺麗な剣とでも言いたいのだろうか?
「騎士の剣は、主君を守る為の剣で、誰かを倒す剣じゃないわよ」
そういう事か・・・。主君を守り続ける為の剣で、主君と一緒に状況をひっくり返す剣ではない。
「それは・・・」
「だから、模擬戦をしましょう。ワタシとの模擬戦で、ミトナルちゃんがなにかを吸収ができれば、これからリン君と一緒に戦える。でも、吸収が出来なければ・・・」
「できなければ?」
「リン君を守るためにしか剣が振るえない」
「違うの?」
「違うわよ!リン君は、これから強くなる。それこそ、ミトナルちゃんが守らなくてもいいくらいにね。そのときに、ミトナルちゃんの後ろにリン君が居てくれる?ミトナルちゃんも望まないわよね。なら、リン君の横に立たないとダメよ。女は守るよりも、一緒に戦うほうが、いい女になれるのよ!」
「・・・。っ!お願いします」
「うん。いい返事。ミトナルちゃんは、いい女に、一歩だけだけど、近づいたわ」
ナナは、すごくいい笑顔で、ミルを見つめる。
「ナナさん。ナナさんが、言う”いい女”って?」
「サビニよ。リン君とマヤちゃんのお母さん!悔しいけど、サビニの横には、ニノサが似合っていた。サビニも、ニノサに守られる女じゃなかった。ニノサの横で、ニノサと一緒に戦うことを選んだ」
ナナの表情は、どこか遠くを見ている。
その場に居ない。もうこの世にもいない。ニノサとサビニを思い出している。
3日間。
俺とミルは同じ部屋で寝起きした。
ミルは、起きるとすぐに身支度を整えて、ナナの所に行く、俺もナナの手伝いを申し出た。宿屋の業務を押し付けられたが、アロイ自体の人が少ないのか常連客だけなので、困った状況にはならなかった。
ナナは、宿屋の業務を俺に押し付けると、ミルを連れて、アロイの外に向かう。
最初は草原での模擬戦をおこなった。初日は、ミルがボコボコにされて帰ってきた。ミルは、すごく嬉しそうに新しいスキルを覚えて、戦い方も解ってきたと話してくれた。二日目は、ミルの属性を剣に纏わせる方法を教えてもらって、模擬戦を繰り返した。ミルは、ナナからすごい勢いで吸収している。
三日目には、二人で近くの森に出かけて、魔物との戦闘を行って帰ってきた。
四日目は休暇として、五日目の早い時間帯に、俺とミルは三月兎を出て、マガラ渓谷の関所に向かった。
ナナから渡されたチケットを持って・・・。
0
あなたにおすすめの小説
『スローライフどこ行った?!』追放された最強凡人は望まぬハーレムに困惑する?!
たらふくごん
ファンタジー
最強の凡人――追放され、転生した蘇我頼人。
新たな世界で、彼は『ライト・ガルデス』として再び生を受ける。
※※※※※
1億年の試練。
そして、神をもしのぐ力。
それでも俺の望みは――ただのスローライフだった。
すべての試練を終え、創世神にすら認められた俺。
だが、もはや生きることに飽きていた。
『違う選択肢もあるぞ?』
創世神の言葉に乗り気でなかった俺は、
その“策略”にまんまと引っかかる。
――『神しか飲めぬ最高級のお茶』。
確かに神は嘘をついていない。
けれど、あの流れは勘違いするだろうがっ!!
そして俺は、あまりにも非道な仕打ちの末、
神の娘ティアリーナが治める世界へと“追放転生”させられた。
記憶を失い、『ライト・ガルデス』として迎えた新しい日々。
それは、久しく感じたことのない“安心”と“愛”に満ちていた。
だが――5歳の洗礼の儀式を境に、運命は動き出す。
くどいようだが、俺の望みはスローライフ。
……のはずだったのに。
呪いのような“女難の相”が炸裂し、
気づけば婚約者たちに囲まれる毎日。
どうしてこうなった!?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました
okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる