122 / 161
第七章 神殿生活
第八話 通行証
しおりを挟む「リン=フリークス」
リカールが、背筋を伸ばして、俺を真正面から見ながら、名前を呼んだ。
見ていた書類から目を離して、リカールを見つめ返す。
「なんでしょうか?」
「サリーカの言葉を信じて、ここまで来た。まずは・・・」
リカールの言葉を遮る形になるが、手を上げた。リカールも、俺の意図が解るのだろう。言葉を切って、俺を見て来る。
「わかりました。神殿に行きましょう」
安堵の表情を浮かべる。
何があるのか解らないが、商隊の中での駆け引きがあるのだろう。
「助かる。父が・・・。商隊長が煩くて・・・」
父?サリーカからは、父親の話は聞いたことがない。
「煩い?」
意味が解らない。
”煩い”に繋がる情報は、俺は知らされていない。別に、全部を教えろとは言わないが、情報の小出しだけは辞めて欲しい。
「あぁあの人は、俺の件には絡んでいない。だから、神殿で店舗が持てる可能性が嬉しいだけだ」
店舗を持つ?
前に、商隊や行商人は、小さくても店舗が持つ事が目的だと教えられた。
でも、セトラス商隊くらいの規模なら、簡単に店舗が持てるのでは?
もしかして、何か条件があるのか?
店舗だけではなく、従業員の確保やそのために必要になる資金は規模が大きくなるほど、膨大になるのはわかるが・・・。
「え?セトラス商隊なら、王都でも店舗が持てるのでは?」
疑問は、セトラス商隊の規模や繋がりを使えば、ミヤナック領ではもちろん、王都でも店舗を持つことは可能だろう。
「あぁ・・・。それは、俺の責任だな」
説明が抜けていたのだろう。
状況は理解ができないが、なんとなく”神殿”に”何”を求めているのか理解ができた。
サリーカに、神殿の簡単な説明をした。
その中で、神殿の”街”を求めたのだろう。俺が、サリーカに”商店”を作って欲しいと話をした。
「あっ!」
セトラス商隊として、店舗を持つのは難しくないのだろう。軌道に乗るまでの蓄えが微妙なのだろう。セトラス商隊だけが、金主ではないのだろうが、派閥を維持するためには、資金が必要になる。その資金の出元の一つが、セトラス商隊・・・。リカールが工面していたのだろう。
「そうだ。父には悪いが・・・」
商隊長である父親にどんな話をしていないのか解らないが、店舗を持つだけの資金の余裕はある。しかし、運営を行い、店舗が軌道に乗るまで維持するのが難しい状況なのだろう。
「わかった。それから、俺は、各地にある孤児院をサポートしようと思っている。セトラス商会に手伝って欲しいと思っているが、頼めるか?」
商隊ではなく、商会にお願いをする。
「っ!詳細は、後で聞きますよ?」
この意味が解るのだろう。
”にやり”とだけ口ものを緩ませただけで、表情を戻す。
差し出された手を俺が握った。
「もちろん」
詳細は、神殿に入ってから決めればいい。今は、まだ仲間になるという話だけで十分だ。
リカールが納得した所で、サリーカを呼び戻した。
もちろん、テーブルの上に置かれていた物は、リカールがしっかりと隠した。サリーカには教えていないようだ。
サリーカが戻ってきて、簡単にリカールが説明をしている。
天幕を出ると、すぐにでも移動の開始ができるように準備を始めている。俺とリカールの話し合いが、どちらに転ぶにしろ、移動が行われるのは決まっている。準備を始めているのは当然だろう。
「リン君!」
「タシアナ?どうした?」
「どうしたじゃないよ!」
何か怒っているようだ?
面倒だから、謝っておくか?
「ん?すまん」
「・・・。え?」
「ん?」
何か、間違えたのか?
「タシアナ。それじゃ解らないよ」
後ろから、歩いて来ていたフェナサリムがフォローしてくれたが、俺には何も情報がない。手元に出せる手札もない。
「フェム?」
「リン君。リン君が、セトラス商隊に向ったと聞いて、神殿には向かえないのかと思って」
「え?なんで?」
フェナサリムとタシアナが交互に言い争うように説明をしてくれた。
二人の話を聞くと、俺が神殿から戻って、屋敷に戻った。そのあとで、商隊に向った。説明が無かったので、なんとなく、皆がそわそわしていた。特に、安全の確保ができると考えていたタシアナは、神殿にすぐにでも向かいたいと考えていた。
しかし、俺とセトラス商隊の話し合いが終わる前から、セトラス商隊が移動の準備を始めた。
それも、商隊長からの指示ではなく、サリーカの兄からの指示だと言われている。そこで、サリーカを問い詰めるように話を聞いたら、俺とリカールが話し込んでいると教えられて、サリーカも会議から追い出されたと説明された。
そこで、二人は屋敷に戻って、セバスチャンに説明を求めたが、セバスチャンは”俺”からの許可がなければ話せないというだけで、何も教えてくれなかった。
戻ってきたが、今度はサリーカが呼ばれた。
これで、神殿には行けないと考えた。
飛躍した考えだが、二人はこれが答えだと思ってしまって、天幕から出てきた俺に詰め寄った。
二人に誤解だと話をして、神殿に向かうことを説明した。
「今から?」
「皆の準備が終わったら、案内する」
「わかった!」
タシアナが、フェナサリムを残して、走り出した。
ナッセ・ブラウンへの説明は、タシアナに任せて大丈夫だろう。
「そうだ。フェム。殿下も連れて行けばいいよな?」
「そうね。一度、リン君が貰った、屋敷に滞在したことにする必要はあると思う」
「そうか?ルナとイリメリが対応してくれるだろう?」
「どうかしら?イリメリは、リン君がお願いしたら対応してくれるとは思うけど、ルナは多分・・・」
「多分?」
「”神殿に着いて行く”ことになると思うわよ?」
「そうか?ミヤナック家として、それでいいのか?」
「ダメだけど、大丈夫だと思うわよ」
「わかった。フェム。任せた。準備が出来たら、屋敷に集まってくれ」
「はいはい」
手を振るように、移動を始めたフェナサリムを見送って、俺も、神殿への入口がある屋敷に向った。
まだ誰も来ていないが、セバスチャンが俺に気が付いて、屋敷から出てきた。
「セブ。殿下は、屋敷に滞在してもらおうと思う」
「かしこまりました。準備は出来ています」
セバスチャンから紙を渡された。
紙には、セトラス商隊にスパイが紛れ込んでいるということだ。大所帯だ。スパイの1ダースくらい居ても不思議ではない。
殿下の身代わりになる者の準備が終わっていると書かれていた。どうやら、殿下に屋敷で休んでもらうのは正しかったようだ。ここから、殿下をミヤナック領に逃がす。詳細は、俺は聞かないことにした。セバスチャンからの紙にも、俺や他のメンバーは、殿下の移動の詳細は知らないほうがいいだろうと書かれていた。
殿下とルアリーナだけが説明を受けることにしたようだ。
俺が、紙面を読み込んでいると、皆が集まってきた。
殿下は、何も言わずに、ルアリーナと屋敷に入っていく、最初はイリメリも付き合うかと思ったが、セバスチャンが大きめの声で、貴族以外が世話係と雖も一緒に入るのはダメだと断った。
イリメリは、俺を見つめてきたので、頷いておいた。それだけで、イリメリは納得してくれた。
皆に、神殿の説明をしていると、セバスチャンが俺を呼んだ。
神殿に従者を連れて行って欲しいという要望だ。
説明を終えて、神殿のゲートを潜るときに、ロルフから提案が届いた。
どうやら、セバスチャンがミトナルに相談をして、ロルフが解決策を作って、俺に連絡をしてきたようだ。
神殿の向かう時に、魔力の登録を行うという事だ。
後々ギルドカードにも運用ができるような通行証になる。別人が使おうとしたら、隔離されている神殿の区画に転送される。
カードの仕組みは後で追加ができるようなので、今のところは神殿への通行証に使うことにした。
やっと準備ができた。
俺に付いてくるという従者の二人も揃った。
改めて、神殿の入口の説明を行った。
説明は、セバスチャンが行う。
今から入る入口は、設備が整ったら貴族向けの入口になるということ、商隊や貴族以外の入口は、森に入って場所にある。俺が神殿を見つけた場所からになると説明を行う。時間的な事や、説明に矛盾もあるが、もう押し通すことにする。
説明が終わって、簡易的に作った建物の扉を開ける。
皆には、カードを配って、魔力を登録してもらった。魔力の登録ができない者には、1滴の血液を垂らしてもらった。
そして・・・。
「さて、誰から入る?」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@2025/11月新刊発売予定!
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
《作者からのお知らせ!》
※2025/11月中旬、 辺境領主の3巻が刊行となります。
今回は3巻はほぼ全編を書き下ろしとなっています。
【貧乏貴族の領地の話や魔導車オーディションなど、】連載にはないストーリーが盛りだくさん!
※また加筆によって新しい展開になったことに伴い、今まで投稿サイトに連載していた続話は、全て取り下げさせていただきます。何卒よろしくお願いいたします。
転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。
不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。
14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる