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第三章 帝国脱出
第四十六話 おっさん建国?
しおりを挟む一人だけ意味が解っていなかったイザークが、カップに注がれた飲み物を飲み干した。
「イザーク。”おかわり”は居るか?」
「うーん」
イザークは、周りに居る者に視線を送るが、皆が首を横に振っている。
「おっちゃん。ダメみたい」
「そうか、残念だな。それなら・・・」
近くに立っていた者に、おっさんは視線を向ける。
頷いて部屋から出ていく。
「まー様?」
「気にするな。さっきの物とは違う。別の飲み物も用意している」
別の飲み物と聞いても、イーリスとロッセルの警戒が緩むわけではない。
おっさんが用意したのは、アキとイーリス向けのジュースだ。
複数の種類の果実を絞ったジュースを用意していた。
ロッセルには、アルコール度数だけが高くなってしまった蒸留酒を少しだけ混ぜたカクテル風の飲み物を用意した。
「ロッセルの前の物には、酒精が入っているから、話が終わってからにした方がいいかもしれないな」
「はぁ・・・。まーさん?ちなみに、ジュースの原料は?」
「森で採取した果実だな。カリンが研究して美味しい組み合わせを考えたものだ」
イーリスとロッセルは、完全におっさんのペースに嵌っていると認識はしているが、覆すだけの話が無いのも事実だ。
アキとイザークがジュースを飲んで美味しいと騒いでいる。
おっさんは優しい視線で二人を見ている。ロッセルとイーリスもアキとイザークのやり取りをほほえましく見ている。
「さて、イーリス。ロッセル。訪問の理由を聞かせてもらえるか?」
おっさんが、姿勢を正してイーリスとロッセルをまっすぐに見据える。
二人は、おっさんとの会談には、辺境伯領の未来が・・・。そして、大きくは帝国の未来がかかっていると考えていた。
大げさな話ではなく、おっさんは最大戦力と考えられる龍種との関係を築いてしまった。
そして、人を寄せ付けなかった森の中央部を領有と言っても問題がない状況を作ってしまったのだ。
「まー様は、建国を宣言されますか?」
イーリスがいきなり本題を切り出す。
おっさんの考え次第では、話の進め方を変えなければならない。イーリスもロッセルも、最初に確認しなければならない事だと認識している。
「あぁ面倒だ。帝国に庇護して欲しいとは思わないが、自分たちだけでは、限界があるのは確かだ。それに、街道を整備しているのは、見て知っているよな?」
おっさんの言葉に、イーリスとロッセルは首肯する。
「あの街道を、王国と共和国にも繋げようと考えている」
「え?それは・・・」
「ダンジョンを、王国にも共和国にも解放する」
「・・・。まー様。それは、建国と何が違うのですか?」
「まぁ話を聞け、俺としては、俺たちの居住区の安全を考えている」
おっさんの話に、イーリスとロッセルは黙ったまま耳を傾けるしかない。
相槌を打つことも忘れて、しっかりと聞くことに集中している。
特にイーリスの態度は真摯を通り越して居るようにも思えた。今までのおっさんのやり方を聞いて見てきたのは、カリンを除けばイーリスが多い。その為に、おっさんが言葉にいろいろな意味を含ませる事や、行動に表と裏を持たせることを知っていた。
「安全が保証されるのなら、建国は必要ないと?」
ロッセルが、おっさんの言質を取るように質問をするが、おっさんはにこやかに笑って答えない。
ロッセルもイーリスも、おっさんの事を理解したつもりになっているが、根本が間違っている。
おっさんが安全にしたいと思っているのは、本当の拠点だ。ロッセルとイーリスが考えているのは、自分たちを招き入れた場所の事だと考えている。
「なぁおっちゃん」
実は、おっさんが話し相手として怖いと思っているのが、アキとイザークだ。
アキは、聖樹で牽制しているので、黙っているが、イザークはジュースを飲み終わって、カリンが作ったお菓子に手を伸ばしている。
「ん?」
「おっちゃんとカリン姉ちゃんが、本気を出せば、大抵の奴らには負けないよな?それは、安全じゃないのか?」
おっさんは、ニヤリと笑ってから、イーリスとロッセルを交互に見てから、ヒントを口にする。
「俺たちも無敵じゃない。そうだな。帝国に居るという・・・。噂の勇者たちが俺たちの敵に回ったら怖いな」
「!!」「!?」
「勇者?へぇ強いの?おっちゃんよりも?」
「強いぞ!多分だけどな」
「でも、帝国の勇者なら、おっちゃんの敵じゃないのだろう?」
「そうだな。でも、俺とカリンがこの場所で、ここは”俺とカリンの土地だ”と宣言したら、帝国は面白くないだろう?」
「そうなの?」
イザークは、おっさんの答えが解らなくて、アキに聞こうとしたが、アキはアキで自分では難しいと、イーリスとロッセルを見ている。
「まー様の懸念はわかります。しかし」「アイツらならあり得るよな?」
「・・・」「イーリス様。隠してもしょうがないでしょう。あの勇者と言うよりも、ブーリエならやりかねません」
ロッセルが、イーリスの言葉を遮るように、おっさんの真実を告げる。
おっさんも既に把握が出来ていることだが、この場で話が出たのなら、おっさんの敵が勇者と帝国だと判断ができる。話のベースができたことになる。
「ははは。ロッセル。言い切ったな」
ロッセルの思い切った話は、おっさんとしても意外だった。ロッセルではなく、イーリスが言い出すと思っていたのだ。イーリスは、アキやイザークが一緒なのを気にして言い出せなかった。
「はい。隠してもしょうがないです。アキやイザークも知っておくべきです」
「だからこそ、俺は二つの事を考えている」
おっさんは、テーブルに手を置いた。
握りこぶしを作って、右手と左手にそれぞれの案があるかのように見せている。
「二つですか?」
案が二つあると聞いて、ロッセルは眉間に皺を作った。
イーリスは、なんとなく想像が出来ているのだろう。おっさんの握った手を見ている。
「そうだ。一つは、最初に考えた計画で、この土地を各国から簡単に来られるようにする」
おっさんが、右手を開いて説明を始めた。
「え?」
最初に反応したのはイザークだ。
「おっちゃん。それじゃ、いろいろな人が来るから、危ないよな?」
おっさんは、意外そうな表情をした。
最初に反応するのは、アキだと思っていた。
「そうだな。でも、イザーク。俺が怖いと思うのは、いろいろな人に紛れて、俺とカリンの安全を損なう奴だ」
開いた手を今度はテーブルの上に伏せてから、イザークの質問に答えた。
「??」
何が違うのか解らないようだ。イザークは、アキを見るが、アキも意味が解らないようだ。イーリスは、なんとなく解ったようだが、自分が答えるよりは、おっさんの答えを聞きたいと考えている。ロッセルは、別の事を考えて、話を半分程度しか聞いていない。
「イザーク。まーさんが言っているのは、勇者や暗殺者は怖いけど、それ以外なら対処ができる。そして、人が多く集まるようになれば、どうなる?」
アキは、おっさんの答えは解らないが、自分が考えた事を、イザークに教えるように話し始めた。
「えぇと、そうか!おっちゃんたちがやることが少なくなる!」
「まぁそうだな。俺たちを隠すのに、他国が入り込んでいる状況は都合がいい」
「へぇ・・・。そうか、おっちゃんたちを守る人も出て来るのか?」
「そうなるといいな」
おっさんの後ろには龍族が居ると思わせる事で、各国が牽制しあう状況が作り出せる。おっさんとカリンが邪魔な存在だと思えても、龍族の怒りを買うのは得策ではない。誰かがババを引いてくれるのを期待して、監視を続ける状況が作り出せる。
力のある馬鹿は何処にでも居る。勇者は、カリンを狙う可能性もあるが、その時には報復を考えればいいだけだ。報復のための虐殺をおこなえば、以降が手を出してこない可能性が高い。一度の報復で、その後の安全が買えるのなら安い買い物だと考えている。
おっさんは、この案はベターであって、ベストではないと思っている。
ベストの方法は、イーリスやロッセルから提案して欲しいと考えている。その為のヒントも散りばめて話をおこなった。
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