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【第3部】祐策編
21.提案(前編)
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あともう少しで五年が経過する。
同居人達にも動きが見え始めた。
やはり区切りになるのだ。
トモも三原浩輔も恋人と同棲をすることにしたようで、準備をしていると聞いた。トモは恋人が危険な目に遭う事件があり、それからずっと考えていたと話していた。浩輔のほうが長くつきあっている恋人と、五年経ったら一緒に住むと約束をしていたという。二人ともちゃんと水面下で考えていたようだ。和宏はというと、彼は今の所出る予定はないらしい。
(俺も真面目に考えるか……)
と思うが、会長の神崎を置いて出ていいものかと悩む。しかし神崎は皆に、自由にするように、といつも言う。
(同棲、か……)
真穂子は一人暮らしで、泊まることはしないが、今は彼女の部屋に入り浸っているも同然だ。
会社で毎日会えるが、やはり朝起きて、夜寝る前に顔を見るという生活に憧れる。
(やっぱ俺も、考えよう……)
二組の姿を見てぼんやり思った。
「あ、言っとくけど! 一緒に住んでがっかりするってパターンもあるらしいからな」
浩輔が恐怖に満ちた顔で助言した。
「結婚の予行演習だよ。まあ我慢できるかできないか、それもわかるし」
「三原もあんの?」
「いや、俺はないな。小さい頃から知ってるし、今でも合わない所もあるけど、許容範囲だし、別に不快に思うほどのことはないし。受け入れられるかなってことばっか。寧ろ俺のほうが彼女が嫌なこと、してるかもしれないけどな」
「ふうん……」
馬鹿っぽく見えて浩輔はいろいろ考えているらしい。
(馬鹿っぽいは失礼か)
浩輔は実は勉強ができるし、手先が器用だということも知っている。自動車整備士として働いているだけある。
「おまえもなんかあったら相談してくれよ」
「おう、わかった」
結局、真穂子の部屋に泊まることもなく、今日まで来た。温泉旅行の計画を立てても、行きたい日には宿の予約がいっぱいで叶うこともなかった。
「はあ……俺も、同棲、したいな……」
真穂子に相談してみようか、と祐策は考えた。
同居人達の顔を見てみると、幸せそうだ。
(羨ましいな……)
喧嘩をするかもしれない、今までは気づかなかった合わない所も出てくるかもしれない。もしかしたら別れにつながるかもしれない。しかしそんなことより、二人で毎日を暮らすことを楽しみにしているのがわかる。
(マジで羨ましい……)
「あのさ」
「うん」
夕食を終え、テレビを見ながら寛いでいる時だ。
祐策は思いきって切り出した。
「一緒に、住まないか?」
「へっ……?」
「同棲」
「えっ」
真穂子は目を見開き、口を半分開けて硬直した。
「嫌じゃないなら、考えてほしい」
ごくり、と息をのみ、真穂子はまじまじと祐策を見返してくる。とても驚いているのだろうということが祐策にもわかる。
「今言うことじゃなかったかもしれないけど」
「……ううん」
「け……結婚を前提に同棲したい。俺は、真穂子と一緒に暮らしたいから」
「…………」
「将来のこと考えてるし、ずっと一緒になら、結婚する前に暮らしてもいいんじゃないかと思った」
もうすぐ五年の縛りが解けることを話した。
「そうかあ、もうすぐ五年……」
「長かったな……」
「祐策さんが入社してもうすぐ五年ってことだもんね」
「うん」
よく頑張りました、と真穂子は笑った。
「おう、ありがと」
照れくさくて、何を言ったらいいにかわからず、思わず礼を言ってしまう祐策だった。
「で、同棲、考えてほしいんだけど……」
「うん」
「よろしく」
「うん、住もう」
「うん……えっ!?」
危うくスルーしてしまう所だった。
「い、いいの!?」
「……うん」
やった、と祐策はガッツポーズをしかけて、拳を握りしめるに留めた。
こんなにあっさり承諾してもらえると思わず、少しだけ拍子抜けしたのが本当の所だ。真穂子は世間一般でいうところの適齢期だし、職場でも「誰かいないのか」「結婚しないのか」とおっさんにセクハラ発言を受けている。気にしていないことはないだろうし、一応祐策という相手がいるのだから、意識していないこともないだろう。結婚、を視野に入れていることは間違いないはずだ、焦ってもいないだろうけれども、だ。
「じゃあ、いろいろ、計画立てないとだね」
少し声の上ずった真穂子の声に、嬉しいと思ってくれていることを察した。
(よかった……)
「おう。……一つ、懸念事項がある」
「なあに?」
真穂子の承諾だけで物事は進められない、と祐策には思っていることがあった。
「挨拶」
「?」
「真穂子のご両親に挨拶、しないと、いけない、と思って……」
祐策にとって、最大の難関だった。
真穂子の両親。
「挨拶? 別にいいんじゃないかな」
「いや、そういうわけにはいかないんじゃないか?」
同居人達の話を聞いて、必要なことなのだと思ったのだ。
年上の同居人、影山智幸──トモは恋人の親の許可を得に行ったと言う。真穂子と同じように、恋人には必要ないと言われたそうだが、けじめのつもりだと話してくれた。彼らはすんなりいったと言っていたが。
「真穂子のお父さんお母さんは、俺のこと知ってる?」
「うーん……付き合ってる人がいることはわかってると思うけど……」
「その程度だよな……。俺、下っ端とはいえ、元ヤクザだったし……世間的にいい顔されない存在だし、許してもらえるかどうかもわかんねえしな……」
「…………」
「まずはちゃんと挨拶しないと……」
同居人達にも動きが見え始めた。
やはり区切りになるのだ。
トモも三原浩輔も恋人と同棲をすることにしたようで、準備をしていると聞いた。トモは恋人が危険な目に遭う事件があり、それからずっと考えていたと話していた。浩輔のほうが長くつきあっている恋人と、五年経ったら一緒に住むと約束をしていたという。二人ともちゃんと水面下で考えていたようだ。和宏はというと、彼は今の所出る予定はないらしい。
(俺も真面目に考えるか……)
と思うが、会長の神崎を置いて出ていいものかと悩む。しかし神崎は皆に、自由にするように、といつも言う。
(同棲、か……)
真穂子は一人暮らしで、泊まることはしないが、今は彼女の部屋に入り浸っているも同然だ。
会社で毎日会えるが、やはり朝起きて、夜寝る前に顔を見るという生活に憧れる。
(やっぱ俺も、考えよう……)
二組の姿を見てぼんやり思った。
「あ、言っとくけど! 一緒に住んでがっかりするってパターンもあるらしいからな」
浩輔が恐怖に満ちた顔で助言した。
「結婚の予行演習だよ。まあ我慢できるかできないか、それもわかるし」
「三原もあんの?」
「いや、俺はないな。小さい頃から知ってるし、今でも合わない所もあるけど、許容範囲だし、別に不快に思うほどのことはないし。受け入れられるかなってことばっか。寧ろ俺のほうが彼女が嫌なこと、してるかもしれないけどな」
「ふうん……」
馬鹿っぽく見えて浩輔はいろいろ考えているらしい。
(馬鹿っぽいは失礼か)
浩輔は実は勉強ができるし、手先が器用だということも知っている。自動車整備士として働いているだけある。
「おまえもなんかあったら相談してくれよ」
「おう、わかった」
結局、真穂子の部屋に泊まることもなく、今日まで来た。温泉旅行の計画を立てても、行きたい日には宿の予約がいっぱいで叶うこともなかった。
「はあ……俺も、同棲、したいな……」
真穂子に相談してみようか、と祐策は考えた。
同居人達の顔を見てみると、幸せそうだ。
(羨ましいな……)
喧嘩をするかもしれない、今までは気づかなかった合わない所も出てくるかもしれない。もしかしたら別れにつながるかもしれない。しかしそんなことより、二人で毎日を暮らすことを楽しみにしているのがわかる。
(マジで羨ましい……)
「あのさ」
「うん」
夕食を終え、テレビを見ながら寛いでいる時だ。
祐策は思いきって切り出した。
「一緒に、住まないか?」
「へっ……?」
「同棲」
「えっ」
真穂子は目を見開き、口を半分開けて硬直した。
「嫌じゃないなら、考えてほしい」
ごくり、と息をのみ、真穂子はまじまじと祐策を見返してくる。とても驚いているのだろうということが祐策にもわかる。
「今言うことじゃなかったかもしれないけど」
「……ううん」
「け……結婚を前提に同棲したい。俺は、真穂子と一緒に暮らしたいから」
「…………」
「将来のこと考えてるし、ずっと一緒になら、結婚する前に暮らしてもいいんじゃないかと思った」
もうすぐ五年の縛りが解けることを話した。
「そうかあ、もうすぐ五年……」
「長かったな……」
「祐策さんが入社してもうすぐ五年ってことだもんね」
「うん」
よく頑張りました、と真穂子は笑った。
「おう、ありがと」
照れくさくて、何を言ったらいいにかわからず、思わず礼を言ってしまう祐策だった。
「で、同棲、考えてほしいんだけど……」
「うん」
「よろしく」
「うん、住もう」
「うん……えっ!?」
危うくスルーしてしまう所だった。
「い、いいの!?」
「……うん」
やった、と祐策はガッツポーズをしかけて、拳を握りしめるに留めた。
こんなにあっさり承諾してもらえると思わず、少しだけ拍子抜けしたのが本当の所だ。真穂子は世間一般でいうところの適齢期だし、職場でも「誰かいないのか」「結婚しないのか」とおっさんにセクハラ発言を受けている。気にしていないことはないだろうし、一応祐策という相手がいるのだから、意識していないこともないだろう。結婚、を視野に入れていることは間違いないはずだ、焦ってもいないだろうけれども、だ。
「じゃあ、いろいろ、計画立てないとだね」
少し声の上ずった真穂子の声に、嬉しいと思ってくれていることを察した。
(よかった……)
「おう。……一つ、懸念事項がある」
「なあに?」
真穂子の承諾だけで物事は進められない、と祐策には思っていることがあった。
「挨拶」
「?」
「真穂子のご両親に挨拶、しないと、いけない、と思って……」
祐策にとって、最大の難関だった。
真穂子の両親。
「挨拶? 別にいいんじゃないかな」
「いや、そういうわけにはいかないんじゃないか?」
同居人達の話を聞いて、必要なことなのだと思ったのだ。
年上の同居人、影山智幸──トモは恋人の親の許可を得に行ったと言う。真穂子と同じように、恋人には必要ないと言われたそうだが、けじめのつもりだと話してくれた。彼らはすんなりいったと言っていたが。
「真穂子のお父さんお母さんは、俺のこと知ってる?」
「うーん……付き合ってる人がいることはわかってると思うけど……」
「その程度だよな……。俺、下っ端とはいえ、元ヤクザだったし……世間的にいい顔されない存在だし、許してもらえるかどうかもわかんねえしな……」
「…………」
「まずはちゃんと挨拶しないと……」
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