おちゆく先に

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50話

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 “カラン”そんな音を立てて組合に入ってきたのは禍々しい鎧を着た男だった。その背には丸盾と大剣にしか見えない短槍、そして背嚢を一つ背負っていた。

 その鎧男が組合に入ると組合の受付から酒場まで話していた人はもちろん騒いでいた人も一様に黙ってしまった。そんな異様な光景も気にも留めずに受付へと向かう鎧男ことジグレイド。そして一番空いている?むしろ皆から避けられている受付へと歩みを進めた。

 「っ!?・・・すまない。深緑の森の依頼で手持ちの素材で完了できるか確認したい」
 なぜジグレイドが驚いたのかというと・・・そこにはいるはずのない人物がいたからだった。

 「あらん?あたしのとこに来てくれるなんて嬉しいわ。ここの人たちは恥ずかしがってあたしのとこで受付してくれないのよ。せっかくお呼ばれされたのに仕事ができていなかったからちょっと気にしてたのよん」
 そうこの人がいたからである。覚えているだろうか、以前ジグレイドがフェイシル王国の王都ムルスの組合にて素材を買い取ってもらっていたオカマ、筋骨隆々のキャサリンである。

 「そ、そうか・・・それは災難だったな。きゃ、キャサリンがいればここも安泰だな」
 「そうでしょん。あらん?あたしあなたに名乗ったかしら?そういえば聞き覚えのある声ね・・・」

 この時ジグレイドは嫌な汗が全身から噴き出していた。

 「そうだわ!あなた!ジグちゃんでしょ!あたしの目はごまかせないわよん」
 くねくねしながら変なキメポーズをとるキャサリンにジグレイドも含め周りがドン引きをした。中には口を手で押さえている人もちらほら見受けられた。

 「あらん?ちょっと刺激が強すぎたかしら?それでジグちゃん、本当に深緑の森の素材持っているのかしら?」
 周りからの声にならない非難の叫びには一切気が付かずに真面目トーンで応対してくるキャサリンに観念したのかジグレイドはため息をして素材を出した。
 「お久しぶりです、キャサリン。よく分かりましたね。あとこれが素材です。めぼしいものは知り合いの鍛冶師にあげたので精々これの中には中層の魔物の素材しかありませんけどね」
 「当然よ!キャサリン呼びしてくれる人はジグちゃんも含めて数人しかいないんだもの。というか中層しか残ってないって・・・逆に深層の素材があったのかしら?」
 「なるほど・・・人の名前をちゃんと憶えないなんて失礼な人たちですね。キャサリンほどインパクトのある人はいないと思うんですが。ありましたけど鍛冶師が全部ほしいって言ったので全部あげてきましたよ。そもそも深層の素材の依頼なんてないでしょう?中層もあるか怪しいですけど」
 「うふふ、ありがと。その鍛冶師は幸せ者ね。でも深層の魔物の素材を扱えるのかしらん?ちょっと見てみたけど中層の素材でも一流の鍛冶師しゃないと無理そうよん」
 「たしかに普通の鍛冶師では無理だと思いますよ。でもこの装備を作った鍛冶師ですから大丈夫です。それでキャサリンさん依頼ありそうですか?ないならないで構いませんよ。そのまま買い取ってもらう予定なので」
 「その装備の製作者・・・それなら納得だわん。依頼はー・・・ジグちゃんの予想通り依頼はないわね。それじゃあこちらで買い取るわねん。査定するからちょっと待っていてねん」

 そう言うや否や素材を持って奥に行ってしまった。
 暇になったので適当な椅子に座り待つことにしたのだが、見知らぬ人に話し掛けられてしまった。

 「ちょっといい?」
 振り返るとそこには灰色のローブを目深に被っている水色の髪をした小柄な人がいた。声からして女と分かるがそれだけだ。
 「なんです?」
 「深緑の森に行ってたってほんと?」
 「そうですよ。嘘だと思うならキャサリンさんにでも確かめてください。素材を渡したので」
 「ついてきて」

 それだけ言うと組合から出て行ってしまった。もちろんジグレイドがついていくはずもなく独りでである。
 『なんだ?こっちは査定を待っているとこなんだからついていくわけないだろ』と内心で愚痴っていた。


 そして数分後、先ほどのローブ女が乱暴に組合の扉を開けて戻ってきた。

 「なんでついてこない!」
 「あ?こっちは素材の査定を待っているんだ。ついていくわけないだろ。それに子供じゃないんだから誰ともわからん奴にホイホイついていくわけないだろ」
 「そう・・・なら終わるまで私もここで待つ」
 平然とジグレイドの横に座るローブ女
 「お、おい!そもそも依頼か何だか知らないが受ける気はないぞ!他を当たれ!」
 「なぜ?」
 「なんでって・・・さっき言っただろ!?誰ともわからんやつにはついていかないって!」
 「・・・カリーナ」
 「・・・は?終わり?」
 本当に名前を言っただけだった。そんなローブ女に呆れて何も言えなかった。

 すると運よく査定が終わったのかキャサリンが呼びに来た。
 「ジグちゃん終わったわよん。あら?そこにいるのはカリーナちゃんじゃない」
 どうやらキャサリンとも知り合いのようだ。
 「キャサリン知り合いなのか?さっきからついてこいってうるさいんだが・・・」
 「あらそうなの?ダメじゃない!めんどくさがらずにちゃんと目的も言わなきゃ」
 後半はもちろんカリーナに向けての言葉である。
 「キャサリン代わりに喋って」
 「仕方ないわね・・・ジグちゃんちょっといいかしらん」

 そう言って部屋に連行、もとい案内された。
 「それでキャサリン、このカリーナとかいうローブ女はなんだ?」
 「この子はね、カリーナ・メルベス。こう見えてもあなたより年上よん。それとこの国の魔法師団の団長様でもあるわん」
 「・・・は?フェイシル王国の魔法師団団長だと!?なんでまたそんなお偉いさんがここにいるんだ?いつも王都にいるはずだろ?」
 「それは偏見よん。これは言っていいのか知らないけど言っちゃうわねん。次の春にまたバルクド帝国が戦争を吹っ掛けてくるらしいのよ、だからこうしてこの子が国境周辺を視察してるらしいのよ」
 「いや、そんな重要な情報勝手に漏らすなよ・・・それで?なんで俺が呼ばれたんだ?ただの組合員だぞ?」
 「うふふ、ジグちゃんがただの組合員だなんてありえないわん。深緑の森の素材をあれほどにまで綺麗な状態ではぎ取れるんだもの。中層なら余裕なんじゃないかしら?」
 最後の言葉にカリーナはビクンと反応していた。ジグレイドはそのことに気が付いていたがあえて無視しておいた。

 「確かに中層程度だと相手にもならないのは本当だが・・・確実ではない。まだ出会ったことのない中層の魔物がいるかもしれないし、そいつが俺よりも強い可能性もある。第一あのローレン将軍なら深緑の森も簡単に深層までたどり着けるだろ?」
 「そうね、ローレンちゃんならたどり着けるわね。でもローレンちゃんは意外と忙しいのよ。そしてこの情報が一番の機密情報なんだけど・・・いいかしらん?」
 カリーナは自分では一切喋りもせずにただ頷くだけだった。
 「じゃあ言うわね。実は前回の戦争で多くの死者が出たのは知ってるかしらん?その原因が亜人にあるということも」
 「・・・ああ」
 怒りが再び湧き出てくるがなんとか今爆発させることは抑えれた。

 「それでね、その亜人が深緑の森に拠点を構えている可能性があるのよん」

 「なんだって!?」

 探し求めていた復讐相手の拠点の情報に思わず大声を出してしまう。
 そんないきなり大声を出したジグレイドに二人はビックリしたようで目を見開いていた。
 「どうしたのかしらん?」
 「い、いや・・・なんでもない」
 「続けるわねん。それで深緑の森を探索できる組合員をカリーナちゃんは探していたのよ」
 「でもそいつも魔法師団の団長様なんだろ?態々組合員に依頼しなくても自分で探せばいいじゃないか」
 「それがそうでもないのよ。確かにカリーナちゃんは強いわ。それも桁違いにねん。でもそれは魔法が十全に使える場所での話よ。カリーナちゃんはこんな髪色してるけど、実は得意としてるのは炎の魔法なのよん。それに魔法使いは遭遇戦には不向きだしねん」
 「なるほどな・・・炎なら仕方ないってなるのか?俺は魔法知らないから分からないが」

 「うそ」
 ここにきて漸くカリーナが喋った。
 「あ?なにがだよ!?」
 「あなたには膨大な魔力がある。魔法を知らないのはうそ」
 「あー、そのことか。俺は属性がないんだよ。だから膨大な魔力を持っていようと魔法は使えない。なら勉強する気にもならないだろ?」
 「もったいない・・・」
 「カリーナちゃんそれ以上失礼よん」
 「・・・すまない」
 「別にいいさ。昔なら怒っていたかもしれないが今はもう属性のことなんか気にしていない」
 「それでねん、ジグちゃんへの依頼内容は魔法師団と一緒に深緑の森の調査ということになるのよん」
 「なるほどな、だがカリーナほどの使い手ならまだしもそれ以外は足手纏いじゃないか?そんな奴らを守りながらあそこを探索なんて嫌なんだが」
 「うふふ、大丈夫よ。無理そうなら見捨てちゃえば。でももし亜人のアジトが結界に覆われていたら多くの魔法使いが必要になるけどねん」
 つまり俺だけだと見つけることもできないし、それなりの人数がいないと見つけても意味がないってことかよ。
 「・・・ちっ!分かったよ!死なない程度で守ればいいんだろ?だが最低限度の実力がなければ連れて行かんぞ!無駄死になんて胸糞悪いからな」
 「ありがとねん。ジグちゃんなら引き受けてくれると思っていたわん」
 くねくねしながらお礼を言ってくるキャサリンに二人してドン引きしてしまった。カリーナがドン引きしたらダメだろうと思ったが言わなかった。
 「いや、そもそも断れない状況に持ち込んでいったのはキャサリンだろうが!まんまと嵌められた!」
そう愚痴を言っているジグレイドにカリーナが近づいていき一言

 「ありがと」

 と言ってきた。
 ジグレイドは不覚にも思っていたよりも可愛らしい顔をした小柄な女性が上目遣いでお礼を言ってきたことにキュンときてしまった。
 「あ、ああ」
 そんな言葉しか返せなかったジグレイドの内心は荒れ狂っていた。
 『なにときめいているんだ!そんなことをしている暇などないはずだろ!?しっかりしろ!一時も気を緩めてはいけない!』
 と内心ではそんなことを考えていた。

 「ついてきて」
 カリーナが再びそう言ってまたそそくさとどこかに行こうとするが、キャサリンが止めた。
 「待ちなさい、カリーナちゃん。まだ終わっていないわん。これが査定の結果よん。これでいいならここにサインしてねん」

 金額を見てジグレイドは驚愕した。金額がおかしかったのだ。
 「キャサリンこれ間違ってないよな?サインしちゃうぞ?」
 「そういいたくなるのも分かるけど、それで間違いないわん」

 その金額というのはなんと“52白金貨”であった。驚くのも無理はない、白金貨というのは基本貴族や豪商しかもっていないのだから。


 サインをしたジグレイドは金貨100枚を受け取り残りは全て組合に預けることにした。そして終わったのを見届けたのかカリーナから三度目の「ついてきて」を言われた。

 今度はちゃんとついていきましたとも。

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