おちゆく先に

目日

文字の大きさ
88 / 126

87話

しおりを挟む
 うららかな春の日差しに植物は芽吹き、花が咲き出し、動物は元気に森や草原を駆け回っている季節の中、バルクド帝国とフェイシル王国の国境線にある湿地帯では総勢約2万もの人がピリピリとした空気の中向かい合っていた。この2万という数はかつて無いほど大軍であった。
 この内バルクド帝国の戦力は15,000を超えるほどであり、対してフェイシル王国の戦力は例年通り5,000程度だった。数だけで言えば圧倒的にバルクド帝国が有利である。だがここに兵士の練達度も込みで考えるとほぼ同程度にまでなってしまう。
 更に軍師の有無までこれに加わるため結局はフェイシル王国が有利なのには未だ変わりはなかった。



 675年   春   湿地帯のフェイシル王国陣地にて

 「ジグ、亜人族への警戒は頼んだぞ。もし勝てないと思ったらこれを使え、すぐにとは言えないが駆け付けよう」
そう言ってローレンは丸い石のようなものをジグレイドに手渡した。
 「これは魔道具?魔力を流せばいいのか?」
 「そうだ、使い切りの魔道具だから今は流すなよ。これはまだ開発途中のものだからそう数はない。元とはいえ弟子の安否は気になるからな」

 なぜ元が付くのか…それは単にジグレイドがローレンに一撃いれることが出来たからであり、約束通りにローレンの弟子ではなくなっていた。
 だがここ数年はずっと一緒に訓練などしていたため師弟でなくなった今でも自然と一緒に訓練をしていた。

 「そうか、ありがとう。ローレンさんも気をつけてな。今回は剛鬼もいるんだろ?」
 「ああ、そうらしいな。今回も魔法師団に開幕から魔法を放ってほしかったのだが…剛鬼がいては無理だろうな」
 残念そうに言っているが、ジグレイドにはどこか楽しげにも見えた。
 「前々から思っていたんだが、なぜ剛鬼がいると魔法が使えないんだ?」

 それは当然の疑問だった。魔法はあれだけの被害を与えれるのだ。毎回開幕に魔法を放てばそれだけこちらの被害を減らせるはずなのである。
 「確かに魔法の効果は絶大だ。普通の相手ならば毎回魔法を放ってもいいだろう。だが相手はあの剛鬼だ。何年前だったか…剛鬼はな、前任の魔法師団団長が放った魔法を瞬時に察知し、どうやったかは知らないが効果が現れる前に魔法を斬り裂いたのだ。そして剛鬼はその魔法が危険だと判断し、すぐに発動者を殺しにかかった。遠く離れていたはずなのに剛鬼は一人で突進して逃げる前団長の首を跳ねたのだ。この出来事から剛鬼がいるときは魔法を放つことを止めている。魔法師というのは貴重だからな」
 「ローレンさんでも止めれないのか?」
 「無理だな。確かに毎回剛鬼を止めているのは私だ。皆には力が拮抗しているようにも見えるだろう。だがな、それはまやかしだ。剛鬼の方が私よりもずっと強い。私が剛鬼を止めれていれるのは周りの味方のおかげでもあるのだ。攻撃をしてはこないが武器を持った敵に囲まれている状況では私一人に集中できるはずもない。毎回剛鬼はその状況で私と互角に以上に戦っているのだ。剛鬼こそ本物の化け物だよ」
 やれやれと首を竦めてそう言うローレン。
 すると外からこちらへ走り寄ってくる音がした。

 「ローレン様、そろそろ会議を始めるため、至急指揮官テントへ出向くようにとのことです」
 兵士がそう言ってきたので、ローレンは返事をして立ち上がった。
 「やれやれ、オウルが総指揮官であれば良かったんだがな。ジグ少し出てくる。ここに居てもいいが、私の酒を飲み干したりしないでくれよ。ではまたな」


 今回の戦争が始まる前、オウルーゼルは急に体調を崩した。すぐに体調が良くなると思われたが、数ヶ月経とうと体調は良くならなかった。
 そして戦争の兆しが現れた時には体調はまだ回復しておらずやむなく違う総指揮官を国王陛下が任命したのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】魔王を殺された黒竜は勇者を許さない

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
ファンタジー
幼い竜は何もかも奪われた。勇者を名乗る人族に、ただ一人の肉親である父を殺される。慈しみ大切にしてくれた魔王も……すべてを奪われた黒竜は次の魔王となった。神の名づけにより力を得た彼は、魔族を従えて人間への復讐を始める。奪われた痛みを乗り越えるために。 だが、人族にも魔族を攻撃した理由があった。滅ぼされた村や町、殺された家族、奪われる数多の命。復讐は連鎖する。 互いの譲れない正義と復讐がぶつかり合う世界で、神は何を望み、幼竜に力と名を与えたのか。復讐を終えるとき、ガブリエルは何を思うだろうか。 ハッピーエンド 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/03/02……完結 2023/12/21……エブリスタ、トレンド#ファンタジー 1位 2023/12/20……アルファポリス、男性向けHOT 20位 2023/12/19……連載開始

東京ダンジョン物語

さきがけ
ファンタジー
10年前、世界中に突如として出現したダンジョン。 大学3年生の平山悠真は、幼馴染の綾瀬美琴と共に、新宿中央公園ダンジョンで探索者として活動していた。 ある日、ダンジョン10階層の隠し部屋で発見した七色に輝く特殊なスキルストーン。 絶体絶命の危機の中で発動したそれは、前代未聞のスキル『無限複製』だった。 あらゆる物を完全に複製できるこの力は、悠真たちの運命を大きく変えていく。 やがて妹の病を治すために孤独な戦いを続ける剣士・朝霧紗夜が仲間に加わり、3人は『無限複製』の真の可能性に気づき始める。 スキルを駆使して想像を超える強化を実現した彼らは、誰も到達できなかった未踏の階層へと挑んでいく。 無限の可能性を秘めた最強スキルを手に、若き探索者たちが紡ぐ現代ダンジョンファンタジー、ここに開幕!

チート魔力のせいで神レベルの連中に狙われましたが、守銭奴なので金稼ぎします

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
――自由を手に入れるために、なにがあっても金は稼ぎます―― 金さえあれば人生はどうにでもなる―― そう信じている守銭奴、鏡谷知里(28)。 交通事故で死んだはずの彼が目を覚ますと、そこは剣と魔法の異世界。 しかもなぜか、規格外のチート魔力を手に入れていた。 だがその力は、本来存在してはいけないものだった。 知里の魔力は、封印されていた伝説の冒険者の魔力と重なったことで生まれた世界のバランスを崩す力。 その異常な魔力に目を付けたのは、この世界を裏から支配する存在―― 「世界を束ねる管理者」 神にも等しい力を持つ彼らは、知里を危険視し始める。 巻き込まれたくない。 戦いたくもない。 知里が望むのはただ一つ。 金を稼いで楽して生きること。 しかし純粋すぎる仲間に振り回され、事件に巻き込まれ、気付けば世界の管理者と敵対する羽目に――。 守銭奴のチート魔力持ち冒険者 VS 世界を支配する管理者。 金のために生きる男が、望まぬまま世界の頂点と戦うことになる 巻き込まれ系異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

一国一城の主を目指す!〜渇望の日々を超えて。

リョウ
ファンタジー
 何者かになりたかった。  だが現世でその願いは叶わず、男は敗北感と悲嘆を胸に沈んでいた。  そんな彼の前に現れたのは、一柱の女神。  導かれるまま異世界へ転移した男は、新たにレイと名乗り、剣も魔法も身分もない底辺から成り上がることを決意する。  冒険者として生きる術を学び、魔法を覚え、剣を磨き、人と裏社会を見極めながら、レイは少しずつ力を蓄えていく。  目指すのは、ただ生き延びることではない。  一国一城の主となり、この世界で“何者か”になること。  渇望を燃料に、知恵と執念で上へ上へと這い上がる、ダークファンタジー成り上がり譚。

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

処理中です...