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108話
しおりを挟むジグレイドがバルクド帝国軍の中陣に辿り着いたのは昼頃になってからだった。
ジグレイドとしては中陣には寄らずそのまま前陣へと向かっても良かったのだが、気まぐれで寄ってみたのである。
中陣は先の逃げ帰りの情報が知れ渡ってしまった所為なのかパニック状態に陥っていた。
そんな中で門衛を律儀にする兵士は何処にもおらず、不用心だなと考えつつもジグレイドは門をくぐった。
中は逃げ出すつもりなのか荷物を纏めている兵士や農民、そして貴族などもいた。
どうせ全員毒で長くはないだろうが、万が一毒飯を食べていない人もいるかもしれないので領域を発動しつつジグレイドは門から門へと歩き続けた。
その結果、燦々たる状況へと早変わりした。
ジグレイドの領域に踏み入ってしまえば忽ち呼吸困難に陥り死にいたっていく、只でさえパニックを起こしていた中陣が更なる喧騒に包まれるのもそう時間はかからなかった。
テントの中に居ようが猛毒の領域には関係ない。
作戦会議を行っていた貴族たちも例外ではない。
突如胸を押さえて苦しみながら息絶えていく、そんな光景が中陣の内側の至る所で繰り広げられたのである。
数時間後、中陣にいた人の中で生きている者はジグレイドを除いて誰もいなかった。
ジグレイドはこれ幸いと高価そうな貴金属だけを背嚢に仕舞い死臭漂う中陣を出立したのだった。
前線では数日前と変わらず今も死闘が繰り広げられていた。
戦略も何も無い血と泥に塗れた削り合いである。
「なぁモルド」
「なんだ?今は潜んでるんだ、静かにしろ!」
「そりゃ分かってんだけどよ。もう味方さんも敵さんもごちゃ混ぜの戦いをしてるんだぜ?俺たちが正面から戦っても返り討ちにできるんじゃねーのか?」
「言いたい事は分かるが万が一という事もある。俺はこんな下らない戦でこれ以上お前らギルドの仲間を死なせたく無いんだ。誰も死なせない安全策でいく」
「そうだな」
会話はそれっきりで戦場の狼の面々は湿地帯にある藪に身を潜めていた。
極力味方に被害を出さずに敵を討てるように。
そして数日後、戦場の狼は未だ戦場の真っ只中にいた。
本来であれば補給を受けに戻っている筈だったのだが、知らぬ間に孤立していたのだ。
今隠れている藪の中から動けば周囲にいるバルクド帝国軍に囲まれて多少なりとも被害を受けてしまうだろう。
だからか戦場の狼の面々は息を潜めて藪の中で脱出のタイミングを見計らっているのである。
そしてその好機が訪れた。
突如、バルクド帝国軍の一角がバタバタと倒れ込んでいったのだ。
「お、おい。今なんじゃないのか?」
「ああ、だが攻撃らしきもんは何も見えなかったぞ?演技とかではないのか?」
「いや、流石にあれは演技じゃないだろ。周りも慌ててるぞ。──あ、他の部隊でも倒れ出した…」
「一体何が起きてるんだ…。とりあえずもう少し様子を見よう。まだ敵の数が多すぎる」
少しの間様子を見ていたが、次々と敵軍が倒れていくまるで毒でも盛られたかのように。
「まさか…毒?なのか?」
「いやいや、いつ盛られたんだよ?昨日から見てるが毒を盛れるような味方はいなかっただろ?」
「そんなの知るか!だがチャンスだな。リーリャ、方角は分かるか?」
「ええ、あっちがフェイシル王国軍の陣地よ」
「よし!なら壁を作って走り抜けるぞ。タイミングはリーリャに任せる」
そのタイミングは早々と訪れた。
倒れていく仲間を看病する為なのか引きずって後退し始めたのである。
人助けとしては有りだが軍事行動中の今だと正解だとは思えないが、戦場の狼からすれば逃げ出す好機としか思えなかった。
バルクド帝国軍が後退したのを確認してからリーリャは合図を送った。
そしてセイクリッドホールが発動されると同時に全員が走り出した。
もちろん隊列を組みつつ最速での退却だ。
バルクド帝国側からしてこのタイミングでの敵襲かと思われたが、魔法で壁を作り脱兎の如く走り去っていく敵兵に安堵した。
むしろ今の今まであの藪の中で好機を伺っていたのだとしたら恐怖しか覚えないことだった。
だが今は倒れた兵士を陣地へと運び治療する事が優先だと決め、行動しようとしたが残りの兵士も次々と倒れていき、立っている者は誰一人としていなかった。
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