『闇属性黒猫の異世界救出物語』〜魔物転生!?いや人間になりたい!

藤村ゆんた

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「神の世界交渉を弾いた。対する次元結界は問題無いのう。神の行動はどうなっておる」

この世の者と思ぬ、美しく澄んだ不思議な波長の声が響き空間が震える。

「行動を確認致します。……捕捉。………たった今、神による異界の干渉の動きが見られました」
 
輝く水晶のような物に手を当て、真っ白な羽を生やした美しき女性がその水晶の先を見つめる。

「異界の干渉…?まさか…異界ごと、この世界の干渉手段のために用よる気か…!詳細を伝えろ」

「了解。神は、…異界の干渉で、……これは…その異界の魂…?  この大規模な転移陣は…どうやら異界の魂の一つを引き抜いて、こちら側に召喚するおつもりです」

「馬鹿な…この世界に異界の魂を召喚だと!?有り得ぬ、異界の魂一つ如きこの世界ミウスが影響される筈がない。そもそも次元結界から弾かれる筈だ。……しかしだ、神は意味のない手段を取るとは思えぬ。恐らく異界でミウスに対抗し得る破壊分子を探し出したのか…愚かな。…妾達も破壊分子の対抗手段としてその魂に近い者を直ちに召喚する。異界干渉の準備をしろ、座標は思念で送れ」

「了解。座標を確認。召喚陣を作成」

銀の光が舞う羽を付け、天輪と呼ばれる輪が頭に浮かぶ者達が、一斉に慌ただしく動き始めた。

その内の水晶に手を翳す女性の近くに青白く眩い内部に幾分学が所謂描かれた召喚陣が現れる。
後は座標を思念で送り、異界に繋げるのを待つだけだ。

ピキッピキキキリッ

「…!?」

だがその時、手元の水晶に小さなヒビが入った。
水晶が悲鳴をあげるように甲高く歪な音を上げ、ヒビは次第に大きくなっていく。

「どうした…何が起きておる!?」

「っ何者かが干渉を妨げているようです…!」

「神の手先の者か…!」

女神のような神聖な空気を纏う美しき者は考える。このタイミングで干渉に邪魔が入るのは十中八九 あの忌々しい神で間違い無いだろう。だが、その神は今異界の魂を召喚するのに手一杯の筈だ。こちらへは神々の干渉は出来ない、ならば神が使役する者達だろう。

「相手は神でない。妾が迎え撃とう」

こちらへ妨害出来るのなら割と高等な者だろう、だとすれば神の手札に違いない。潰すのに絶好の機会だとかの者は内心ほくそ笑んだ。

「いえ、これは神の手先では御座いません。神もこちらと同じように妨害されているようです!」

「何!?」

予想が大きく外れ、しかも同時に神とこちらへ直接妨害を行う只者じゃない存在が絡んでいることが分かり、事態は深刻さを増した。
そしてその存在は大体検討が付いていた。恐らくだ、恐らくだが…その存在は。

「亜神か…今になって出てきおうたか」

その言葉を聞いた瞬間、周りの者達が一斉に硬直した。

早過ぎる、と誰かが口にした。亜神は日に日に急速なスピードで強さを増していく。だが、まさか既に神に直接干渉できる程まで力を持っていたとは、誰も想像だにしていなかった。

亜神はこの世界から生み出された憎悪、悲しみ、憤怒などのありとあらゆる負の感情の塊だ。つまり悪意その物が魔力になっているようなモノだ。
性格は残虐、そして極めて勝手で気まぐれ、何をしでかすか予測出来ない、いつ気まぐれで力を暴発させるか分からない危険な存在だ。

最悪なケースがついに起きてしまった事に、誰もが青褪める。こうなれば、この世界は亜神の闇の力で支配され、次元結界を破壊して神域や異界の地まで支配するまで時間の問題だろう。
今まで何度も消し去ろうとしたが、増えた力の少しを削ぎ落とすだけしか叶わなかった。

「下手に手を出すとこちらまで闇に支配される。妾が亜神を抑えている、その間に召喚陣を完成させよ!」

亜神の闇の力を払う神聖魔術を展開し、この世界が闇に飲まれる事だけは阻止する。神聖魔術がこの星全体に付与され、亜神の力は抑えられた筈だが…それもこれも時間の問題だ。

何故愛しいこの世界に亜神という破壊神を抱え込まなければならないのか。いっそのこと次元結界の外へ放り出してしまいたいのは山々だった。
だが、この爆弾を閉じ込める事が出来るのはこの世界だけだった。野に離してしまえば何者にも捉える事が出来ず、いずれこの世界を崩壊させに帰ってくるだろう。

美の結晶の集大成のような造形をしたこの世界の管理者、人々には神と呼ばれ、または天使を統率する大天使の名を持つその者は頭を抱えながら、神聖魔術を放ち続ける。

その時、ヒビが入っていた水晶が急に眩く光り、明滅する。この場にいる誰もが水晶に注目し、瞬時に警戒態勢を構えた時、

『やっほーー兄弟達元気ーー??なーんかみんな揃って面白そーなことしてんよね、俺も混ぜて混ぜてっ』

そこに場違いな程、水晶から陽気な若い男の声が室内に響き渡った。その声を聞き、この世界の管理者の肩書きを持つ彼の者に緊張が走る。

「何をしに来た。まさかあの神にまでお主が手を出すとはのう…今度は何が目的か」

『あっ姉さん久し振り~!久々に声聞いたなぁ、元気そうで何より~…あ、何をしに来たって?俺抜きに姉さんと爺ちゃんが面白そうなことしてっから、俺もその面白さをお裾分けさせて貰おーかなーって。あちゃ、もしかして邪魔しちゃった~?』

「貴様……その減らず口をいつか消してやろう。覚悟しておけ」

能天気な程明るい声に、親しげに姉さんと呼ばれたかの者はその美しい顔に一瞬青筋を浮かべる。だが、すぐに平常に戻った後、口元を歪めて目を細め挑発的に言い返す。その表情はゾッとするほど恐ろしくも美しかった。

「……しかし残念でおうたな、お前が出来たのは精々神と妾達の妨害くらいだ。しかも妾にのうのうと力を見せおうたからに、今お前は妾の神聖魔術で力が抑えられてしもうた。それならお前の目的なども叶わぬな。まぁそのまま大人しくしていろ、近々綺麗に消し去ってやるからの」

『はははっ相変わらず姉さんのドスが効いた声は怖いねぇ!ああ、目的?全然大丈夫!!俺の目的は常に面白さを求めてるだけだしね。だからさ、目的なら充分果たせたよ?姉さん達がやってた事を俺なりに更に面白くする事が出来たし、オマケで姉さんと話が出来たから超満足ー!!』

かの者の挑発や脅しを華麗に受け流し、亜神は心底楽しそうに話す。周りの者もその陽気な喋り方に警戒が緩みそうになるが、亜神の「更に面白くする事が出来た」という言葉に再び緊張が走る。
亜神の面白い事なんて、大抵の碌でもない事に決まっているからだ。

「おい、貴様ァァ更に面白くとはどういう事だ!?一体何をしたっ!!」

平静を保ったふりをしていた彼の者も、アッサリと限界を迎えてブチ切れた。

『あぁ、そんな姉さんが困ような事はしてないと思うよー…多分。それに爺ちゃんにも似たような事したしね。異世界の召喚陣とか面白いし、爺ちゃんと姉さんがわざわざ選んだ世界の魂なんて、絶対なんか面白い事に決まってんじゃん!!だからさ、俺がちょーっと関わりやすくしたってのと、あとは諸々?……あ、ヤバ、やっぱ爺ちゃん反撃して来たわ、じゃっ姉さんこれで!』

「おい待てっ!!諸々って何だ!?答えによっては只じゃーーー」

『本当姉さんの次元結界と神聖魔術って助かる、ここに引き篭もっていれば爺ちゃんさえ手出しできないし、俺の力も安定するし、超安全だもん。ほんっと姉さんは俺が大好きだよねーーー(笑)』

「はぁぁぁぁぁ!?」

神の交渉を妨げ、亜神を閉じ込める為の次元結界と、亜神を消す為だけを念頭に練り上げた神聖魔術がまさか亜神の役に立っていたなんて思ってもいない事だった。それが例え亜神の方便だとしても、屈辱的だし、怒りでどうにかなりそうだったのに追い打ちを喰らって頭が真っ白になる。

「お、おまっ…ざけっ、ばっ…この」

怒髪天を貫き大天使と思えぬ罵詈雑言が次々と頭の中に駆け巡り、上手く言葉を発す事が出来ない。

『今度は直接姉さん達に会いに行くから待っててねーーじゃーねー』

「あっおいっっ!?」

眩く明滅していた水晶から光が失われ、パリンッと水晶が粉々に砕け散った事で、亜神が一方的に会話を終わらせた事を告げられた。

周りの者は俯く彼の者を心配そうに見つめる。

「あの、…」

「………気にするでない。引き続き召喚陣を作動し続けろ。妾は奴が次に直接相対する時、跡形も残らず消滅させる為の確実な方法を練る為に暫く用する」

表情の抜けた顔でそう言い残し、その場から去っていく。冷静で威厳ある彼の者があそこまで激情する様子に、周りの者は亜神がそれだけ脅威であることを思い知らされるのであった。


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