『闇属性黒猫の異世界救出物語』〜魔物転生!?いや人間になりたい!

藤村ゆんた

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第一章 

とある勇者達一行①

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『黒竜の目撃情報』

その日、グランアルータ王国と大河エオランテの狭間にある精霊王の森に大型種の黒竜が現れたという情報がグランアルータ王国及び各国に広まり、人々は真偽に悩まされた。

ドラゴンは大河エオランテの向こう岸に生息しており、偶にドラゴンが大河エオランテを渡って人族領に侵入する事がある。その対策のため、侵入してきたドラゴンは発見次第近隣ギルドや国に討伐要請を申し立て、如何なる種であろうと速やかに討伐しなければならないとなっている。
(因みに、人族領にもドラゴンが居るが、それらは小型種などの弱い種であったり騎竜として人間に飼われたりテイムされたドラゴンである)

しかし、今回の黒竜の件は一応討伐要請がギルドのクエストとして貼り出されたものの、本格的な討伐隊が組まれる事は無かった。黒竜の情報が余りに非現実的であったため、上層部が真偽を疑った為である。

目撃者の情報によると、黒竜は精霊王の加護に守られている筈の森に突然現れ、そのまま飛び去って消えたと言う。
この情報による非現実的な箇所とは、ドラゴンが『黒い』と言う事である。
黒や紫、濁った暗い体色の生き物は大抵魔物である場合が殆どであり、体色を変色する魔法や新種でも無い限り、ドラゴンも例外ではないとされる。特に『黒』は闇を連想し、闇属性(魔物の特色)を色濃く反映した体色である。そのため、今回現れた黒竜というのは、魔大陸に住む闇属性の闇竜や影竜などの魔竜種、またはドラゴンの亜種である(竜には含まれない)ワイバーンや黒蜥蜴などの魔物と考えられた。

大河の向こうの陸地には魔物の強さが総じて高く、また陸地を超えた海の向こうには魔族や魔王が居る魔大陸が存在する。大河エオランテは、神が遥か昔に『闇の者が永遠に辿り着く事の出来ない』ように作られた次元結界があり、邪神や魔神などの神々さえ行く手を阻むとものされ、これまで幾度となく人類はそれらの脅威から守られてきた。

黒竜の情報が事実だとすると、大河エオランテの絶対的な守りが突破され、竜種の魔物が大河エオランテを渡って来た事になり、アーフィタリア大陸の全生物の危機、人々は混乱に陥るだろう。

結局、各国の上層部達は「有り得ない」「見間違いに違いない」と言う結論で終わったが、目撃者の詳細な話を聞いて妙な危機感を抱く者も一部居た。

***

「ついこの間ドラゴンって全部コンプリーしたんじゃなかったっけ?大型種の見落としがあったのかな…」

ギルドに張り出されたあるクエスト内容をじっと見る少年、いや、少年のような幼さの残る顔の青年。彼が記憶を探るように首を傾げると、輝かしいブロンドの前髪がサラリと溢れ、晴天の空のような色の瞳が現れる。
格好は普通の冒険者風に見えるが、実は彼の装備するアイテムは殆どが勇者にしか扱えない伝説級の物ばかりである。

彼の名前はルアド、この世界で正真正銘の勇者の資格を持つ者である。

「見落としなんて私達がする筈がないじゃない」

魔法杖を持ち、艶やかな光沢の純白なローブを羽織り、フードで顔を隠した白いローブの少女は、クエストの張り紙を指差し淡々といった口調で言う。彼女の名前はリリナ・ロネル・テュシコール。ローブの後ろには聖教会の紋章、アイピスが蒼銀の刺繍で美しく描かれている。

「それ、噂じゃデマって言われてるわよ。
エオランテの向こう側のドラゴンを数えたらキリが無いけど、こっち側にやってきたドラゴンは全部把握出来てるって竜王にもお墨付き貰ったじゃない。
それ以外に正真正銘のドラゴンが現れたと言うのならエオランテを渡って来た竜に違い無いけど…現れたって言われてたの真っ黒い竜でしょ?魔竜がエオランテを渡れる筈ないじゃない」

はぐれワイバーンを見かけたか何かよ、とリリナは溜息をつきながら言う。

「もしかしたらーデモじゃないかもよぅ?元々こっち側にいた小ちゃい赤ちゃんの黒竜がー、成長して大っきくなって今回見つかったんじゃないのぅ?」

と兎耳の少女が耳をぴょこぴょこ動かしながら意見すれば、

「竜種の魔物だって卵だろうが幼体だろうが竜王の数える竜の数に一応入ってる筈だろーよ」と、強面の男が荒々しい口調で反論する。

「ドラゴンはこの前 全頭確認した訳だし、こんな短期間で生まれて大型にまで成長する筈もねぇし。
そもそも精霊王の加護にも入れたっつー事は魔物じゃなくね?リリナが言ったワイバーンか、只のでっかい蜥蜴を竜だと思って色を見間違えたかだな」 

「えーワイバーンはつまんなぁい。でもでも~、でっかい蜥蜴なら新種かなぁ?」

と兎耳の幼女は楽しそうに笑う。彼女の名前はマノン、兎人族の少女である。見た目は10歳前後の幼い少女に見えるが、こう見えて獣人族の中でも名の知れた歴戦の強者であり、自分より大きな重厚感のある斧を振り回す斧使いである。
赤髪強面の男はヴィグル、メンバーの中で如何にも強そうな戦闘職系の見た目をしているが、本業は情報屋であり、様々な組織と繋がりがあるらしい。ちなみに戦闘では弓使いだ。
それから暫く様々な憶測で論争し合う中、ルアドが申し訳なさそうに口を開く。

「いや、あのさ…竜王からさっき連絡入ったんだけど、やっぱり認知していない種族不明のドラゴンが一頭エオランテから侵入してるって」

彼の言葉に、三人が目を見開いて驚く。
全ての竜を認知し統括する竜王の言葉に竜に関しての間違いはない。しかし、竜王がドラゴンに対して正体(竜種の特定)を暴けないのは今回初めての事だった。

「取り敢えず、ドラゴンが人族領に侵入してるのは間違いない。このクエストの黒竜がそのドラゴンかは分からないけど、一旦 目撃者のこの子に話を聞いてこの黒竜を追おう」

勇者であり、リーダーであるルアドの言葉に一も二もなく3人は頼もしく頷く。

「分かったわ。はぁ、またドラゴン探しね…どっかで騒ぎを起こしてくれれば見つけ安くて良いけど」

「うわコイツ…仮にも聖女だろ…」

「手っ取り早く捕まえるのも人々の為でしょ。それに、聖女に向かって『コイツ』なんてよく言えるわね。処刑するわよ」

「お前のどこが聖女なんだよ。魔女の間違いだろが」

「高貴な女性に対する口の利き方も分からないなんて、寂しい脳みそね」

「あ?俺らの職種に高貴もクソも関係ねぇだろ」

いつも通りの2人の喧嘩に、兎耳の少女マノンは「二人ともやめよーよー」とオロオロする。
一見、静かに言い争っているようで、2人の背後には炎のように燃え上がる濃密な魔力が揺らいでおり、ギルド内の冒険者達は息も詰まる思いで2人の様子を眺めた。

「2人とも落ち着いて。じゃあ今から早速、精霊王の森に向かうよ。ここからちょっと遠い所だから、リリナに魔法使って貰って良い?」

「構わないわ」
「はーいルア兄!」
「おう、リーダー」

爽やかな笑みを浮かべながらルアドが言うと、流石プロの勇者パーティか、先程までの険悪なムードが一瞬にして切り替わった。その替わり様から、先程までの殺し合い一歩手前ようだった険悪なムードは一体なんだったのか、とギルドの冒険者達は冷や汗を流しながら脱力した。

彼らはリリナの魔法によって精霊王の森の集落に転移した。


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