41 / 116
ドライヴランド編
40話 恋の始まり
しおりを挟む<バーズ>のお店が新しかった理由は、しょっちゅうケンカしては壊すからだった。
そのたびに皆で建て直すみたいで、私たち四人が着いた時にはすでに人が集まっていた。
青空の下、
カラフルなフラッグを飾りつけたテントがあって、そこに奥様方が料理皿を持ち寄っている。
男性陣は頭にタオルを巻いていたりして、作業に取り掛かっている。
木材を叩く音がしだして、お祭りの準備みたいな活気がしてくる。
私はウェンディ大佐のいらないTシャツをもらい、そこに羽の穴を開けて着ていた。下はゼイツ准将の少年時代のジーンズをはいている。膝がぼろけている。
頭には野球チームのキャップをかぶせてもらって、うん、何ができるかわからないけど頑張りたい。
皆さんもそういう恰好なのだけど、黄色いボブヘアの女の子がミニスカートに網タイツというスタイルで現れた。
彼女はすぐにこっちへ来て、ゼイツ准将の肩に手を滑らせた。
「ゼイツ戻ってたんだにゃん! 久しぶりにゃん!」
「おう」
「なんか痩せたにゃん? 任務きついにゃん?」
「そうか?」
「ねね、これ見てにゃ?」
これ見て? と言われて、私も顔をあげてしまった。彼女と目が合った瞬間眉をひそめられ、パッと見なかったことにされた。
輪に入れなそうなので、私はフェードアウトしてアイハーツ様のそばへ行った。
そこには野球帽をかぶったおじさんがいた。フェアリースマイルで挨拶するとあっさり無視されて恥ずかしくなった。同じチームの帽子かぶってるからよけいに。
「ア、アイハーツ様、何かできることありますか?」
「(こういう)作業したことある?」
彼のしわがれ声に、私は耳を近づけた。
「学校のお祭りでならやったことあります……」
「(うん。これを渡してきてもらえる?)」
と、トンカチを渡される。アイハーツ様が指さした方をふりむくと、
ぱちんっ☆
と弾かれるような衝撃を感じた。ゼイツ准将がこっちを見ていて私は面食らった。
「フフッ(よろしくね)」
「はい。わかりました」
道具を渡しに行くだけの、幼児でもできるおつかい。
わざと仕事を作ってくれた感じだった。……のだけれど、実は今の私にはこれさえ難しいってことに気づく。
だって准将の回りには、さっきの女子に加えて、ギブソンまで張りついてるんだもの。
行きたくなさすぎる……。
どこか行ってくれないかなって遠巻きに見てたら、准将と目が合ってそらされた。そらされたと思ったらすぐまた目が合った。私は目をそらした。
「ジョン! このファンシーな木材は何に使うんだ?」
「オシャレなバルコニーつけるんだと」
周りの人が作業しているのに、私ってばトンカチ持ってるだけで居場所がない。
そんな時、ポニーテールを弾ませてウェンディ大佐が横切っていったので、私は駆け寄った。
「ウェンディ大佐っ」
「どした? フェルルン」
「アイハーツ様がこれをゼイツ准将に渡してくれって」
「うん渡してやって? 喜ぶよ」
「ただ、ギブソンがいて……」
「あーなるほどね。おっけ、貸して」
「おいゼイツ!」
とウェンディ大佐が呼んだ。
顔をあげたゼイツ准将が私を探してパチン☆と目が合った。
その直後、
ブーメランのように飛んでいったトンカチの木柄が、ゼイツ准将の顔に直撃するという信じられない光景を目にした。
「ブヘェッ!」
私は震えあがった。
目をつむったゼイツ准将が頭をふって、牙をむいた。
「…………てっめウェンディ! 顔にトンカチ投げてくんなあぶねーだろ!」
「わるいわるい! よそ見してるからさぁ!」
……な、なんて姉弟なの!? まさか投げるなんて思わなかったよ!
私は准将の元へ駆けつけた。
「大丈夫ですかっ?」
「ああ……なんてことねえ」
「鼻血出てるにゃんゼイツ!!」
女の子が金切声をあげて、私はギクッと怖くなった。
こんなことになるなら、自分で渡しにくれば良かった……
「ゼイツ准将、ごめんなさい」
「邪魔にゃん!」
「あ、ごめんなさ……」
後ずさりした私は、誰かの足を踏んでしまった。ギブソンだった。
「よう、〝フェアリー〟」
と、笑顔なく挨拶され、私は口の中でもごついた。「お、おは、おはよう……」
「この子何でここにいるにゃ!」
と、女の子が、苛立ったようにふりむいた。
「イークアルの国王を誑かそうとするから、ゼイツが監視してるんだと」
ギブソンがそう答えると、准将が二人をかき分けるようにこっちへ来た。
「任務の事に口だしてくんな。お前らここ代われ。俺はあっちでバルコニー作ってくる」
「なんでだよ、やなこった」
「手伝う気ねーんなら帰れ。フェルリナ行くぞ」
ゼイツ准将に促されて、私はショック状態でついていった。女の子といい、ギブソンといい野球帽の人といい、初めて会うのにすごく嫌われている……。
「フェルリナ。今ギブソンが言った話信じるか?」
「……私がエリアス様をたぶらかそうとして、ゼイツ准将が監視してるって話ですか?」
「ああ」
「……わかりません。そうなんですか?」
「どう思う」
なんでこんな事聞くんだろう。
私はエリアス様を誑かそうとなんてしてないし、
ゼイツ准将もむしろエリアス様から私を守ってくれていると思っていた。
私は長く返事に詰まった。
「それが分かるようになったら俺の精鋭部隊に入れてやるよ。おい! ウェンディ!」
精鋭部隊に……私は入った方がいいんだろうか。
なんだかまたハードルを上げるようなことを言われて、置いてけぼりにされた気分だった。
実際には、それからゼイツ准将は一緒にいてくれた。
ウェンディ大佐と二人、打ち合わせもしてないのに息ぴったりで木材を運び出す。
トンカチをぶつけたくらいじゃ揺るがない信頼関係があるみたい。
「フェルルンは白ペンキ塗る係ね」
「はい!」
私たち三人は、ログハウスの側面にバルコニーを組み立て始めた。恋人や夫婦が記念日などに訪れる二人席を、アイハーツ様が作りたいんだそうだ。
「思いっきりロマンチックなスペースにしない? アイハーツさんそういうの好きそう」
「夫婦げんかでもして、壊されなきゃいーけどなぁ」
トンカチで肩たたきしながらゼイツ准将が、ニヤリと笑う。
私はせっせとペンキを塗った。二人と違って、私はもうこのお店に来ることはないだろうけど、だからこそ、素敵な席を作りたかった。
0
あなたにおすすめの小説
【R18】仲のいいバイト仲間だと思ってたら、いきなり襲われちゃいました!
奏音 美都
恋愛
ファミレスのバイト仲間の豪。
ノリがよくて、いい友達だと思ってたんだけど……いきなり、襲われちゃった。
ダメだって思うのに、なんで拒否れないのー!!
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
幼馴染みのメッセージに打ち間違い返信したらとんでもないことに
家紋武範
恋愛
となりに住む、幼馴染みの夕夏のことが好きだが、その思いを伝えられずにいた。
ある日、夕夏のメッセージに返信しようとしたら、間違ってとんでもない言葉を送ってしまったのだった。
数年振りに再会した幼馴染のお兄ちゃんが、お兄ちゃんじゃなくなった日
プリオネ
恋愛
田舎町から上京したこの春、5歳年上の近所の幼馴染「さわ兄」と再会した新社会人の伊織。同じく昔一緒に遊んだ友達の家に遊びに行くため東京から千葉へ2人で移動する事になるが、その道中で今まで意識した事の無かったさわ兄の言動に初めて違和感を覚える。そしてその夜、ハプニングが起きて………。
春にぴったりの、さらっと読める短編ラブストーリー。※Rシーンは無いに等しいです※スマホがまだない時代設定です。
【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……
久しぶりに帰省したら私のことが大好きな従妹と姫はじめしちゃった件
楠富 つかさ
恋愛
久しぶりに帰省したら私のことが大好きな従妹と姫はじめしちゃうし、なんなら恋人にもなるし、果てには彼女のために職場まで変える。まぁ、愛の力って偉大だよね。
※この物語はフィクションであり実在の地名は登場しますが、人物・団体とは関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる