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ペーター編
87話 優しいペーターを信じるな
しおりを挟む「ペーター、手熱くないの?」
私が聞くと、彼はマッチを握ったこぶしを隠した。
「敵の心配かい? ハイジャック犯さん」
「敵だなんて……」
そりゃあハイジャックしようとしたし、これから惚れポーションを飲ませようともしてるけど。
『馬鹿だねフェルは』
ペーターの悲しそうな眼差しに心を奪われて、演技なんて忘れてしまった。
「あなただって、私がやけどしそうだったから助けてくれたんでしょ……?」
「ボクは大切な宝物を燃やされたくなかっただけ」
じっと見つめてくる視線を受け止め、耐えられなくなって目を伏せた。うつむいたところで「はい」と手を差し伸べられ、私はその骨ばった冷たい手につかまって、ローションを撒いた床を飛び越えた。
なぜか手をつないだまま操縦室へ戻ってくると彼は冷えたペプーラを二瓶とりだし、丁寧にストローを差し込んだ方を私にくれた。
「好きな所に座って。もう拘束したりしない」
彼自身は直接口をつけて飲み、壁付き手すりに寄り添った。
「実は、もう目的地上空にいるんだ」
「目的地って、ここどこなの?」
「自然保護区のイークアル国立公園だね」
メイン大陸自然保護区は、チッチャイーナ小国、イークアル公国、ドライヴランドなど、隣り合う国々によって保全されている世界一の安息生物圏である。
「国立公園に何かあるの?」
「何もないんじゃない?」
「何もないのにどうして行くの?」
「フェルが行ってみたいって言ってたから」
ついこの間交わした会話のように言われて私はぽかんとした。
「イークアルアカギツネが可愛くて好きなんでしょ? ブサイクなドライヴスナギツネも偵察に来るかもよ。動物たちに国境なんてないからね」
たしかに好きだし、行きたがった気がするけど、そんな会話したの十年も前のはずだ。
ペーターは私が喜ぶと思ったのだろうか、期待した顔でこちらの表情を見守っていたが、しだいに下を向いた。
「気味悪いかい? ……九年十一か月二週間も前の会話覚えてて」
「ん、う、ん、ううん」
「当時、連れて行こうと思ってインセクトの免許とったら、急に許嫁解消されて連れて行けなくなったから印象に残ってるだけさ」
そっけなく言うとペーターは寄りかかっていた手すりから体を起こした。
「キミの好きなおかしがあった気がする。探してくる」
「あ、……」
止める間もなく、彼は翅をひるがえして出て行ってしまった。
「私の好きなおかしって……どれよ……。昔すぎて自分でも覚えてないのに……」
この飛行機だって、どこかいじわるな場所に連れて行かれると思ってたのに、ずっと私の為に飛んでたっていうの?
やっぱりペーターは私のことを……?
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