太陽の騎士

国光

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第1話「英雄の憂鬱」

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 ロミネンス王国において、エリオ・グラントの名は救国の英雄として知れ渡っている。
 敵国サテラの大侵攻を食い止めた太陽の騎士。
 その名は国内に留まらず国外にまで響き渡っている。
 繰り返すが、エリオ・グラントは英雄である。
 多少の我儘も彼なら許される。
 例えば、戦勝祝賀会を欠席したとしても、きっと許されるだろう。
「許されません」
「うわぁ」
 後ろから聞こえた声に驚き窓から落ちそうになったが、なんとか堪えて後ろを振り返った。
「ネリー」
 振りかえった先にはメイドのネリーが立っていた。
 無表情だが怒っているような雰囲気を感じる。
「エリオ様。いくら英雄でも戦勝祝賀会の欠席は許されませんよ」
「どうしてそれを?」
 何故心の中の声が読まれたのだろうか。
「口に出ていました」
 口に出ていたのか。少し反省。
「窓からどこへ行く気ですか?」
「ちょっと散歩に」
 そう。散歩だ。
 数時間程どこかでブラブラしていようと思う。
「もうすぐ祝賀会が始まりますよ」
「終わった頃に帰ってくるよ」
「駄目です。祝賀会の主役がいなくてどうするのですか」
「でも、俺ああいうのが苦手で」
「いいから早く仕度をしてください」
 窓から出ようとする体勢からネリーに腕を引っ張られて部屋に戻されてしまった。
「痛てて」
 尻を打ってしまった。結構痛い。
「……エリオ様」
 俺の服装を見てネリーは困惑する。
「どうして用意しておいた礼服を着ないのですか?」
「ああいう服は苦手で」
 軍服や鎧姿は大丈夫だがああいった服は俺に合わない気がする。
「わかりました。では着替えの出来ないエリオ様のために私が着替えさせてあげましょう」
 ネリーはにっこりと笑って告げた。
 本能的な何かが告げる。あの笑顔は危険だと。
「ご、ごめん。ネリー。すぐ着替えるから」
「もう遅いです」
「うわっ。ネリー。待って。……誰か……誰か助けてくれ」
 英雄の悲鳴が部屋中に響いたが、悲しい事に誰も助けに来てはくれなかった
 身ぐるみをはがされた俺は観念して無抵抗にネリーに着替えさせられた。
「これでバッチリです」
 ネリーは満足そうな笑みを浮かべて俺から離れた。
 十七にもなって着替えを人に、それも自分と同年代の少女にされてしまった。
 男として失ってはいけない何かを失ってしまった気がする。
「俺は汚されてしまった。もうお婿に行けない」
「婿になんか行かなくたって国中からお嫁さんが集まりますよ」
「怖い事を言うな!」
 英雄の名のせいで貴族連中から結婚話が絶えない。
 ここ数カ月はそのせいで見合いノイローゼになりそうだった。
 最近はそう言った話からは適当に逃げているのだが、祝賀会では貴族連中に囲まれて逃げ場がなくなる。それも式典に出たくない一因でもある。
 ふと鏡を見ると、礼服を着た自分の姿があった。全く似合っていない。まるで背伸びした子供だ。襟元がきついので少し緩める。
「エリオ様。着替えて五分も経っていないのにどうして着崩しているんですか?」
 俺の些細な行動を見てネリーが突進してきた。
「すぐに直しますよ」
 ささやかな抵抗として礼服を着崩してみたが本当に無駄な抵抗だった。きっとこの先もすぐに直されるだろう。
「ほら。じっとしてください」
 そう言ってネリーは俺の服装を正す。
 ネリーには昔から子供扱いされる。
 暦では一歳違うが、生まれた日は一ヶ月しか違わない。それにも関わらずネリーはお姉さんぶる。
「はい。できましたよ。崩さないでくださいね」
「ああ。行ってくる」
 こうして、俺は渋々式典会場へ向かった。
 会場全体が煌びやかな光に包まれていた。
 税の無駄遣いじゃないかとも思うが、国中上げてのお祝いムードの中だからまあ許されるだろう。
 こういったパーティは嫌いじゃない。
 騒がしいのも嫌いではない。
 ただし、俺の周りは少々騒ぎすぎる。
「グラント卿。此度の戦も大活躍されたそうですな」
「此度も千人斬りを達成されたとか」
「いやいや、私は一万と聞いています」
 どうしよう。話が大げさに伝わっている。
 敵軍の千人隊に単身で突撃したのは事実だが千人全員を斬ったわけではない。
 敵将を仕留めたら残りの敵兵は勝手に逃げていったのだ。
「グラント将軍。娘が貴殿の千人斬りの話をぜひ聞かせていただきたいと申しております。一度わが屋敷に」
「私の娘は戦の最中教会にてグラント卿のご無事を祈っておりました。是非とも姿をお見せになって娘を安心させていただきたい」
「この場に不似合いながら娘も会場に訪れております。後で一目ご覧になってください」
 貴族連中から娘を紹介されて是非嫁にと勧められる。
 救国の英雄の名前は力がありすぎる。
 ネリーの言う通りだ。その気になれば国中から嫁が来ることになるだろう。
 十七歳の若さで、軍の将軍になり、戦果から男爵に叙任された。
 貴族の後ろ盾のない平民上がりの成り上がり下級貴族。貴族連中からすれば自らが抱え込みたいのだろう。
 俺は貴族達の攻めをかわしながら憂鬱な時間の終わりの時を待つのだった。
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