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第2話「英雄の休息」
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俺の両親はそろって腕の良い庭師だった。
どれくらい腕が良いかと言うと、王宮の庭師をするくらいの良い腕である。
変わり者の両親には互いに子供を預ける友人もいなく、赤子の俺も一緒に王宮に連れて来ていた。
連れてくるだけでほったらかしにされていた俺は、王宮勤めの侍女の人達に育てられたそうだ。
ひどい両親だったが今では感謝している。
四歳の時。
一人の少女と出会った。
王宮勤めの侍女の娘。
「わたしはネリー」
「ぼくはエリオ」
他に同世代の子はいないせいか、ネリーとはいつも一緒にいた。
俺はネリーと一緒に呼んだ絵本の中の騎士に憧れた。
「ぼくがきしになったら、ネリーはぼくとけっこんしてくれる」
「うん」
そんな些細なやりとりから俺は騎士になりたいと思った。
幸いなことにこの国では平民でも戦果を上げれば騎士になれる。
城の片隅で木の剣を振るっていた俺を見た衛兵たちが面白がって剣を教えてくれた。
そのうち近衛隊長に鍛えてもらえるようになった。
ネリーにいいところを見せたくて剣を磨いて、気付いたら衛兵の人より強くなっていて、気付いたら近衛隊長にも勝って、あれよあれよという間に気付いたら戦場に連れていかれていた。十三歳の時だ。
ロミネンス王国は隣国サテラ皇国と百年に渡り戦争を繰り広げている。
その年はサテラ軍の攻撃がひどかった。後に大侵攻と呼ばれるほどの規模だった。
成長の早かった俺も前線へと連れていかれた。
王都を離れる前日にネリーにその事を告げた。
「戦場に行くのですね」
ネリーは泣きそうな悲しげな表情だった。
「うん」
「どうしてエリオ様が行かないといけないのですか?」
「ロミネンス王国の男たるもの国家のために剣を振るえって言うだろう」
戦果を上げて騎士になりたいだけなのだがそれは黙っていた。
「そうですか」
ネリーに抱きつかれた。
「すぐ帰ってきてください。私はそれまでエリオ様の無事をお祈りしています」
「わかった。すぐに帰ってくるよ」
俺もネリーを抱き返した。ずっとそうしていたかったがやがてネリーを放した。
戦場に行ってから実際に帰ってくるまでは一年近くかかった。
戦場で危機に陥った時に不思議な力を得た。
後に太陽姫に与えられた力だと知った。
人間離れした強大な力を手に入れた俺はその力で敵兵を蹴散らして敵将を討ちとった。
その戦果が評価されて若くして念願の騎士の称号を得た。
騎士の称号に留まらず準男爵の爵位も与えられた。
その後も戦果を重ね、戦が終わる頃には将軍になっていた。爵位は男爵に上がっていた。
戦場から戻ると俺はすぐにネリーに会いに行った。
一年ぶりに会うその姿はまた綺麗になっていた。
「エリオ様」
ネリーに抱きつかれた。
「ただいま。ネリー」
「お帰りなさい。随分活躍されたそうですね」
「うん。君が祈ってくれたおかげだよ」
その後、騎士になった俺は王宮の近衛隊の一員となった。
男爵と言うことで領地を与えられたが、代官を雇い領地経営を任せて俺は王都に小さいながら屋敷を持つことになった。
とは言っても俺も両親もそこに住まずに今でも王宮近くに用意された宿泊所に住み込みなので実際はほぼ無人のままだ。
貴族達や先輩騎士から娘を紹介されたりするのは正直参った。
しかし、悪いことだけではない。
「本日よりエリオ様付きの侍女になりました。ネリーと申します」
騎士には身の回りの世話をする侍女が一人付くと知ったのはその時だった。
「よろしく。ネリー」
「よろしくお願いします。エリオ様」
ネリーとより一緒にいられるようになり嬉しかった。
後に太陽王国の英雄と呼ばれる俺だが、戦う目的は国のためでなく一人の女を手に入れたいだけだ。
お伽話とされていた太陽の加護を受けて英雄になった。
太陽宮殿。
そこには太陽神アリオンに仕えるべき巫女姫が住んでいる。
太陽の巫女エステリア姫は、あの宮殿から日々太陽神のために祈りを続けているそうだ。
太陽の騎士とは巫女姫と波長のあう者が選ばれると言う。
どういうわけか俺との波長があったようで俺が選ばれた。
彼女には感謝している。
俺に力をくれたことに。
「ネリー?」
「はい。おはようございます。エリオ様」
目を覚ましたらネリーに膝枕をされていた。そうだ。城の外の野原で昼寝したんだった。
「エリオ様。どうしたのですか。こんなところで眠っていて」
「ちょっと考え事を」
「そうでしたか」
ネリーは口を開かずに俺の頭を撫でる。
子供扱いされている感じもするが気持ちいい。
「ここから良く見えるな」
「何がですか?」
「太陽宮殿だよ」
俺の視線の先には王宮を超える高さの宮殿だった。宮殿と言うよりは塔と呼んだ方が良いかもしれない。
「エステリア様は酷い人です」
「ネリー?」
「私は、エステリア様のしたことが許せません。エリオ様に太陽の力を与えて、その結果エリオ様は人間兵器のような扱いじゃないですか」
「落ち着け」
こんなに怒るネリーは初めて見た。
「俺はエステリア様には感謝している」
「でも」
確かに太陽の騎士になったせいでいろいろな問題がある。
「こうしてネリーに甘えられるのもエステリア様のおかげだ」
俺はネリーの頭を撫でた。
「少し。眠る」
「はい」
ネリーの膝の上で目を閉じた。
今の俺があるのはエステリア姫のおかげだ。いくら感謝しても足りないくらいだ。
寝ようとしたのに周りが騒がしいな。
「将軍。大変です」
兵の一人が俺に話しかける。
「どうした?」
「ドラゴンです」
別の兵が叫んだ。
説明しようとしている兵に中身を聞く前に話の内容がわかった。
まあドラゴンなんて大層なものじゃない。
小さな翼竜だ。それでも数メートルはあるので慌てる気持ちはわかるが。
「今、騎士団が準備をしています。ここは危険ですので」
「いいよ。俺がやる」
俺は起きあがってドラゴンが飛ぶ方向に剣を振るった。
その瞬間。ドラゴンが真っ二つになって燃えながら墜落していった。
これが太陽の力だ。
正確にはその一部だが。
「さ、さすがは将軍」
「後始末を頼む」
俺は再びネリーの膝の上に頭を乗せた。
この場所が一番居心地がいい。
俺は再び眠りに着いた。
どれくらい腕が良いかと言うと、王宮の庭師をするくらいの良い腕である。
変わり者の両親には互いに子供を預ける友人もいなく、赤子の俺も一緒に王宮に連れて来ていた。
連れてくるだけでほったらかしにされていた俺は、王宮勤めの侍女の人達に育てられたそうだ。
ひどい両親だったが今では感謝している。
四歳の時。
一人の少女と出会った。
王宮勤めの侍女の娘。
「わたしはネリー」
「ぼくはエリオ」
他に同世代の子はいないせいか、ネリーとはいつも一緒にいた。
俺はネリーと一緒に呼んだ絵本の中の騎士に憧れた。
「ぼくがきしになったら、ネリーはぼくとけっこんしてくれる」
「うん」
そんな些細なやりとりから俺は騎士になりたいと思った。
幸いなことにこの国では平民でも戦果を上げれば騎士になれる。
城の片隅で木の剣を振るっていた俺を見た衛兵たちが面白がって剣を教えてくれた。
そのうち近衛隊長に鍛えてもらえるようになった。
ネリーにいいところを見せたくて剣を磨いて、気付いたら衛兵の人より強くなっていて、気付いたら近衛隊長にも勝って、あれよあれよという間に気付いたら戦場に連れていかれていた。十三歳の時だ。
ロミネンス王国は隣国サテラ皇国と百年に渡り戦争を繰り広げている。
その年はサテラ軍の攻撃がひどかった。後に大侵攻と呼ばれるほどの規模だった。
成長の早かった俺も前線へと連れていかれた。
王都を離れる前日にネリーにその事を告げた。
「戦場に行くのですね」
ネリーは泣きそうな悲しげな表情だった。
「うん」
「どうしてエリオ様が行かないといけないのですか?」
「ロミネンス王国の男たるもの国家のために剣を振るえって言うだろう」
戦果を上げて騎士になりたいだけなのだがそれは黙っていた。
「そうですか」
ネリーに抱きつかれた。
「すぐ帰ってきてください。私はそれまでエリオ様の無事をお祈りしています」
「わかった。すぐに帰ってくるよ」
俺もネリーを抱き返した。ずっとそうしていたかったがやがてネリーを放した。
戦場に行ってから実際に帰ってくるまでは一年近くかかった。
戦場で危機に陥った時に不思議な力を得た。
後に太陽姫に与えられた力だと知った。
人間離れした強大な力を手に入れた俺はその力で敵兵を蹴散らして敵将を討ちとった。
その戦果が評価されて若くして念願の騎士の称号を得た。
騎士の称号に留まらず準男爵の爵位も与えられた。
その後も戦果を重ね、戦が終わる頃には将軍になっていた。爵位は男爵に上がっていた。
戦場から戻ると俺はすぐにネリーに会いに行った。
一年ぶりに会うその姿はまた綺麗になっていた。
「エリオ様」
ネリーに抱きつかれた。
「ただいま。ネリー」
「お帰りなさい。随分活躍されたそうですね」
「うん。君が祈ってくれたおかげだよ」
その後、騎士になった俺は王宮の近衛隊の一員となった。
男爵と言うことで領地を与えられたが、代官を雇い領地経営を任せて俺は王都に小さいながら屋敷を持つことになった。
とは言っても俺も両親もそこに住まずに今でも王宮近くに用意された宿泊所に住み込みなので実際はほぼ無人のままだ。
貴族達や先輩騎士から娘を紹介されたりするのは正直参った。
しかし、悪いことだけではない。
「本日よりエリオ様付きの侍女になりました。ネリーと申します」
騎士には身の回りの世話をする侍女が一人付くと知ったのはその時だった。
「よろしく。ネリー」
「よろしくお願いします。エリオ様」
ネリーとより一緒にいられるようになり嬉しかった。
後に太陽王国の英雄と呼ばれる俺だが、戦う目的は国のためでなく一人の女を手に入れたいだけだ。
お伽話とされていた太陽の加護を受けて英雄になった。
太陽宮殿。
そこには太陽神アリオンに仕えるべき巫女姫が住んでいる。
太陽の巫女エステリア姫は、あの宮殿から日々太陽神のために祈りを続けているそうだ。
太陽の騎士とは巫女姫と波長のあう者が選ばれると言う。
どういうわけか俺との波長があったようで俺が選ばれた。
彼女には感謝している。
俺に力をくれたことに。
「ネリー?」
「はい。おはようございます。エリオ様」
目を覚ましたらネリーに膝枕をされていた。そうだ。城の外の野原で昼寝したんだった。
「エリオ様。どうしたのですか。こんなところで眠っていて」
「ちょっと考え事を」
「そうでしたか」
ネリーは口を開かずに俺の頭を撫でる。
子供扱いされている感じもするが気持ちいい。
「ここから良く見えるな」
「何がですか?」
「太陽宮殿だよ」
俺の視線の先には王宮を超える高さの宮殿だった。宮殿と言うよりは塔と呼んだ方が良いかもしれない。
「エステリア様は酷い人です」
「ネリー?」
「私は、エステリア様のしたことが許せません。エリオ様に太陽の力を与えて、その結果エリオ様は人間兵器のような扱いじゃないですか」
「落ち着け」
こんなに怒るネリーは初めて見た。
「俺はエステリア様には感謝している」
「でも」
確かに太陽の騎士になったせいでいろいろな問題がある。
「こうしてネリーに甘えられるのもエステリア様のおかげだ」
俺はネリーの頭を撫でた。
「少し。眠る」
「はい」
ネリーの膝の上で目を閉じた。
今の俺があるのはエステリア姫のおかげだ。いくら感謝しても足りないくらいだ。
寝ようとしたのに周りが騒がしいな。
「将軍。大変です」
兵の一人が俺に話しかける。
「どうした?」
「ドラゴンです」
別の兵が叫んだ。
説明しようとしている兵に中身を聞く前に話の内容がわかった。
まあドラゴンなんて大層なものじゃない。
小さな翼竜だ。それでも数メートルはあるので慌てる気持ちはわかるが。
「今、騎士団が準備をしています。ここは危険ですので」
「いいよ。俺がやる」
俺は起きあがってドラゴンが飛ぶ方向に剣を振るった。
その瞬間。ドラゴンが真っ二つになって燃えながら墜落していった。
これが太陽の力だ。
正確にはその一部だが。
「さ、さすがは将軍」
「後始末を頼む」
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