あの日の約束、今でも覚えてる

国光

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あの日の約束、今でも覚えてる

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 佐藤ゆかり。
 急にクラスメイトになった転校生。
 長い黒髪をツインテールにまとめ、ちょっと小柄で可愛らしい外見。彼女が入学してきたその日、教室中が一気にざわめき始めた。
(どこかで見たことあるな)
 最初の自己紹介の挨拶の時にそう思った。頭の中で何かがひっかかった。
 なぜだろう。
 昔に会ったことがあるような、そんな気がした。
「あ、山田くんですね? 初めまして?」
 その声に、はっとして顔を上げる。そこには、確かに見覚えがあった。
 律義に休み時間に一人一人クラスメイトに挨拶している彼女が僕の席に来た。そして、彼女の『初めまして?』は何故か疑問形だった。
 そこで僕ははっきりと気付いた。
 彼女は、間違いなく幼馴染のゆかりだった。
 僕が小さい頃、ずっと一緒にいた子。言われてみれば、あの頃から目に見えて変わったのは髪型ぐらいで、あとは…やっぱり顔立ちが少しだけ大人びている。記憶にあったゆかりは、まだ小さな女の子だったけれど、今の彼女は明らかに成長していた。
 いや、それもそうか。ゆかりと一緒にいたのは小学校一年生まで。そこからゆかりの家が引っ越してから実に十年ぶりだ。
 まだ本人には確認していなかったが僕は確信を持っていた。
 でも、何よりも驚いたのは、彼女の次の一言だった。
「覚えてる?」
 その言葉に、僕は一瞬何も言えなくなった。だって、僕は覚えていたから。
「もちろん覚えてるよ」
 そう、僕は覚えている。お互いの事を。と言うだけではない。
 僕とゆかりは、昔、子供の頃に約束を交わした。小さな遊び場で、誰もいない公園で、一緒に遊んでいた時に。
『大人になったら、結婚しようね』
 そんな言葉を交わしたことを。
 もちろん、あの頃は遊び半分だった。それに、僕だってその時はただの遊びの延長線で言っただけだった。でも、あの日からずっと頭の片隅に、その言葉が残っていた。ゆかりが引っ越してからもそのまま。どこかで、忘れたふりをしていたのかもしれない。けれど、それが今、目の前の現実になってしまった。
「また後でね」
 そう言って十年ぶりの再開は終わった。
 彼女は再びクラスメイトへの自己紹介へ戻った。

          *

 転校してきた美少女と言うのはみんなの注目の的らしく彼女の周りには人だかりが絶えなかった。
 彼女と二人きりで帰れるようになったのは再会して五日後の事だった。
「本当に覚えてくれていたんだ?」
 ゆかりは、少し照れくさそうに微笑んだ。
 その笑顔に、僕はまたあの頃の自分に戻った気がした。あの頃、僕はゆかりと一緒にいるのが当たり前だった。毎日が楽しくて仕方がなかった。
 けれど、それから時間が経ち、僕たちは離ればなれになって、それぞれの道を歩み始めて、気づけばこんなにも遠くなってしまっていた。
 でも、やっぱり。心の中でずっと、彼女は僕の特別な存在だった。
「でも、さ」
 僕は少し考えてから、言葉を続けた。
「どうして、今になってそれを言うんだよ? 俺たち、もうすっかり大人になったんだぜ?」
 ゆかりは小さく肩をすくめた。
「だって、覚えているのは私だけじゃないと思ったから」
「それって、どういう意味?」
「だって、私、ずっと思っていたから」
 その言葉に、僕はまた驚いた。そしてドキッとした?
「お前が、俺のことを?」
 つい、声に出してしまった。
 ゆかりは少し頬を赤らめて、うつむいた。
「だって、あの約束を守りたかったから」
 その言葉に、僕は一瞬、頭の中が真っ白になった。
 確かに、あの頃の僕には、ゆかりとの約束なんて軽いものだと思っていた。でも、ゆかりは真剣だった。僕と一緒に過ごしたあの日々を、彼女はきっと今も大切に思ってくれているんだ。
 そして、今、僕の心に湧き上がる気持ちは。
「でも、俺はどうすればいいんだ?」
 僕は、ゆかりにどう返事をすればいいのか、わからなかった。過去の約束を本当に守るべきか、それとも大人として冷静に、ただの思い出として受け入れるべきか。
 情けない事にそのまま自分の心の内と共にゆかりに聞いてしまった。
「それは、私が決めることじゃないよ」
 ゆかりは静かに、でも力強く言った。それは僕が決めるべき事であると。
「あー。でも。やっぱり私が決めることかな」
 ゆかりは悪戯っぽい笑みを浮かべた。
 その言葉を聞いて、僕は少しだけ心が軽くなった気がした。だって、今の僕にできるのは、彼女に向き合うことだけだ。
「ねえ。気付いている?」
「何にだ?」
「自分の事。「俺」って言っている。みんなの前じゃ「僕」だし。口調も私の時だけ違うから。そういう部分も嬉しかったりするんだよね」
 言われて考えてみる。
 中学の時に友人とちょっとした口論から大喧嘩に発展してしまって以来。僕は自分の事は「僕」と呼んでいた。それまでは「俺」だった。ゆかりと一緒に過ごしていた時も。
「全然気付かなかった」
 ゆかりに指摘されるまで全く気付かなかった。
「えへへ。私のせいで変わったんだね」
 その笑顔に完全に見惚れてしまった。
 過去の約束が今、現実となり、僕たちの関係をどう進めていくかは、僕とゆかりの手の中にある。
 これから、僕たちがどんな未来を作っていくのか、それはまだわからないけれど。
 でも、こうしてゆかりと再び向き合えることが、僕にとっては何より大切なことだと感じた。
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