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ジオ・シュバン2
しおりを挟む「少しは動揺するとかないのか? そなた首に爆弾が入ったんだぞ」
「死刑宣告。……って訳でも無さそうだな」
「動揺しないとは、全く面白味がないの」
二人の噛み合うことの無い会話。
注射針によって、ジオの首に埋め込んだ極小の爆弾──小さいがその威力は馬鹿に出来ない事を知っているアディルからすれば、体内に爆弾が入っても焦りの見えないジオの様子に苦笑する。
一方ジオも、自身の状況について考えてはみた。
殺人鬼として暫く収監されていたが、次は己が殺される番──つまり死刑を言い渡されるのかと。
だが死刑を伝える者に、わざわざ爆弾を埋め込む必要は無いだろうと思考し、そのままを口に出していた。
アディルは手の中にある小型起爆装置を弄り、机に寄り掛かる。
右手には起爆装置、左手には資料の挟まったファイルを持った状態で腕を組み口を開く。
「まぁ良い、単刀直入に言おう。ジオ・シュバン……そなた、我の下で働かぬか」
「…………は?」
この部屋に来て、ジオは今一番の動揺が脳を襲う。
相手の言葉がうまく理解出来ず、ポカンと口を開け眉が寄ると嘲笑って告げる。
「刑務所ってのは、殺人鬼の手も借りたくなるほど人手不足なのか?」
「いや、人手は足りておる。まぁ……誰かさんが何度も脱獄するから、人員の配置には困ったがな」
「それは管理体制の悪さを教えてやったんだ。有り難く思え」
「なるほど。勉強になったわ」
ジオとアディル、互いに視線を交わし口元がニヤリと歪む。
この場に擬音を付けるならば、バチバチ──そんな音が適切だろうか。
この区間、ジオを挟む看守二人は一切口を開こうとはしない。それどころか気配すらも消し、まるでこの場に存在しない、二人の会話を己は聞いてません。
そんな感じを思わせる。
アディルは組んでいた腕を解き、手元のファイルを開き中の資料に目を向けた。
そこに書かれているのは、ジオ・シュバンの犯罪歴が載った情報。
『ジオ・シュバン』
年齢25歳。
殺人鬼歴は10年。
2年前に収監されるが、2年間の間に3度の脱獄を成功させる。
脱獄後、一度はそのまま逃げるも数日すると収監場所へ自ら戻って来る奇怪な行動を見せる。
それも脱け出す前に居た部屋へ、知らずに戻っている事も。
殺人への取り調べに対しては黙秘する事は無く、質問には全てありのままを返答。
ただし、殺しへの罪意識は全く存在しない。
改めて資料を読み返したアディルは、大きな溜め息を吐く。
「年間に殺した人数は?」
「さぁな。数えていられる量じゃない」
「だろうな」
資料には、ジオが殺害したと思われる人数も記載されていたが、それを敢えて問うてみた。
しかしアディルにとっても、予想通りの返答が返ってきた。
「10年間の総数だけも四桁は軽く越えておる。そなた見た目だけじゃなく、本当に悪魔なんじゃないのか?」
呆れたアディルの声に、ジオはただ笑う。
僅かに頭が揺れると長い前髪が目を隠し、笑う口元がより強調され──覗く犬歯がその存在を不気味に包む。
部屋に数秒の沈黙後、ジオは楽しそうに己の行う狂気染みた殺害の熱弁をし始めた。
もしも身動きが自由に出来るのならば、感情に乗せて身体も動き出しそうな雰囲気を纏い、静かに淡々と。
「俺は殺しが好きなだけだ。心臓を一突きした時にビクンッと伝わる感覚、首を綺麗に切り落とせた時の爽快感……わざと逃がしてやり、相手が安全地に隠れ安心した瞬間を絶望に落とすのは、実に最高の気分だ」
「……狂っておるの」
「殺人鬼に狂ってない奴なんて居ない」
「確かに、そうじゃな」
肩が揺れ、クツクツと笑うジオに看守の腕によって不意に鎖を強く引かれ、鎖に繋がれた先の首が喉を一瞬圧迫する。
ジオの口から微かに、グッ……と苦し気な声が漏れた。
アディルはファイルを閉じ、再び腕を組む。
「話が逸れたな。我はな、牢獄とは別に、ひとつの部隊責任者を任されておっての。〝公安暗殺〟聞いた事はないか?」
「異能力者を殺せる許可がある連中」
「ざっくりしておるの……まぁ、間違いではないが」
苦笑を浮かべたアディルは公安暗殺についてより正しく、だが至極簡単に説明を告げる。
「犯罪を犯した異能力者に、直接刑を与える事が許された唯一の部隊──それが公安暗殺特殊部隊。刑とは、死刑執行の事を言う。そなた異能者を殺した事は?」
「ある。その部隊に俺を入れたいと?」
「うむ、そう言う事じゃよ。奴らを殺した経験があるなら知っとるかもしれんが、まず一般警察には捕らえる事すら難しい存在である。だから、そなたのような異常人間が欲しい」
この世界には普通の人間と、そうでない異能力を持って産まれる人間が居る。
異能力者の七割は戦闘に特化した力を持っており、成長するに従ってその力は膨大化し、犯罪を犯す者がとても多い。
それ故に異能力持ちだとわかった時点で、子供を捨てる親が居る。しかしそれを攻める者は誰も居ない。
それが当たり前の世界となりつつあった。
異能は遺伝するものではない。
突如持って産まれる。
産まれた直ぐは親に異能持ちだと知られず、成長した後にふとした瞬間に感付かれるケースは多い。
子供自身も、己がその存在だとわかって隠し通す者も少なからず存在する。
それは何故か。簡単な話、親に捨てられない為だ。
戦闘に特化した異能力者──言葉通り、異能力は通常の人間には考えられない特殊な力を持つ。
一番多いタイプは水や雷、風や火などを意のままに扱う者。念力、重力もある。
他にも植物を自在に操る者、厄介なものとして精神操作。
異能力者の共通点は、身体動作がとにかく異常であるり、それに加え回復力も凄まじい速さを持つ。
掠り傷程度であれば、1分経たずして治る。
だが、不死身ではない。
普通に寿命で死に、病気で死に、回復不可能であれば事故でも死ぬ。
犯罪を犯した異能力者は罪の軽重に関係無く、必ず死刑が下されると、世界共通の法律で決まっていた。
そんな馬鹿げた法律が成されたのには、理由がある。
過去に苛めを受けた異能力者が居た。
異能力持ちと言うだけで、犯罪を犯しやすいと言うだけで、自身は何も誰にも危害を加えて居ないのに関わらず──差別され、暴力的で屈辱的な苛めを受け続けた。
結果、その者は異能無しの人間へ復讐する事を決める。
自分と同じ境遇の者達を集め、無差別に人を襲い殺し続けた。一夜にして街をひとつ、滅ぼす勢いで。
身体能力が高い連中を、一般の警察が捕らえるのは難しい。
余程鍛練を積み、同じく身体強化の凄まじい者でない限り捕らえられなかった。
それ故に被害は拡大し、誰もが心の中で思った──異能力者は危険だ。排除しなくてはならないと。
しかし異能持ちとだからと言って、ただその存在を殺しては秩序的には不味いと判断したのだろう。
また同じ事の繰り返しになる──そう考えた結果として無理矢理創られた法律が『異能力者に限り犯罪を犯した場合、罪の軽重に関係無く死刑となる』
無論、反乱は起きた。
だが罪さえ起こさなければ、殺される心配はない。己が異能力者だと隠し通せれば、差別対象にもならずに済む。
そんな考えが、当たり前の世界。
しかし元々戦闘に特化した能力と、犯罪の起こしやすい体質だけあり、日々どこかで異能力者は罪を起こす。
身体能力の高い異能力者には、同じく身体能力の高い人間が対峙する。
その人間が集まる部隊こそが『公安暗殺特殊部隊』である。
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