5 / 7
釈放から新居(仮住まい)へ2
しおりを挟む『出所祝いじゃ! 好きな服を買ってやるぞ!』と、告げたアディルに連れられ、アパレル店へ入店。
リムジンに関しては店前に駐車。
あまりお目に掛かれない高級車だけあってか、完全に人目を集めている。
だが車体とは別に、興味の視線が注がれていたものもあった。
店内で、異様な注目を集めている二人──アディルとジオ。
注目原因として、まず一つ目はアディルの容姿。
絶世の美女──とまでは言わなくとも、僅かに幼さを感じさせる顔。
だがそんな幼さとは反対に、魅力的な身体のラインが衣服越しに主張する。
妖艶された笑みは色気を溢れさせ、店内に居た男客は皆アディルの容姿に釘付け状態である。
注目原因として、二つ目はジオの存在。
アディルと共に入店したジオはどう見ても、無職で街中をぶらつく絡まれたら面倒臭そうなチンピラ、なのだ。
作業服に見えなくもない囚人服は、決して綺麗な状態とは言えない。
牢獄暮らしであった故に、毎日シャワーなど浴びれる訳もなく、当然毎度新しく綺麗な囚人服を手渡されもしない。
なので、多少の臭いとボロさは付き物だ。
おまけに裸足ときた。
しかしこの不釣り合いな二人が同時に入店して来た事で、客そして店員もひとつの仮説を考えた。
それは〝女の方が主人で、男の方は奴隷〟なのではと。
奴隷を買う習慣は、数が減ってきてはいるものの無い訳ではない。
奴隷の利用としては、性欲処理をさせる為──男が女を買った場合はこれが一番多い。無論その逆もありはするが。
次に多いとされるのが、労働力活用の為──主に力仕事をさせ、休む暇を与えず肉体的にも精神的にもキツい。
他にも様々な理由はあるが、奴隷に関して良い話を聞くことは希である。
店内に居る誰もが主人と奴隷関係だと思った矢先、アディルが声高々に『出所祝いじゃからな、牢獄では着れなかった良い服を選ぶが良い!』と言ったものだから、皆の頭の中に?が生まれ、同時に顔には不安が現れる。
「出所?」
「牢獄だと!?」
「罪人の奴隷?」
「確かに男の方はヤバそうだ……ひぃ!?」
偶然居合わせただけの客同士、ひそひそ話をして二人を見る。だがいくら声をひそめようと、広くもない店内では、ジオの耳にその音は簡単に捕らえてしまう。
気分を害した訳ではなかった。
ただ知らぬ者の口から、出所や牢獄──との単語が聞こえた為に、己の事を話しているのかと気になってジオは視線を向けたのだ。
すると店内に居た客達は、二人と関わり合いになっては面倒と判断したようで、手にしていた衣服をそっと棚に戻す。
そして何も買わずに、そそくさと皆が店から出ていってしまった。
静まり返った店内に残るのは、ジオとアディル。それと女店員が一人。
人数が減った事で広くなった空間。ジオは言われるまま好きな服──適当に見繕うだけだが──を選び、買ってくれると言うアディルの前に差し出す。
囚人服姿しか見ていないために、ジオがどんな服を選ぶのか、多少なりとも興味のあったアディルだが──ジオが選んで目の前に持ってきた服を見て、アディルは眉をひそめて浮かんだ思考がそまま口に出る。
「なんじゃ……それでは、今と対してあまり変わらぬではないか」
「何を言ってる? これはツナギじゃないぞ?」
「……いや、我が言いたいのは種類の話でなくて、色の事じゃよ」
首を左右に振るアディルは、ジオの選んだ衣装に指差し呆れ顔を向ける。
シャツにジャケット、パンツとブーツ。そのどれもが黒で統一。
アディルからすれば、黒い囚人服から全く別の衣服であっても同色の〝黒〟に変わったところで、面白さを感じず興味が削がれたようだ。
しかしジオにとって見た目など、どうでも良かった。
「服なんてどれも同じだろう? 汚れるなら、あまり目立たない方が良い」
「まぁの。我が好きな服を選べと言ったんだ、何を着ようが良いか……。それより、試着くらいはしてみぬか? そこの店員、試着室はあるかの?」
「……へ!? あっ、はい! こちらに!」
汚れる前提の事で、アディルは更に呆れはするも、この先ジオにさせる仕事を思うと納得は出来なくもない。
ジオの言う汚れるとは、血飛沫の事だろう。
購入前から惨事を想像しているとは、アディルは苦笑いを浮かべる中──可能ならその汚れが付く事がないのを願う。
誰も殺さずに済むのなら、それが一番良いと。
アディルから不意に声が掛かり、暫し呆然としていた店員はびくりと肩を震わせ、慌てて試着室へとジオを案内する。
不運な事にこの日は新人の店員が店番であり、新人女店員の心中はアディルとジオが現れてからずっと『変な人達が来た!?』と焦りでいっぱいであった。
他の客が逃げるように店から居なくなったのに紛れ、己も店からこっそり抜け出そうかと思う程に。
着替え終え、試着室からジオは出てくる。
当然ながらそこに立つのは、全身黒ずくめの男。
だがボロ布の囚人服と違い新品だけあって光沢感もあるが、より深い黒に包まれ闇夜に紛れれば確実に見失うであろう姿。
囚人達に陰で囁かれていた悪魔感は、より増した気がしなくもない。
「……悪くはないの。似合っておるぞ。ただ、何かが足りぬな」
全身黒ずくめではあるが、いざ目前にすると案外アディルの中では高評価を出す。しかしどこか物足りなさを感じ、首を傾げる。
腕を組み、何が不足しているのか暫し考えたアディルだったが、ふと思い付いたようでビシビシとジオに人指し指を向け声を上げる。
「髪! その邪魔な前髪を退けよ!」
「何でだ」
「良いから早くせぬか!」
明らかに面倒臭そうな雰囲気を出すジオだが、早くと急かされ仕方無く前髪を掻き上げ、それと共に頬が紅潮するアディルを見据えた。
「これで良いのか? 服と何の関係が……」
「良い、良いぞ! 顔と服の相性だってあるではないか!」
「どうでも良い事だ」
「あああぁぁ!?」
掻き上げた前髪から手を離すとサラリと落ち、元通り下の目元を隠してしまう。
それを不満がるアディルは、地団駄を踏んで抗議の声を発する。
「そなたせっかく良い顔しておるのに、何故に隠す!?」
「…………眩しい」
「吸血鬼か!?」
「残念。俺は吸血鬼ではない。それに化け物でもなければ悪魔でも──」
「それは前にも聞いたわ!」
騒がしい二人の様子を少し離れた場所から観察していた店員は、一瞬であったが髪の下に隠れる顔を見てアディル同様に紅潮し──ポツリと呟く。
この時点で店員の心は〝変な客から、素敵なお客様〟に変換されるのだから、なかなかに現金なものである。
「お客様、素敵なお顔立ちですね」
「そうであろう!」
店員の言葉に即座に反応するアディル。
当の本人は選び終えたのだからもはや店に用などなく、早くこの場を去りたい気分。
そんな事を知らぬアディルは、店員に指示を出す。
「この男に似合う服を持ってきてくれぬか! 我が買い取る。面倒じゃから全て黒で良いぞ」
「はっ、はい。畏まりました! 沢山ありまよ!」
「金ならあるので、心配するでない」
「……」
ジオを余所に、はしゃぎ始める女二人。
己の服選びの筈が、完全に蚊帳の外と化したジオ。
女の服選びは長いと聞いた事があるジオは、溜め息を吐いて店内に設置されていた一人用ソファに腰掛ける。
どのくらいの時間が過ぎただろうか。
お得意の秒数数えは行っておらず、結構な時が経った頃──余りにも暇すぎたジオは外を眺め、行き交う人々をサクッと殺したい衝動がちらつく。
──暇なのは牢獄で慣れてるのに、外に出ると駄目だな……
なんとか衝動を抑え込むジオの前に、紙袋を大量に抱え満足気なアディルが現れる。
「待たせたな」
「終わったか。危うく俺の殺害衝動が破裂するところだった」
「それは恐いの。さて、行くぞ。その服も会計済み故に、そのままで良い」
恐いと言いながらも、満面の笑顔を浮かべるアディル。相当満足のいく買い物が出来たようだ。
アディルが店内から出ていこうとする背中を追い掛けるように、ジオもソファから立ち上がり出入り口の扉へ向かう。
そこへ、店員の声が掛かる。
「あのっ、またのお越しをお待ちしておりす」
散々共にはしゃいだアディルは店員の声が聞こえていないのか、そそくさとリムジンへ向かい。
ジオも扉に手を掛け外に脚を踏み出したが、振り返り口元を緩ませた。
「次に会う時は、最短で頼む。殺しそうだ」
「……へ?」
言葉の意味がわからずキョトンとする女店員を店に残し、リムジンに乗り込む。
ジオが乗り込んだと同時に発車し、本日のメイン場所へと向かって走る。
「これから向かうのは、そなたの住まう場所じゃ。まぁ仮住まいにはなるが、良い部屋だぞ」
「随分と世話してくれるんだな」
他人の衣服を選んで、上機嫌な己の上司になる女──アディル・ハンズ。
西洋な街並みを窓越しに眺めるその姿を、ジオは見つめる。
「部下の世話をして可愛がるのは、上司として普通であろう?」
街並みから視線を逸らす事なく、当然とばかりに告げたアディルは笑みを浮かべる。
ジオの生きてきた世界人生の中で、そんな〝普通〟など体験した事などなく。
ほんの少しだけ、ジオの心の中に、己の知らぬ未知の感情が湧き上がり──それが何なのかこの先ゆっくりと時間を掛け、ジオは理解する事になる。
0
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。
しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。
私たち夫婦には娘が1人。
愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。
だけど娘が選んだのは夫の方だった。
失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。
事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。
再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】精霊に選ばれなかった私は…
まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。
しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。
選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。
選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。
貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…?
☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる