『公安暗殺特殊部隊』 ~異能の力が無くとも、自力で異能力者連中を叩きのめす~

海藻

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釈放から新居(仮住まい)へ3

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 人々が行き交う賑やかな街並みから、少し奥に引っ込み静かになる通りがある。
 そこに建ち並ぶ古すぎず、だが新しくもない──それでも歴史を感じさせる、アパートや小さな店がひっそりと建っている。

 アパート前は道が細く、移動するに車は入れない。その為に数十メートル手前で車中から降りたアディルとジオ。
 ジオの手には大量の紙袋を持たされる。


「それではハンズ様、私はこれにて失礼させて頂きます」

「ああ、送迎ご苦労であった。また頼む」


 アディルに向けて深々とお辞儀をした運転手は、ホワイトリムジンのエンジンを掛けて今し方通ってきた街中へと消えて行く。
 その間にも歩き始めたアディルの背を、紙袋抱えるジオが後ろを追う。


 暫く歩いたところで一件のアパート前で脚を止め、アディルは2階部分の窓を指差し微笑む。


「そこが住む部屋になる」


 それだけ言うと再び歩き出し、階段を登る。

 アパートの外見は赤煉瓦レンガ造りになっており、雨風に晒さた事で風合いが増し、それが程よく良い味を出している。

 2階に到着すると慣れた手付きで部屋の鍵を開け、遠慮無く室内に入って行くアディルから掛かる声。


「入って来て良いぞ」


 その言葉に『俺の住む部屋では?』 と眉をひそめたジオではあるも、直ぐにまぁ良いかと気持ちを切り替え部屋に脚を踏み入れる。

 直後、違和感が襲う。

 アパートの玄関から感じる人の匂い。たった今、アディルが入ったからではなく、長く住み着いている匂い。
 しかしこれは、紛れもなくアディルから感じる物と同じ。

 ジオの頭の中に、まさか……と考えが浮かび、リビングに向かったアディルを追って室内を見れば、その考えは当たっていた。
 唖然とするジオの手に持つ紙袋がドサリと床に落ち、口角を上げたアディルは両手を広げて告げる。


「ようこそ、我が家へ・・・・。良い部屋じゃろう?」

「待て。俺が住む所へ来たんじゃあ……」

「ああ、そうじゃよ。だから、そなたは今日からここに住む。我と一緒じゃが我慢しとくれ」


 予想外の事であり、ポカンと口を開けるジオ。
 だが良く考えてもみれば、四桁を越える数の人間を殺した殺人鬼を、仕事を与える為とはいえ釈放後にひとり放置する筈もない。
 このまま逃げ出さない保証もなく、どこかに監視役・・・は必要──その役目をするのが、アディルなのであろう。


 ジオは部屋をざっと見渡す。
 リビングとダイニングキッチンが広いスペースにひとつになっており、全体的に木の質感が味わえる暖かみがある部屋。
 そしてキッチンにあるテーブルや椅子、リビング側に設置されたソファやテーブルに小物──それらは全てアンティークな物が置かれている。


「そなたの事だから既に察しておるかもしれんが、一緒に住むのは監視のため。本当はグレンと言う男が、そなたの監視役にしようかと思ったんじゃが……厄介事になりそう故やめた」

「厄介事?」


 やはり監視の為かと納得するが、引っ掛かる言葉があり首を傾げた。
 その事について、アディルは苦笑いを浮かべ答える。


「グレンはそなたの入る、公安暗殺特殊部隊の一人でな。なんと言うか……その、なかなか頭のイカれた奴なんじゃよ。そなた以上かも知れん……。いきなり喧嘩・・でもされて、せっかく手に入れた人材が減った・・・となっては困る」

「……へぇ。そいつは強いのか?」

「我の知る中では一番かの。そなたような芸当は余裕じゃな」


 まだ見ぬグレンと言う男に、強いと知って興味が湧く。それがどれ程の力なのはわからないも、アディルが一番と言うのなら多少は期待をする。
 前髪から覗く赤目はギラリと光り、口元は楽し気にニヤリと笑みを浮かべ、新しい玩具を見付けた喜びを表すようにジオは笑う。

 そんな笑みを浮かべるジオに、アディルは呆れと共に頬を引きつらせた。


「グレンは仕事仲間だ!  間違っても殺そうとはするでないぞ」

「それは向こう次第だな」


 強い相手であれば尚更、殺害衝動は増して興奮する。そしてただただ、殺したくもなる。


「まぁそれは今、置いておくとして……。アディルは良いのか?   俺がここに居ても」

「ん?   一応、そなたに殺される覚悟はしてある。我は死んでも仮は用意出来るが、ただ──」

「俺が言いたいのは、殺害衝動の話じゃない。殺人鬼である前に、俺は男だ。女が男とひとつ屋根の下って問題無いのか聞いてる」

「……」


 ジオの言葉にアディルは目を丸くし、固まってしまう。この反応からして共に暮らす相手が〝殺人鬼〟としてしか考えていなかったのか、男女で住まうと言う事は頭に無く、完全に盲点だったようだ。

 だが数秒後、ジオの発した言葉に今更意識し始め、アディルは徐々に顔が赤くなる。

 その反応を目前にしたジオは口元を僅かに緩め、アディルが瞬きする間に移動する。
 ジオが一瞬で目の前から消えた事に動揺するアディルの背後から、静かに腕を伸ばしてアディルの顎に手を添え──更には耳元に唇を寄せ、静かに低い声で囁く。


「こう見えて、俺は女を抱くのも好きでね。襲われても文句を聞く気は無い」

「……っ」


 なんとも理不尽過ぎる言い様。
 アディルは先程よりも顔を真っ赤にしたが、声の聞こえた直後、後方へ向かって身体を捻ると同時に右肘を突き出す。

 しかし肘には何の感触もなく、空を切っただけで終わり──ジオの腹を目掛けて肘を突くつもりだったが、それは失敗する。
 理由は簡単、アディルが腕を振るう前にジオが移動しただけ・・の事。

 瞬時に元居た場へ戻っていたジオは、口元を手で押さえクツクツと笑う。


「冗談だ。文句くらいは聞いてやる」

「……つまり、抱く事が好きには変わり無いのじゃな……」

「人聞きの悪い事を言うな。誰でも良くはない。人を殺す以上に女は選ぶ」


 またもや理不尽とも言える言葉に、アディルは眉を寄せ目前の男──ジオを睨むが、顔が赤い為にそこから凄みは感じる事は出来そうにない。

 暫くするとアディルはふいと視線を逸らし、長い銀髪を指に絡めて弄りつつ、恥ずかしいのかぼそりと声を出す。


「因みに我の事は、その対象に……入るのかの。文句は聞くと言うから……」

「あ、保留で」

「即答!?   と言うか保留とはどういう事じゃよ!?」


 なんだがムカつくと、この日二度目となる地団駄を踏むアディルを余所に、ジオは腕を上げて身体を伸ばす。

 ジオにとっては久しぶりに、コンクリートの冷たい部屋ではない所に住むのだ。
 改めて部屋を見渡して、それを実感する。ただ人様の部屋なので、隠居と言う形ではあるが。

 けれども2年前、自ら牢獄行きを選んだジオには少々複雑な気持ちが芽生えるのを無理矢理圧し殺し、前髪の下に隠れた瞼を瞑り小さく息を吐く。


 車内でアディルが仮住まいと言っていたのを思い出し、いずれはここを出て別の所に移るのだろうと考えていると、キッチン側のテーブルに移動していたアディルから声が掛かる。


「そなたには、いろいろと説明せねばならぬ事がある。明日からは早速、仕事してもらうからの!」


 テーブルをトントンと指で叩く。見える顔はまだ僅かに赤い。

 アディルはここへ来て座れ、と指示を出しているようで、視線を向けたジオはゆっくりとした動作で移動する。
 ジオはテーブルとセットの、アンティーク造りの椅子に腰掛ける。すると、アディルはカップを二つ用意しつつ口を開く。


「どこから話そうか……一先ず、そなたの首に埋め込んだ爆弾の話からしようかの」

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