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組織

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 さて、カルロから聞かされたプロベンツァーノファミリー、つまり──組織全体の話。
 そしてチェルソ・プロベンツァーノがどんな人間だったのか、それをオレが解説しよう。

 とは言うものの、どこから話したものか。

 一先ず現在オレ達がどこに居るのか、だが。
 南イタリアの最大都市でもある、ナポリに現在は身を潜めている状態だ。

 オレ達が今居るこの建物は、外からでは一見ただの豪邸にしか見えない造りらしいが……簡単に言ってしまうと別荘兼、避難場。

 建物の中は厳重な防犯システム、警備体制は中そして外にも配置。
 少し建物から離れた位置からも、組織の警備者を配置して怪しい人間──ドンの命を狙う者が居ないか常に見張ってる。


 オレが窓も無い部屋に寝かされていたのは、外からの襲撃に備えて。
 壁を厚くし、外からの銃弾や爆撃といった物から身を護る為にある。
 ただ万が一に中からの襲撃があった場合は、秘密の扉がありそこから逃げ出す事が出来るらしい。


 プロベンツァーノファミリーの本拠点は、シチリア島の内陸部にあるパレルモ県。
 数年前、初代・・ドンが造り上げたシチリア島を拠点とした弱小マフィアがあった。

 だが初代ドンは薬物による中毒死で死亡。何者かによって殺害される。

 そしてそこの幹部でもあったチェルソ・プロベンツァーノと、友人でもあったサルヴァトーレ・インクロッチのどちらかが、次代ボスに選ばれる事になった。


 話し合いの結果、チェルソ・プロベンツァーノがボスの座に就く。

 しかしそれに不満、反発を起こす友人サルヴァトーレ・インクロッチ。
 同じく不満と反発を持ったインクロッチ側に就いた構成員も加わり、プロベンツァーノ側との権力争いが勃発する。
 そこには関係の無い市民までも巻き添えにした、まさに血で血を洗う闘い。

 自身共に互いに就いた構成員の半数が死に、ボロボロの状態。
 しかし僅かに、プロベンツァーノ側が有利な立場になった。

 事が大きくなった為、国家の目が向けられる。
 この時点で一般人すら巻き込んだのだから、すぐにでも捕まりそうなものだ。
 それでも捕まらずにいれたのには理由がある。

 これは極一部の人間しか知らないらしいが、構成員の中にはFBIや政治家に紛れ込んでる者も居るとか。
 国家に大きな権力を持つ人間も就いている事から、裏から手を回してあれこれ悪事から逃げることが可能。
 自分達の不利になる部分は全て揉み消したそうだ。


 プロベンツァーノ側に圧されたインクロッチは、シチリア島を離れミラノに渡る。
 プロベンツァーノは暫くシチリア島に残るが、パレルモ県外周を転々としつつ、着々とその名を恐怖で広めていった。

 だが今よりももっと事業拡大を目指し、シチリア島本拠点に構成員を僅かに残して離れる。
 プロベンツァーノは一度ローマに渡るが、そこにもまた構成員を残し現在住居を置くナポリに移る。

 ミラノに渡ったインクロッチ側は、現在どこに住居を置いているのか不明らしい。
 ただ、現在のドン=チェルソ・プロベンツァーノの命を狙ってるとの情報は入ってくる。


 オレが苦しんだ腹部の傷がその証拠。
 インクロッチの部下がチェルソ・プロベンツァーノを銃撃したのだ。
 銃撃したインクロッチの部下はプロベンツァーノ側に捕まるも、インクロッチの名前を出した事以上の情報を吐かずして自害したそうだ。


 因みにプロベンツァーノファミリーの表側の仕事は、運送会社をしている。
 表に堂々と紛れて、闇社会で売買する武器や麻薬を運んでるとの事。
 他にも闇賭博や人身売買など。
 つまり金になるなら、何でもありだ。

 総構成員も数千人という大規模組織に成し上がり、年間利益も数千億越え。


 ドン=チェルソ・プロベンツァーノがどんな人間なのか、それについては簡単に言って『恐ろしい存在』
 相手に恐怖させるオーラをその身に放ち、目は視線だけで人を殺しそうなもの。
 睨まれたら、その対象は恐怖で動けないそうだ。

 仕事に失敗すれば銃弾が飛び。
 逆らえば銃弾が飛び。
 口答えくれば銃弾が飛び。

 要はドンの意思に反する事があれば、銃弾が飛んでくるんだとか。

 不機嫌な時に近付こうものなら、その身が蜂の巣になる可能性もあったそうだ。
 部屋の壁や床に何かが撃ち込まれた痕があるも、まぁそれは見なかった事にしておこう。


 そしてなにより、ドンは血の臭わない場では無口な男。
 カルロが言うには、目力と背中で語るような男らしい。

 

「ドンの今の状態に関しては、一部の者にのみ止めたいと思います。多くの構成員に知らせるのは、この事が外に漏れる可能性を考慮しての事。万が一にも外に漏れ、身の危険が及ぶ可能性もありますので」


 ここで一度言葉を区切ったカルロは、意中の思いを口にする。


「ただ、今のあなたは以前のような恐怖を纏う存在とは程遠い……現状を知らぬ者達は怪しむでしょう。なのでせめて、部下に対しては威厳ある態度で接して頂きたい」


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