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ぼんの宇宙日記(51日目)
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51日目。今日は、ミナの手が冷たい日。
朝、ぼくは居住区の窓辺で目を覚ました。星の光は相変わらず静かに差し込んでいて、船内の空気もどこかやわらかかった。でも、今日はなぜか空気の中に冷たいものが混じっている気がした。
ミナはいつも通り、朝から忙しそうだった。今日は水耕栽培ユニットの点検をしているらしい。ぼくは彼女の背中を眺めながら、静かにその作業を見守った。水の流れる音が、ぼくの耳に涼しさを運んでくる。
しばらくして、ミナが作業台の前に座り込んだ。指先を何度もこすり合わせている。その手は、白くて細くて、どこか頼りなさそうだった。ぼくはそっと近づいて、彼女の足元でしっぽを揺らした。
「ぼん、今日はちょっと冷えるね」ミナがそう言いながら、手を見せてくれた。指先が赤くなっていて、触れたらきっと冷たい。ぼくは彼女の膝の上に軽く飛び乗った。ミナは驚いた顔をしたけれど、すぐに微笑んで、ぼくの背中をそっと撫でた。
その手のひらはやっぱり冷たかった。でも、撫でる動きはやさしくて、ぼくの毛を通して少しずつ温もりが伝わってくる気がした。ぼくは体を丸めて、できるだけミナにくっついた。しっぽも膝の上に巻きつけてみた。
ミナはしばらく黙って、ぼくをなで続けた。時々、小さく息を吐く。そのたびに、ぼくはゴロゴロと喉を鳴らして応えた。「大丈夫だよ」って、心の中でそっとつぶやきながら。
昼すぎ、マヤが植物室にやってきて、ミナの手を見て「冷たそうだね」と言った。ミナは「水の中にずっと手を入れていたから」と笑ったけど、その声は少しだけ力がなかった。マヤが「ぼんが膝の上で温めてくれるから大丈夫だよ」と冗談めかして言うと、ミナは「ほんと、助かるよ」と返した。
ぼくは改めてミナの手に顔をすりつけた。猫のぬくもりなんて小さなものかもしれないけれど、今だけは、ぼくの温度が少しでも伝わればいいと思った。人間の冷たい手と、猫のぬくもり。重なる場所には、不思議と静かな時間が流れていく。
午後、ミナが水耕ユニットの葉っぱをなでているのを、ぼくは膝の上から眺めていた。ミナの指先はゆっくりと動き、葉っぱの表面にやさしく触れていた。葉っぱは小さく揺れて、その上に朝の光がきらきら反射している。ぼくはその様子を眺めながら、しっぽの先でミナの手にそっと触れた。ミナはびっくりして、でもすぐに笑った。
「ぼん、ありがとう」ぼくは何も言わずに、しっぽをもう一度揺らした。その動きが、少しでもミナの力になればいい。
夕方、ミナの手は少しだけ温かさを取り戻していた。彼女はぼくの頭を優しく撫でて、「ぼんのおかげだね」とささやいた。その声は、ぼくの耳の奥まで静かに染み込んでいった。
夜になって、ぼくは居住区の窓辺に戻った。星の光は相変わらず静かで、今日も特別なことはなかった。でも、誰かの手が冷たい日には、誰かのぬくもりが必要になる。猫のぬくもりは小さいけれど、きっと、ちょっとだけでも役に立つ。
おやすみ、冷たい手。おやすみ、ぬくもり。また、誰かを温める日を。
朝、ぼくは居住区の窓辺で目を覚ました。星の光は相変わらず静かに差し込んでいて、船内の空気もどこかやわらかかった。でも、今日はなぜか空気の中に冷たいものが混じっている気がした。
ミナはいつも通り、朝から忙しそうだった。今日は水耕栽培ユニットの点検をしているらしい。ぼくは彼女の背中を眺めながら、静かにその作業を見守った。水の流れる音が、ぼくの耳に涼しさを運んでくる。
しばらくして、ミナが作業台の前に座り込んだ。指先を何度もこすり合わせている。その手は、白くて細くて、どこか頼りなさそうだった。ぼくはそっと近づいて、彼女の足元でしっぽを揺らした。
「ぼん、今日はちょっと冷えるね」ミナがそう言いながら、手を見せてくれた。指先が赤くなっていて、触れたらきっと冷たい。ぼくは彼女の膝の上に軽く飛び乗った。ミナは驚いた顔をしたけれど、すぐに微笑んで、ぼくの背中をそっと撫でた。
その手のひらはやっぱり冷たかった。でも、撫でる動きはやさしくて、ぼくの毛を通して少しずつ温もりが伝わってくる気がした。ぼくは体を丸めて、できるだけミナにくっついた。しっぽも膝の上に巻きつけてみた。
ミナはしばらく黙って、ぼくをなで続けた。時々、小さく息を吐く。そのたびに、ぼくはゴロゴロと喉を鳴らして応えた。「大丈夫だよ」って、心の中でそっとつぶやきながら。
昼すぎ、マヤが植物室にやってきて、ミナの手を見て「冷たそうだね」と言った。ミナは「水の中にずっと手を入れていたから」と笑ったけど、その声は少しだけ力がなかった。マヤが「ぼんが膝の上で温めてくれるから大丈夫だよ」と冗談めかして言うと、ミナは「ほんと、助かるよ」と返した。
ぼくは改めてミナの手に顔をすりつけた。猫のぬくもりなんて小さなものかもしれないけれど、今だけは、ぼくの温度が少しでも伝わればいいと思った。人間の冷たい手と、猫のぬくもり。重なる場所には、不思議と静かな時間が流れていく。
午後、ミナが水耕ユニットの葉っぱをなでているのを、ぼくは膝の上から眺めていた。ミナの指先はゆっくりと動き、葉っぱの表面にやさしく触れていた。葉っぱは小さく揺れて、その上に朝の光がきらきら反射している。ぼくはその様子を眺めながら、しっぽの先でミナの手にそっと触れた。ミナはびっくりして、でもすぐに笑った。
「ぼん、ありがとう」ぼくは何も言わずに、しっぽをもう一度揺らした。その動きが、少しでもミナの力になればいい。
夕方、ミナの手は少しだけ温かさを取り戻していた。彼女はぼくの頭を優しく撫でて、「ぼんのおかげだね」とささやいた。その声は、ぼくの耳の奥まで静かに染み込んでいった。
夜になって、ぼくは居住区の窓辺に戻った。星の光は相変わらず静かで、今日も特別なことはなかった。でも、誰かの手が冷たい日には、誰かのぬくもりが必要になる。猫のぬくもりは小さいけれど、きっと、ちょっとだけでも役に立つ。
おやすみ、冷たい手。おやすみ、ぬくもり。また、誰かを温める日を。
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