雑貨屋ヤマーダの日々

ぼん

文字の大きさ
25 / 25

「僕らの町、明日への店先」

しおりを挟む
春の風が、町の空気をやさしく撫でていた。

案内所の前には、見慣れない旅装の人々と、馴染み深い住民たちが肩を並べて立ち、何かを指差しながら楽しげに話している。

雑貨屋の前も、開店前からにぎやかだった。

「山田さん、今日も“幻獣マップ”見せていい?」

「この“香り袋”、前に手紙に書いてあったやつですよね?」

「また来ちゃいました。やっぱり、ここの空気、好きだなあ」

山田は笑いながら、看板を出し、扉を開けた。

「ようこそ。雑貨屋ヤマーダ、今日も開店です」

朝日が棚の上を照らし、商品たちが小さくきらめいた。

町の広場では、住民たちによる“未来を語る集会”が始まろうとしていた。

きっかけは、旅人から届いた一通の手紙。そしてそれに心を動かされた町の人々の連鎖反応だった。

「この町をもっと元気にしたい!観光地として有名になったって、悪いことじゃないと思うの!」

「けど、静かな日常を手放すのは……ちょっと怖いよなあ」

「それぞれの暮らしがあって、その中で町が形作られてきたんだもんね」

若者たち、子どもたち、年配の住民までが輪になり、思い思いの“町の未来”を語る。

山田はその輪の少し外で、静かに見守っていた。

ルファが隣でぽつりとつぶやく。

「昨日の焚き火で、山田が言ってた“守りたいもの”……あれ、きっと、町のみんなにもあるんだね」

「……そうだな。俺の想いは昨日、話した。でも今は、みんなの番だ」

山田は輪の中心に行こうとはせず、耳を澄ませていた。

「私はね、この町に嫁いできたとき、最初は不安でいっぱいだったの。でも、住民のおばあちゃんが“ようこそ”って笑ってくれて──それで、この町が好きになったの」

「俺は子どものころ、近所の店先の紙芝居が好きでさ……こんな場所がずっとあったらいいって、思ってたんだ」

「外の人が来てくれるのは嬉しい。でも、何より“この町に住んでる自分たち”が、笑って暮らせる未来がいい」

誰も否定しない。

誰の声も、真剣だった。

そして、自然と視線が山田に向けられた。

「山田さんは、どう思う?」

山田は、少し笑って応えた。

「……俺は、もう決めてるよ。でも今日は、みんなの声を聞きたくて、ここにいるんだ」

それを聞いて、場にやさしい空気が流れた。

「山田に任せるんじゃなくて、みんなで作っていく……そういう町にしたいよね」

「 “雑貨屋ヤマーダ”が、そういう気持ちの“橋”になってくれる気がする」

誰かがそう言うと、何人ものうなずきが重なった。

「 “変わる”って、誰かに決めてもらうんじゃなくて、自分たちで選んでいくことだよね」

そして、町は少しずつ“未来への一歩”を踏み出し始めていた。

「……というわけで、雑貨屋の一角に“町の伝言板”を作ってはどうでしょうか!」

広場の集会は“アイデア発表会”のような熱気に包まれていた。

「観光客の人も自由に書けるノートとか、ほら、ありますよね。旅の感想とか、町の人へのメッセージとか!」

「 “幻獣マップ”も、山田さんのとこで更新してくれたら、案内所の人たちも助かるって!」

「町の人が手作りした小物とか、棚の一角で展示販売できないかな。ほら“地元愛コーナー”!」

「おいおい、どこまで店の棚を侵食する気だ……!」

山田の思わずのツッコミに、周囲からどっと笑いが起きる。

けれど、その笑いの奥には、確かな想いがあった。

この町に、何かを残したい。この町で、誰かとつながりたい。

それは山田が、この雑貨屋で抱いてきた願いと、同じものだった。

数日後。

雑貨屋ヤマーダの一角に、新しく設けられた“伝言棚”には、すでに色とりどりの便箋が貼られていた。

「今日、この町でプロポーズしました! ありがとう、あたたかい町!」

「幻獣マップ、ほんとに出会えた!感動!」

「山田さんの“ぶっきらぼうだけど親切”な接客、最高でした!」

「え、親切はいいとして“ぶっきらぼう”って誰のこと……?」

棚の下に置かれたノートにも、訪れた人々の言葉が綴られていた。ページをめくるたび、山田はひとり、くすっと笑ってしまう。

その様子を、ルファが背後から覗き込んだ。

「楽しそうだね、山田」

「……まあな。なんか“自分の知らない雑貨屋ヤマーダ”がここにある感じだ」

「……ほら、今日も新しい一日が始まるよ」

山田は一息ついて、カウンターをひと拭きする。

そして、いつものあの言葉を静かに口にした。

「雑貨屋ヤマーダ──今日も開店!」



【終】

ーーーーーーーーーーーーーー

物語はここで終わります。 でも、あなたが読んでくれたことが、この世界に風を吹かせました。最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

没落港の整備士男爵 ~「構造解析」スキルで古代設備を修理(レストア)したら、大陸一の物流拠点になり、王家も公爵家も頭が上がらなくなった件~

namisan
ファンタジー
大陸の南西端に位置するベルナ子爵領。 かつては貿易で栄えたこの港町も、今は見る影もない。 海底には土砂が堆積して大型船は入港できず、倉庫街は老朽化し、特産品もない。借金まみれの父と、諦めきった家臣たち。そこにあるのは、緩やかな「死」だけだった。 そんな没落寸前の領地の嫡男、アレン(16歳)に転生した主人公には、前世の記憶があった。 それは、日本で港湾管理者兼エンジニアとして働き、現場で散った「整備士」としての知識。 そして、彼にはもう一つ、この世界で目覚めた特異な能力があった。 対象の構造や欠陥、魔力の流れが設計図のように視えるスキル――【構造解析】。 「壊れているなら、直せばいい。詰まっているなら、通せばいい」 アレンは錆びついた古代の「浚渫(しゅんせつ)ゴーレム」を修理して港を深く掘り直し、魔導冷却庫を「熱交換の最適化」で復活させて、腐るだけだった魚を「最高級の輸出品」へと変えていく。 ドケチな家令ガルシアと予算を巡って戦い、荒くれ者の港湾長ゲンと共に泥にまみれ、没落商会の女主人メリッサと手を組んで販路を開拓する。 やがてその港には、陸・海・空の物流革命が巻き起こる。 揺れない「サスペンション馬車」が貴族の移動を変え、「鮮度抜群の魚介グルメ」が王族の胃袋を掴み、気性の荒いワイバーンを手懐けた「空輸便」が世界を結ぶ。

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

【魔物島】~コミュ障な俺はモンスターが生息する島で一人淡々とレベルを上げ続ける~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
【俺たちが飛ばされた魔物島には恐ろしいモンスターたちが棲みついていた――!?】 ・コミュ障主人公のレベリング無双ファンタジー! 十九歳の男子学生、柴木善は大学の入学式の最中突如として起こった大地震により気を失ってしまう。 そして柴木が目覚めた場所は見たことのないモンスターたちが跋扈する絶海の孤島だった。 その島ではレベルシステムが発現しており、倒したモンスターに応じて経験値を獲得できた。 さらに有用なアイテムをドロップすることもあり、それらはスマホによって管理が可能となっていた。 柴木以外の入学式に参加していた学生や教師たちもまたその島に飛ばされていて、恐ろしいモンスターたちを相手にしたサバイバル生活を強いられてしまう。 しかしそんな明日をも知れぬサバイバル生活の中、柴木だけは割と快適な日常を送っていた。 人と関わることが苦手な柴木はほかの学生たちとは距離を取り、一人でただひたすらにモンスターを狩っていたのだが、モンスターが落とすアイテムを上手く使いながら孤島の生活に順応していたのだ。 そしてそんな生活を一人で三ヶ月も続けていた柴木は、ほかの学生たちとは文字通りレベルが桁違いに上がっていて、自分でも気付かないうちに人間の限界を超えていたのだった。

半竜皇女〜父は竜人族の皇帝でした!?〜

侑子
恋愛
 小さな村のはずれにあるボロ小屋で、母と二人、貧しく暮らすキアラ。  父がいなくても以前はそこそこ幸せに暮らしていたのだが、横暴な領主から愛人になれと迫られた美しい母がそれを拒否したため、仕事をクビになり、家も追い出されてしまったのだ。  まだ九歳だけれど、人一倍力持ちで頑丈なキアラは、体の弱い母を支えるために森で狩りや採集に励む中、不思議で可愛い魔獣に出会う。  クロと名付けてともに暮らしを良くするために奮闘するが、まるで言葉がわかるかのような行動を見せるクロには、なんだか秘密があるようだ。  その上キアラ自身にも、なにやら出生に秘密があったようで……? ※二章からは、十四歳になった皇女キアラのお話です。

レベルアップは異世界がおすすめ!

まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。 そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。

処理中です...