雑貨屋ヤマーダの日々

ぼん

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「新しい風と町の選択」

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「山田さん、来て来て!案内所が、すごいことになってる!」

朝から走り込んできたのは、近所の子どもたちだった。息を弾ませながら、興奮気味に言葉をつなぐ。

「外に人がいっぱいいて!雑貨屋のこと、話してるの!」

「雑貨屋……って、うちのことか?」

驚きつつも外に出ると、案内所の前や町の広場には見慣れない顔ぶれが増えていた。旅の装いをした男女、手帳を手に取材のようにメモを取る者、小さな荷物を抱えた家族連れまで。

「すみません、この“幻獣マップ”って、ここで配っているんですか?」

「雑貨屋ヤマーダさんって、あの手紙に出てきたお店ですよね?」

山田がぽかんとしていると、案内所のスタッフが小声で説明してくれた。

「どうやら、前に手紙をくれた旅人さんが別の町で“ここの話”をしたらしいんです。手紙が広まって、興味を持った人たちが来るようになって……」

その事実に、胸の奥がじんとあたたかくなる一方で、広場のにぎわいにどこか落ち着かない気持ちも湧いてくる。

「まさか、こんな風に広まるとはな……」

その日の午後には、雑貨屋にも新しいお客が押し寄せた。

「この“空気で選ぶ棚”、ほんとに雰囲気いいですね!」

「旅人が座ったベンチの近くにあった香草、これですね!」

住民たちもそわそわと様子をうかがいながら、対応に追われていた。

「町、だいぶにぎやかになってきたわね」

パン屋の店主が言うと、八百屋の女将が小さく頷いた。

「外の人が来るのは嬉しいけど……なんだか、町の空気が変わってきた気がするのよねぇ」

一方、若者や子どもたちは、目を輝かせていた。

「この勢いで、イベントやろうよ!」

「 “幻獣ツアー”とか“町の思い出体験会”とか!」

「町の特産でお土産作ったらどう?」

提案が次々と飛び交うなか、年配の住民の中には、小さくため息をつく人もいた。

「昔はもっと、静かで穏やかな町だったんだけどな……」

──新しい風が吹けば、誰かにとっては心地よく、別の誰かには強すぎる。

山田は店内のレジに立ちながら、その声のどれもが正しくて、どれもが少し怖かった。

数日後、山田のもとに届いたのは、数枚の提案書。

「町とのコラボで新商品の企画を考えています。ぜひ、雑貨屋ヤマーダ様と一緒に──」

「この町の特色を活かした“観光ルート”に、御店を組み込みたいのです」

「手紙文化をテーマにした“想いを届ける商品”を開発できませんか?」

──どれも魅力的だ。断る理由は、ない。

けれど、何かが引っかかる。

「……これって、本当に“町のため”なのかな」

夜の店内、静まり返った空間の中で、山田は声を落とす。

そんな山田の背中を見つめて、ルファがゆっくり口を開いた。

「山田“変わること”って悪いことじゃない。でも“流される”のはちょっと違うでしょ?」

「……そうかもな。変わるのが怖いわけじゃない。でも、変わったことで、大事な何かを失うんじゃないかって」

「それが“町の良さ”だとしたら──どうする?」

静かな問いが、山田の胸に残った。

その夜、山田は広場に集まった住民たちと、焚き火を囲んで話をしていた。

「なあ、みんな……この町、これからどうなっていくと思う?」

素朴な問いかけに、静かだった輪が少しずつ動き出す。

「若い人が盛り上がってるのは嬉しい。けど、急に観光地みたいになるのは、ちょっと不安だな」

「お客さんが増えるのはいいこと。でも、それで昔からある場所が消えたり、慣れた暮らしが変わるのは、寂しいよね」

「でも、ずっと変わらないままだと、いずれ人が減ってしまうかもしれないわ」

それぞれの声が、交差する。

山田は焚き火の炎を見つめながら、ひとつひとつの言葉を飲み込んでいく。

「俺、この町に来たばっかりの頃は、正直“何もない町だな”って思ってた。でも、今は違う。何もないんじゃなくて“何気ないもの”がいっぱいある町だったんだって、最近やっと分かってきた」

誰かが頷いた。誰かが小さく笑った。

「だから、俺は“変わっていくこと”自体はいいと思う。ただ…… “変わらないでいてほしい部分”も、きっとあるはずなんだ」

それは店の棚にある、子どもの手紙かもしれない。老舗のパン屋の、昔から変わらない香りかもしれない。

誰かのさりげない気配り、笑い声、挨拶の習慣──それこそが、この町の“らしさ”だ。

「じゃあ、その“町らしさ”を、ちゃんと守っていけばいいのね」

そっと声を添えたのはルファだった。

「変化は流れ。でも、舵を取るのは自分たちでしょ?山田がそうしてきたように、町のみんなで進んでいけばいいと思う」

焚き火が小さくパチリと音を立てる。

「……ありがとう、ルファ」

山田は静かに頷いた。

夜遅く、誰もいなくなった店内で、山田は棚を拭きながら、つぶやいた。

「俺は、ただの雑貨屋だ。でも、この店はきっと、町の“かたち”を映す鏡みたいなものなんだろうな」

棚の上には、外の人に人気の幻獣グッズと、町の子どもが描いた「町の宝探し地図」が並んでいた。

「どっちも、この町にとって大事なんだよな……」

山田は一度、大きく息を吐き、そして言った。

「俺は……この町の“顔”を作りたい。誰かに見せるための顔じゃなくて、町のみんなが誇れるような、ちゃんとした顔を」

変わることを恐れるんじゃなく、変わりながら守る道を選ぶ。

それが今、自分にできることだと信じて。

山田は最後に店の灯りを落とし、静かな夜へと歩き出した。

──町は、新しい風とともに“選択”を迫られている。でも、その一歩をどう踏み出すかは、自分たち次第だ。

そしてその決断は、確かに“未来”へとつながっていた。
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