雑貨屋ヤマーダの日々

ぼん

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「手紙がつなぐ想い」

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「山田さーん!見て見て、手紙!旅人さんからの手紙!」

いつもの朝の空気を破るように、子どもが駆け込んできた。手に握られていたのは、少ししわの寄った便箋。

「お、誰からだ?どれどれ……」

子どもから受け取った手紙には、丁寧な文字でこう書かれていた。

『雑貨屋ヤマーダ様と、この町の皆さんへ
先日はあたたかいおもてなし、本当にありがとうございました。
短い滞在でしたが、優しい人々に囲まれた日々は、
まるで夢のようでした。また必ず、この町に戻ってきたいと思っています。
それまで、皆さんどうかお元気で。』

「うわ……めっちゃ嬉しいな……」

手紙を読み終えた子どもが言う。

「これ、僕、宝物にする!」

「いやいや、宝物にするのもいいけどさ、返信は?」

「えっ、返事、書いていいの!?」

「もちろん!むしろ、みんなで書こうぜ。町のみんなから旅人に向けて“お返しの手紙”だ!」

その日から、町では小さな手紙ブームが巻き起こった。

「山田さん、これ、幻獣マップを描いたやつ。あの旅人さんにも見せたくて!」

「こっちは、うちの店で出した“蒸気クッキー”の試作品の話!」

「私は、あの人が座ってたベンチのとこに咲いてた花の名前、調べたから書くわね」

子どもたちは自分の町を“自慢”するように、手紙を綴った。

大人たちは、自分の暮らしの中の何気ない一幕を丁寧に言葉にした。

そして、ルファはというと──

「この“香り袋”、手紙に忍ばせといて。開いたときに“町の風”を感じてもらえるように」

「演出がプロすぎる……」

「ついでに、この“幻獣シール”もどうぞ。貼っておけば“また帰ってこれる”っていうおまじないになるよ」

「それ、うちの新商品じゃん!」

住民たちから集まった手紙や小さな贈り物は、次第に山積みになっていった。

──町の声が、紙の上に折り重なっていく。

「……すごいな。俺、この町に来てから、こんなに手紙見たの初めてだ」

気づけば、山田自身も便箋の前に座っていた。

“旅人さんへ”
そう書かれたその手紙に、彼は静かに想いを綴っていく。

『この町で暮らすうちに、僕自身も少しずつ変わってきました。
最初はよそ者だった僕が、今は“ただの店主”として、町の景色に溶け込んでいる。
この店は、町の誰かの困りごとを受け止め、笑顔を見つける場所になりつつあります。
あなたが感じたあたたかさは、きっとこの町に流れている空気そのもの。
またいつでも戻ってきてください。僕たちはここで待っています。』
書き終えたとき、どこか少し、心が軽くなった。

集まった手紙は、子どもたちの落書き入りのものから、達筆な老人の昔語りまで、まさに“町の記憶”そのものだった。

「全部で……三十通超えたぞ」

「すごっ、これはもう“手紙セット”って呼べるね」

「重さ的には……そこそこあるな。どうやって渡そう?」

悩んだ末、ちょうど旅の商隊が町を通るという情報を聞きつけた山田は、そこの隊長に頼むことにした。

「この包み、町から“ある旅人”への手紙です。次の都市に寄るとき、宿に預けてもらえませんか?」

「もちろん任せてくれ。こういうの、届けるの好きなんだ」

隊長はそう言って笑い、荷馬車の中に手紙の包みを大事そうに積み込んだ。

その瞬間、町の人たちから自然と拍手が起きた。

その夜、山田は一人、店の奥で手紙を読み返していた。

「……本当に、いろんな人に支えられてるな、俺」

雑貨屋を開いた意味。

異世界で暮らす理由。

ここで生きていく覚悟。

それが、少しずつ形になっていることを感じていた。

「店って、物を売るだけじゃないんだよな。人の想いを受け取って、また誰かに渡す──そういう場所になってる」

「それでこそ“雑貨屋ヤマーダ”って感じするよね」

背後から声がして振り返ると、ルファが湯気の立つカップを差し出してくれた。

「今夜は、あったかい香草茶にした。ほら“旅に出る前に飲むと無事に帰れる”って言われてるやつ」

「……それ、あの旅人にも入れとくべきだったな」

「大丈夫、ちゃんと袋に入れたよ。開けた瞬間、香りで帰りたくなるはず」

ルファは、いつも抜け目がない。けれど、その優しさは、たしかに“町の誰か”になった証でもある。

二人で湯気を眺めていると、店の前で子どもたちの声がした。

「山田さーん、最後に、みんなでお祈りしたいの!」

「手紙がちゃんと届きますように、って」

慌てて出ると、そこには紙を空に掲げた子どもたちの姿。

便箋の形に折られた紙飛行機や、旅人宛のメッセージカードを手にしている。

「せーのっ」

「また会える日まで!」

空に掲げられた紙たちは、風に揺れながら、月明かりの中でやさしく揺れていた。

「……ああ、絶対届くよ」

山田はそう呟きながら、胸の中で小さな決意を灯す。

「この町で“待ってる人”になれるなら、それだけで充分だ」

その夜、雑貨屋の看板はいつもより少し明るく輝いて見えた。
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