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神話時代:祈りの丘・最初の巫女
【祈りの丘・最初の巫女】 第十話:「祈りの物語のはじまり」
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名を授かったあの日の空気は、まだ胸の奥に静かな余韻となって残っていた。
エルナ――その名が私に落ちてから、村も森も、ほんの少しだけ柔らかい光で満たされている気がする。
巫女という役割の実感はまだ輪郭を持たないけれど、土の匂いも、光の揺れも、精霊たちの気配も、昨日よりあたたかい。
私はその余韻のなかで、静かに新しい朝を迎えていた。
広場では、草の上を駆ける子供たちの声。
焚き火のそばで支度をする大人たちの穏やかな気配。
世界樹の葉がそよぎ、森の奥から鳥の声がこぼれる。
そのとき、ミレアがすこし迷ったような表情で近づいてきた。
「ねえ……もう『巫女様』って呼んだほうがいいの?」
私は思わず苦笑する。
「ううん。私はただエルナって名をもらっただけ。だからエルナでいいよ」
「そ、そうなんだ……よかった」
ほっと息をつくミレアの肩が、朝の光に揺れた。
草の上から顔を覗かせたバルクが、小さく笑う。
「なんかさ、前よりやわらかい雰囲気になった気がする」
ミレナも薪を抱えたまま近づき、静かに頷いた。
「うん。エルナのそばにいると、不思議と安心するよ」
その言葉に、胸の奥で淡いあたたかさが広がる。
新しい名と役割が、私だけじゃなくて、この場所にも少しずつ根づいていっている。
特別な儀式をしたわけじゃないのに、朝の光みたいに自然と。
森の奥では、葉に溜まった露がきらりと光り、小さな動物たちの足音が草を揺らす。
世界樹の根元では、淡い光をまとった精霊たちが静かに漂い、暮らしのはじまりを見守っているようだった。
そのあと、いくつもの日が静かに過ぎていった。
村の営みも、森の呼吸も、ゆっくりとやさしい変化を帯びて流れていく。
大人たちの表情も、どこかほっとしたように見える。
エルマは薬草を摘みながら、私に柔らかく微笑んだ。
ミレナは焚き火の世話をしながら「今日は世界樹の根元に花が咲いてたよ」と教えてくれた。
ひとつひとつの営みが、胸の奥にゆっくり溶けていくようだった。
世界樹のそばに座ると、土の温もりが掌に伝わる。
あたたかな大地の鼓動。
その奥には、私が名も持たない存在だったころの記憶や、観察者として見つめてきた祈りの気配がやわらかく重なっていた。
私はふと、胸の内で思い返していた。
――かつて創造主として『祈りのはじまり』と『祈りの終わり』を何度も見届けてきた。
その光景が、朝の光に溶けるように浮かぶ。
けれど今は、自分の身体を通して、新しい物語の入口に立っている。
名を持つということ。
役割を授かるということ。
世界と自分が静かに結びついていく、そのあたたかさ。
それを、今になってようやく、ほんとうに知った気がした。
やがて村と森に、いくつもの新しい営みが重なっていく。
丘の上では、バルクが仲間と木の枝を拾い集めていた。
ミレナは花を摘み、ミレアは森の端で鳥たちにささやくように歩いている。
エルマは焚き火のそばで道具を整え、ゴドーは畑の土を耕していた。
みんな、それぞれの小さな仕事をこなしながら、ときどき世界樹を見上げていた。
そのまなざしはどれも静かで、どこか祈りのようだった。
私はその姿を見つめる。
村の営みと世界樹の息づかいが、まるでひとつの流れになっていくのが分かった。
世界樹の周りでは、淡い光に包まれた精霊たちが、枝や根のあいだを泳ぐように漂っている。
風が葉を揺らし、森の隅々まで新しい命の気配が広がっていった。
精霊たちは言葉こそ持たないものの、空気と光のうねりとなり、そっと私の肩に触れては消えていく。
それはまるで祝福の仕草のようで、胸の奥がふわりと温かくなった。
私はその一瞬一瞬を、丁寧に受け止めていく。
巫女として歩き始めた日々は、大きな出来事こそなかったけれど、世界に在ることそのものが祈りのように感じられた。
◇◇◇
ある日のこと。
村の子供たちが小さな集まりをつくり、世界樹の根元へ花を飾りに来てくれた。
「エルナ、この花、きれいでしょ」
村の少年が胸を張って差し出し、村の女の子も横で微笑む。
私はその花束を両手で受け取る。
「ありがとう。世界樹も、きっとよろこんでいるよ」
女の子は花を添えながら、ぽつりと呟いた。
「……エルナがいると、村の空気が前よりあたたかい気がする」
その言葉に、私は少しだけ視線を落とした。
村の空気。森の匂い。精霊たちのさざめき。
どれもが昨日より穏やかで、未来へ向かって流れていく。
観察者として、私は数えきれないほどの『祈りの始まり』を見届けてきた。
けれど今は、その物語の内側で小さな未来を共に育んでいる。
名を得たことで、世界と自分がゆるやかに結びついていく感覚がある。
それは不思議で、そしてあたたかかった。
◇◇◇
村の人々は、それぞれの営みのなかで新しい日々を紡いでいく。
世界樹の葉陰で休む者。
森の奥で新しい道を探す者。
精霊たちの気配に励まされながら、今日を生きる者。
この世界の一部として、誰もが静かに未来を歩んでいた。
私はそっと深く息を吸う。
土の温もりと、遠くでかすかに響く精霊の気配。
名を持つことの重みも、世界樹とともに過ごす日々のぬくもりも、どれもがこれから先の未来へ静かにつながっていく。
私は胸の奥で、祈りをひとつ紡いだ。
――この場所に生きる命が、これからも穏やかでありますように。
村と森と精霊たち、そして世界樹とともに、祈りの物語が未来へ続いていきますように。
朝の光が、世界樹の梢にやさしく降り注いでいた。
エルナ――その名が私に落ちてから、村も森も、ほんの少しだけ柔らかい光で満たされている気がする。
巫女という役割の実感はまだ輪郭を持たないけれど、土の匂いも、光の揺れも、精霊たちの気配も、昨日よりあたたかい。
私はその余韻のなかで、静かに新しい朝を迎えていた。
広場では、草の上を駆ける子供たちの声。
焚き火のそばで支度をする大人たちの穏やかな気配。
世界樹の葉がそよぎ、森の奥から鳥の声がこぼれる。
そのとき、ミレアがすこし迷ったような表情で近づいてきた。
「ねえ……もう『巫女様』って呼んだほうがいいの?」
私は思わず苦笑する。
「ううん。私はただエルナって名をもらっただけ。だからエルナでいいよ」
「そ、そうなんだ……よかった」
ほっと息をつくミレアの肩が、朝の光に揺れた。
草の上から顔を覗かせたバルクが、小さく笑う。
「なんかさ、前よりやわらかい雰囲気になった気がする」
ミレナも薪を抱えたまま近づき、静かに頷いた。
「うん。エルナのそばにいると、不思議と安心するよ」
その言葉に、胸の奥で淡いあたたかさが広がる。
新しい名と役割が、私だけじゃなくて、この場所にも少しずつ根づいていっている。
特別な儀式をしたわけじゃないのに、朝の光みたいに自然と。
森の奥では、葉に溜まった露がきらりと光り、小さな動物たちの足音が草を揺らす。
世界樹の根元では、淡い光をまとった精霊たちが静かに漂い、暮らしのはじまりを見守っているようだった。
そのあと、いくつもの日が静かに過ぎていった。
村の営みも、森の呼吸も、ゆっくりとやさしい変化を帯びて流れていく。
大人たちの表情も、どこかほっとしたように見える。
エルマは薬草を摘みながら、私に柔らかく微笑んだ。
ミレナは焚き火の世話をしながら「今日は世界樹の根元に花が咲いてたよ」と教えてくれた。
ひとつひとつの営みが、胸の奥にゆっくり溶けていくようだった。
世界樹のそばに座ると、土の温もりが掌に伝わる。
あたたかな大地の鼓動。
その奥には、私が名も持たない存在だったころの記憶や、観察者として見つめてきた祈りの気配がやわらかく重なっていた。
私はふと、胸の内で思い返していた。
――かつて創造主として『祈りのはじまり』と『祈りの終わり』を何度も見届けてきた。
その光景が、朝の光に溶けるように浮かぶ。
けれど今は、自分の身体を通して、新しい物語の入口に立っている。
名を持つということ。
役割を授かるということ。
世界と自分が静かに結びついていく、そのあたたかさ。
それを、今になってようやく、ほんとうに知った気がした。
やがて村と森に、いくつもの新しい営みが重なっていく。
丘の上では、バルクが仲間と木の枝を拾い集めていた。
ミレナは花を摘み、ミレアは森の端で鳥たちにささやくように歩いている。
エルマは焚き火のそばで道具を整え、ゴドーは畑の土を耕していた。
みんな、それぞれの小さな仕事をこなしながら、ときどき世界樹を見上げていた。
そのまなざしはどれも静かで、どこか祈りのようだった。
私はその姿を見つめる。
村の営みと世界樹の息づかいが、まるでひとつの流れになっていくのが分かった。
世界樹の周りでは、淡い光に包まれた精霊たちが、枝や根のあいだを泳ぐように漂っている。
風が葉を揺らし、森の隅々まで新しい命の気配が広がっていった。
精霊たちは言葉こそ持たないものの、空気と光のうねりとなり、そっと私の肩に触れては消えていく。
それはまるで祝福の仕草のようで、胸の奥がふわりと温かくなった。
私はその一瞬一瞬を、丁寧に受け止めていく。
巫女として歩き始めた日々は、大きな出来事こそなかったけれど、世界に在ることそのものが祈りのように感じられた。
◇◇◇
ある日のこと。
村の子供たちが小さな集まりをつくり、世界樹の根元へ花を飾りに来てくれた。
「エルナ、この花、きれいでしょ」
村の少年が胸を張って差し出し、村の女の子も横で微笑む。
私はその花束を両手で受け取る。
「ありがとう。世界樹も、きっとよろこんでいるよ」
女の子は花を添えながら、ぽつりと呟いた。
「……エルナがいると、村の空気が前よりあたたかい気がする」
その言葉に、私は少しだけ視線を落とした。
村の空気。森の匂い。精霊たちのさざめき。
どれもが昨日より穏やかで、未来へ向かって流れていく。
観察者として、私は数えきれないほどの『祈りの始まり』を見届けてきた。
けれど今は、その物語の内側で小さな未来を共に育んでいる。
名を得たことで、世界と自分がゆるやかに結びついていく感覚がある。
それは不思議で、そしてあたたかかった。
◇◇◇
村の人々は、それぞれの営みのなかで新しい日々を紡いでいく。
世界樹の葉陰で休む者。
森の奥で新しい道を探す者。
精霊たちの気配に励まされながら、今日を生きる者。
この世界の一部として、誰もが静かに未来を歩んでいた。
私はそっと深く息を吸う。
土の温もりと、遠くでかすかに響く精霊の気配。
名を持つことの重みも、世界樹とともに過ごす日々のぬくもりも、どれもがこれから先の未来へ静かにつながっていく。
私は胸の奥で、祈りをひとつ紡いだ。
――この場所に生きる命が、これからも穏やかでありますように。
村と森と精霊たち、そして世界樹とともに、祈りの物語が未来へ続いていきますように。
朝の光が、世界樹の梢にやさしく降り注いでいた。
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